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生き方

「人生が充実している友人」への対抗心で生きづらくなる人

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2021年03月29日 公開 2024年12月16日 更新

権力や名声で幸せになれるとは誰も思っていないのに、なぜ人は依存症になってしまうのか。それは「安心」を与えてくれるのが「力」であると思っているからである。人生相談を長年受けてきた加藤諦三氏は、毎日漠然とした不安を抱えて生きているのは「自分になりきれていない」からだと語る。現代人にとっての幸せとは何か。

※本稿は、加藤諦三著『人生を後悔することになる人・ならない人』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです。

 

「どこまで自分自身になれるか」こそが人生の勝負

自分を理解すると幸せの扉が開く。人は、心理的にいえば安全第一で、傷つくことを避ける。傷つくことから逃げる。普通の人は安全第一で、成長欲求と退行欲求の葛藤で退行欲求を選択する。

ことに劣等感の強い人は、どうしたら傷つかないかということばかりを考えていて、自己実現の心の姿勢がない。成長欲求を選択しない。その結果、自分の能力を使う喜びの体験がない。

人間の退行欲求のすさまじさについて、人はあまり考えない。赤ん坊は目を覚ましたときに誰もいないと泣く。それは無意識で保護と安全を求めているからである。

人はなぜ権力依存症、名声追求依存症になるのか。権力や名声で幸せになれるとは誰も思っていない。しかしそれを求める。それは保護と安全を与えてくれるのが「力」であると思っているからである。

権力や名声ばかりではない。恋愛依存症も同じである。依存症で幸せになれると思っている人など一人もいない。でも人は依存症になる。

人生の課題は「退行欲求」からの解放である。つまり「どこまで安全第一から解放されるかが、どこまで自分自身になれるかということ」である。自分の人生に課された問題を一つ一つ解決していくことが「自分自身になること」である。

 

悩み続けることは人生を救わない

怒りの感情で子どもに手を出しながら、「躾のため」という合理化をする。自分が不安だから離婚しないのに「子どものために離婚しない」という。夫が働かないから離婚した、夫がアルコール依存症だから離婚した、というが本当は嫌い。

本当のことを認識することを避けている。これこそ成長を避けることである。そして悩み続ける。しかし悩みが脳を捕らえているのは、ただ脳がそのようなホルモンで満たされているからである。

脳を調べてみると、悩んでいる人は脳のcingulate cortex(帯状皮質)という部分が活動しすぎている。これを、「毒による恍惚状態」という。この「毒による恍惚状態」を乗り越えるのが、成長である。

だから成長は苦しい。そんなに生やさしいものではない。それは薬物の魅力を乗り越えるようなものである。薬物依存症の治療をするのがいかに大変かということは、薬物専門家以外でも承知しているだろう。それくらい成長は大変なのである。

マズローのいうことを一口でまとめれば「成長することは、通常、人が考えているよりもはるかに困難に満ちたものであることを、私たちは知らなければならない」ということであろう。

まさにその通りである。人間は幸せになれるようにプログラムされているわけではない。生きることを完全に舐めて考えている現代人に必要なのは、人間性の理解である。

幸せになりたいと願いさえすれば、幸せになれると考えている幼稚さである。基本的欲求が満たされないと、人はなんとしてもそれを満たそうとする。普通の人は、なかなかそれを絶ち切って前に進めない。

悩んでいる人にとって悩むことが最大の救いというのは、退行欲求のすさまじさを表している。悩んでいる人は退行願望を満たそうとしている。成長しようとしているのではない。成長することで問題を解決しようとしているのではない。だから悩んでいることが一番楽である。

悩んでいる人自身が、自分の心の中に隠された敵意や隠された憎しみに気がついて、その処置を考える以外に、悩みの解決方法はない。人は、「安全を求める気持ち」と「成長を求める気持ち」に引き裂かれている。

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頭で考えて幸せになろうとしても無理

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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