いつも自由にマイペースで過ごす猫。時にまわりの空気を読み、ストレスを抱えながら生きる私たち。正反対な存在のようですが、猫に学べることはたくさんありそうです。本稿ではネコ心理学者の高木佐保さんが、猫をお手本とした生き方を紹介していきます。
※本稿は、『PHPスペシャル』2021年5月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。
野性味あふれる猫に学べること
忙しく過ごしているうちにあっという間に通り過ぎていく毎日。息つく間もなく働いて日々疲弊しきっている人も多いかと思います。そんな毎日を送っていると、お家でゆったり過ごし、どこか達観したような顔をしている猫を見ると、うらやましくなる人も多いはずです。
当たり前ですが、人と猫は全然違う社会構造をもっています。人はとても社会的な動物で、家族という社会を中心に、学校・会社・趣味など、とても多くの社会の中で生活しています。
人以外の霊長類を見ても、ここまで複雑な社会を有している種は少なく、高度に発達した"考える力"は、同じように発達した社会によって形づくられているとする学説もあります。
たとえば目の前に大きな石があるとして、それを動かさなければならないとしましょう。しなければならないことは一つ。人力や機械を使ってその石をどければいいだけです。
ところがそれが「人」になるとどうでしょうか。その人にどいてもらうにはたくさんの作戦が考えられます。まずその人との関係性によって敬語を使うかフレンドリーに話しかけるかが異なります。さらに話しかけた際の相手の表情によっても、言葉遣いや態度をオンタイムで変更する必要があります。
このように、物理的な事象の処理に比べて、人が絡む社会的な事象の処理は非常に複雑です。そのため、人の脳は大きく発達したと言われています。複雑な社会に属す私たちは、過度に他人を気にする傾向にあります。そうすると最終的には疲れてしまい、ストレスの原因になります。
一方で猫はどうでしょうか。猫の祖先種はリビアヤマネコというヤマネコで、単独性です。親離れしたあとは基本的には単独で生活します。つまり、この点では極度に社会的な種である人とは対極な存在なのです。
リビアヤマネコから猫になったあともその性質は受け継がれているので、猫は基本的には単独で生活をします(エサの質や量によっては集団を形成することもあります)。この点、同じ伴侶動物(人間と生活を共にする動物)の犬とは大きな違いがあります。彼らの祖先種であるオオカミは群れで生活を行なう社会的な動物だからです。
人間とは対極の社会構造をもつと言ってもよい猫から、生き方のヒントを探ってみましょう。
思考編1:自立心を旺盛に
猫は「達観している」「人に過度に依存しない」というイメージをもっている人も多いかと思います。そのイメージは、科学的に言っても正しいです。というのも、猫は人と共生する伴侶(家畜)動物でありながら、野性味を残しているからです。
研究者の中には、猫は完全には家畜化されていない半家畜化動物と言う人もいます。猫は農耕が発達し穀物を貯蔵するようになったときに、その貯蔵されている穀物を狙うネズミ捕りとして人との共生がスタートしました。人側も猫に狩りをしてほしいと考え、人懐っこい個体を人為的に繁殖することをしなかったため、野性味が残っているのです。
また、犬は蓋がしまっていて自分ではおいしいごはんがとれないときに、人に視線を向けることが研究からわかっていますが、猫は人に視線を向けることなく最後まであきらめずにごはんの蓋をあけようとし続けます。
私たちも、他人に過度に甘えたり、頼ったりすることなく、自立心をもっていたいものです。
思考編2:未来を悲観しない
野性味を残している猫は、遠い過去や未来について後悔したり悲観したりすることはないと思われます。というのも、野生の猫の周りには危険なことが溢れているからです。そのような環境では、10年後の未来について考える暇はありません。
ここには寿命も関係していると思います。人が10年後の未来についてあれこれ考えてしまうのは、10年後も生きている保証があるという、平和な社会の現れなのかもしれません。
また、猫は高いところに登ってゆっくりすることが大好きです。高いところは自分の身を守れるだけでなく、侵入者がいないかを監視するのに適している便利な場所だからです。
私たち人間は未来を心配する一方で、時に物事を短絡的に考えてしまいますが、猫が遠くを見渡すように、俯瞰した視点をもてるようになりたいですね。