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生き方

がんで夫を亡くし、娘と2人きりになった女性を支えた「珈琲豆店の猫」

佐竹茉莉子

2022年01月12日 公開 2022年01月17日 更新

 

ミーがいてくれたから

そんな平和な一家の生活が暗転したのは、ミーがやってきて1年たとうとする頃。

夫に、ステージ4のすい臓がんが見つかった。

つらい抗がん剤治療をしながら、入退院を繰り返した10か月。夫は、どうしようもない苛立ちを、ときに、娘やミーにぶつけることもあった。それでも、大好きなお父さんの最後の日々に、ミーはそっと寄りそった。

夫が旅立ったとき、娘はまだ高校生だった。ふたりで、いったいどうやって生きていこう……。心細くて、不安で、まるで先が見えなかった。

あの絶望の日々を乗り越え、今こうしてお店を続けていられるのは、ミーがいてくれたからと、和子さんは振り返る。

「猫が1匹、家の中にいるだけで、ただそれだけなんだけど、家の中を明るくしてくれたんです」

あるとき、客の一人が和子さんに聞いた。  

「ミーちゃんって、和子さんにとって娘みたいなもの?」

和子さんは明快に答えた。

「ミーは、同志かな。一緒に人生を乗り越え、歩んでいく同志!」

 

ミーに元気をもらう人たち

お店は10時にオープンだ。ミーは、開店前の忙しいときに限って甘えてくる。片手間に撫でようものなら、「気持ちが入ってない!」とばかり、猫パンチが飛んでくる。

「ミーちゃん、お母さんはミーちゃんのご飯代やトイレの砂代を稼ぐために働いてるんだよ」

そう言い聞かせても、素知らぬ顔だ。

社会人になった娘はこう言う。「お母さんはミーちゃんにとってもやさしく話しかけるけど、お客さんにもその話し方をするといいと思うよ」  

サバサバな和子さんの接待と、コーヒーの味に惹かれて、きょうも、客がふらりと入ってくる。「ミーちゃんは元気にしてる?」と聞く人も多い。

閉店してドアが閉まっても、この店はシャッターを下ろさない。夕暮れ、深夜、明け方、朝の通勤時。ミーは、気が向いた時間に、ガラス越しの町の景色を楽しむ

「ミーちゃん、ただいま。きょうは暑かったね」
「ミーちゃん、まだ起きてたの。もうおやすみ」
「おはよう、ミーちゃん。行ってきまーす」

ガラス越しにミーに元気をもらっている人がたくさんいるのを、和子さんは知っている。こわもてのおじさんがミーに目尻を下げて話しかけているのを目撃したこともある。

小さな店だけど、まだまだこの駅前でがんばりたいと、和子さんは思う。同志ミーとともに。ミーは、ただそこにいてくれるだけでいい。

 

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