ホームレスの支援を行う、認定NPO法人Homedoor(ホームドア)理事長の川口加奈氏は、14歳の時に参加した釜ヶ崎(大阪市西成区)の炊き出しでの経験をきっかけに、路上生活者にかかわる活動を始める。
しかしある時、ホームレス問題を知ってもらおうと、中学校の全校集会で作文を発表するも生徒からの関心を集められず失敗を味わった。さらに、ホームレスは“自業自得”だという意見を否定しきれない自分に気づき、アクションを起こせなくなっていたという。
現在、Homedoorは“ホームレス状態の人が撮影した写真集”の出版を目指したクラウドファンディング(カメラマンはホームレスのおっちゃんたち!写真集出版で支援の輪を広げたい。)を行っている。ホームレスの方の目線で撮影された個性ある写真で、この課題を理解してもらうきっかけに繋げたいという。
本稿ではそんな川口氏の著書『14歳で"おっちゃん"と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」』(ダイヤモンド社)では、「夜回り」に参加した際に知った“ホームレスの実際の姿”について話す。
※本稿は、川口加奈 著『14歳で"おっちゃん"と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」』(ダイヤモンド社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「夜回り」で聞いた衝撃の数字
まずは私自身、もっとホームレス問題のことを知る必要があるなと痛感していた。
そんな矢先のことだった。学校のボランティア部の友達が、今度初めての取り組みとして、ホームレスの人が寝ているところに、お弁当を配って回る夜回り活動というものに参加するというのだ。
それは、ぜひとも行きたいと思い立ち、友達に懇願した。すると、ボランティア部に入らないと活動には参加できないというので、いつまでもベンチ部員だったバスケ部をあっさり辞め、ボランティア部に入部することにした。
夜回りには保護者の同意書を持ってきてくださいと言われたが、もちろん私は自分で書いた。なんとなく、まだ親には言えず、バスケ部の合宿と偽り、釜ヶ崎に行った。
ボランティア部の中でも、夜回りに参加したいというメンバーはとても少なく、中学生4人と引率の先生で参加した。19時頃に集合し、おにぎりを100個ほどつくってラップした。
つくり終わったのは21時。まだホームレスの人たちは寝床についていないからと、1時間ほど待って出発することになった。その間、団体の人から衝撃的な数字を聞いた。
「年間213人。」
これは当時、大阪市内の路上で凍死や餓死で亡くなった人の数だ(大阪市におけるホームレス者の死亡調査より:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/50/8/50_686/_pdf)。
大阪市内だけでそんなに亡くなっているのか――。心底驚いた。私はこの数字を聞くまで、心のどこかでホームレスは怠けたくてホームレスになったんじゃないか、ラクしたいからホームレスしているんじゃないか、そういう思いが拭いきれていなかった。
なぜなら、私が朝、通学するときに見かけるホームレスの人は、まだ寝ていたり、朝からお酒を飲んでいたりしたからだ。自由気ままなイメージがあった。
「ホームレスの人は、怠けたくて怠けているのか」
その疑問を、団体の人に投げかけた。すると、こう返事が来た。
「ホームレスの人は働いていない、怠けていると言われがちですが、そもそも、7割近くのホームレスの人たちは働いています。廃品回収、つまり、缶集めや段ボール集めです。それは、家庭からゴミが出たあとの夜中に集め回らなければいけません。
だから、ホームレスの人の多くが昼夜逆転の生活を送っているんです。きっとあなたが見たホームレスの人は、ひと晩中缶を集めていた人で、1日の楽しみである働いたあとのお酒を飲んで、今から寝ようとしているところだったんじゃないかしら」
しかし疑り深い私の中では、また新しい疑問が浮かび上がる。
それだったら、お酒は我慢して、その分貯金して、家を借りたらいいんじゃないだろうか。するとまた、こう教えてくれた。
「廃品回収というのは、10時間集めて回っても、平均すると1000円にも満たないような仕事です。時給でいうと100円。割に合わないけど、ホームレスの人たちにはその仕事しかないんです。
そんな中での唯一の楽しみが、仕事終わりのお酒です。そのお酒も、100円くらいのカップ酒です。そのくらいの楽しみがないとやっていられないんじゃないかしら。
また、寒い日に外で寝るためには体を温めて寝やすくしないと、とてもじゃないけど寝られません。そのためにお酒を飲むっていう人もいるんです。もちろん、お酒を飲んで寝るのが体によくないことなんて、みんなわかっているんだけど」
話を聞いていると、確かにそうだと思った。年間200人以上も亡くなり、10時間集めても1000円にしかならないという廃品回収くらいしか仕事がない。
路上生活というのがいかに過酷で大変なものなのか、いよいよわかってきた気がした。
――誰がやりたくて、ホームレスをやっているんだろうか。
――誰がなりたくて、ホームレスになっているんだろうか。