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生き方

夫の浮気が発覚しても...離婚できない女性を縛る「幼少期の記憶」

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2021年10月29日 公開 2024年12月16日 更新

夫に浮気をされながら、それを我慢している女性は多い。もちろん妻は夫に腹を立てているが我慢しているのである。それはなぜなのか? 加藤諦三氏はこのような場合、幼少期に劣等感を抱えることになった可能性が高いと指摘する。本稿では幼少期の記憶が人生に多大な影響を与える事に警鐘を鳴らす一説を紹介する。

※本稿は、加藤諦三著『人生の悲劇は「よい子」に始まる』(PHP文庫)より一部抜粋・編集したものです。

 

「良いことをしたら褒められる」方式のワナ

小さい頃を思い出してみよう。誰でも家の手伝いをしたりして、ほめられた経験があるはずだ。弟の世話をするとほめられる。庭の掃除をするとほめられる。親の虚栄心を満たした時も同じだ。成績がいいと親が嬉しがる、運動会で優勝すると親が喜ぶ。自慢の種になると可愛がられる。

しかし、ここには問題がひそんでいる。そのように親の役に立つ時だけ、親の虚栄心を満足させた時だけほめられると、子供はそうでない時の自分は意味がないのだと感じるようになる。役に立たない、自慢されない自分は、愛されるはずはないと思い込んでしまうのだ。

だからいつも、親を嬉しがらせることで認めてもらおう、可愛がられようと努めることになる。この傾向は、大人になるにつれ、さらに拡大されていく。人に愛されるためには、相手の虚栄心を満足させなければならない。何か相手の役に立たなければいけないと思い込む。

ただ一緒にいることがお互いに意味があるのだ、ということが理解できない。それでは何か落ち着かない、相手に申し訳ないような気持ちになってしまうのだ。このような人の困った点は、自分は役に立ち「さえ」すれば相手に気に入られるのだという確信を持ってしまっていることである。

子供のうちはまだよいが、問題は大人になって周囲の人が変わった時である。それでもその人は自分が気に入られるためには、相手の役に立ちさえすればいいのだと思う。そしてひたすら相手のために何かをしてあげようとする。しかし、相手がいつもそのようなことを望んでいるとは限らないのだ。

 

「私がこんなにつくしているのに...」

たとえば、子供の頃よく家の手伝いをしてほめられていた人が、大人になって結婚したとする。その人は、やはり家のことをしさえすれば、配偶者に気に入ってもらえると思い込んでいる。

だが一方、配偶者がそのようなことより、一緒にどこかへ出かけることを望んでいたらどうだろう。相手の情緒的成熟を望んでいる、あるいは楽しむ能力を期待する、一緒に音楽会に行きたい、一緒に酒を飲みたい、いろいろ生きることを一緒に楽しんでいきたい、というように。

しかし、配偶者のこの希望が理解されることはまずないだろう。なぜならこの人は、家のこと「さえ」していれば配偶者に気に入られると確信してしまっているからである。ところが配偶者は喜んでくれない。

そこで何かおかしいと気づけばまだいいが、たいていの人は、気に入られるためにもっと精を出して役に立とうと頑張ることになる。相手の好意が欲しいから一生懸命つくすのに、その効果がない。するとそこで怒りだす。

「私がこんなにつくしているのに」
「俺がここまで犠牲になって家のことをしているのに、何でお前は……」

というわけだ。どうして自分がもっと気に入られ、評価されないのか理解できない。そして不満を感じ、相手に面白くない感情を持つようになる。

人間関係をうまくやるためには、ただ単に相手の役に立とうとするだけではなくて、自分が心理的に成長することが必要である。見返りを期待してするのでなく、純粋に相手の役に立つことが嬉しくなれば、相手にも好感を持たれ、時には感謝される。自然と人間関係もうまくいくようになる。

しかし心理的に未成熟な人が、気に入られたい、評価されたいという動機から相手の役に立とうとすると、どうしても恩着せがましくなる。それでは相手も何となく不愉快なだけである。自分がこんなにしているのだということを誇示されるからである。

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好かれたいのに、嫌われる皮肉

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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