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生き方

「リツイートしたら1万円」お金配り行為にイラッとしてしまう意外な理由

石川幹人(明治大学教授)

2022年03月11日 公開 2024年12月16日 更新

最近、twitter・ネットニュースなどを見ていると「抽選で1万円支援します」「リツイートしたらお金を出します」「新興国に大量のお金を支援」など太っ腹な提案をする事業家がいます。こうした行為はお金という貴重な財産を分けてくれる行為なのですから、歓迎されて然るべきですが「不公平だ」「他のことにお金を使え」など不平不満の声も聞きます。

なぜ良い行動なのに糾弾されてしまうのでしょうか。その理由は「人間の進化」と「現代社会」のズレにあると明治大学教授で進化心理学者である石川幹人氏は言います。いい人なのに嫌われる人が生まれる理由はなぜなのか?その理由を解説します。

※本稿は石川幹人著『いい人なのに嫌われるわけ』(扶桑社)より抜粋・編集したものです。

 

シカはツノ、ヒトは寄付でアピール

大金持ちが自分の事業で儲けたお金を新興国のプロジェクトに寄付をした。すると、周囲の人からは「よその国よりも自国で困窮している人を助けないのか」「あいつは偽善者だ」とバッシングされてしまう。

本来、「お金を寄付する」という行為は素晴らしいことなのに、実際にそういう行為が行われると、称賛ではなく非難の声が多くなってしまうのはなぜでしょうか。それは、寄付行為が「誇示」と受け止められてしまうことが原因です。

動物の進化の歴史には、「ハンディキャップ理論」という学説があります。動物の世界には長すぎる羽根を持つクジャクや、大きくて重すぎるツノを持つシカなど、一見、生存するのに不利に見える特徴を持っている生物がいます。

そのような身体に負担の大きい特徴は、敵に見つかったときに身動きが取りづらいため、生き延びることを考えれば、次世代には受け継がれにくいはず。それなのに、こうした生得的特徴を今日まで引き継ぐ大きな理由は、配偶者の獲得のためと言われています。

普通なら生き延びにくい特徴を持っているのに生存し続けられるということは、同種の動物に向けて、自分の生命力の高さを誇示することになります。より強い個体と交尾することで強い子孫を残せる可能性が上がるわけですから、ハンディキャップを持った個体は配偶者獲得にかえって有利に働くのです。

そして、人間にとっては「寄付行為」がこのハンディキャップに相当します。なぜなら、自分の財産を手放して困窮する者に分け与えるという行為を積極的に行えるのは、生活に余裕があり、強い経済力=生命力がある証しになるからです。だから私たちは多額の寄付をする人を見ると、自分の魅力を異性にアピールしている、いやらしい「ディスプレイ(見せびらかし)行為」だと感じやすいのでしょう。

また、「お金配りさん」の周囲の人たちが「公平な関係性ではなく、上下関係の階層の中にいる」という意識があると、寄付行為ができる人のことを勝手に上の階層だと思い込んで、さらなる嫉妬心が湧き上がってしまいます。

さらに、古代では特別な装飾品は集団に貢献して、認められた証しとして身につけるべきものとされて来ました。しかし、現代では個人の所有財産が認められているので、集団から認められていなくても、自力で稼いだり、相続などによって装飾品や財産を持てるようになりました。

すると、周囲から「あの人は集団に貢献していないのに……」と、個人所有に不満を持たれる人も出てくるのです。私たちは、寄付をする人間にしばしば嫉妬を抱きますが、進化心理学の観点からも、嫉妬は配偶者の獲得競争を通じて進化した感情だと言われています。

 

配偶者の獲得競争から生まれた「嫉妬」の感情

狩猟・採集時代には、食料は公平に分配されていました。これは少集団の中に階層性を用いると、激しい闘争に繋がり、メンバー全員の生命維持に関わるからです。しかし、配偶者だけは、欲しいと手を挙げても公平に分配することはできません。強く魅力的な人は多くの異性に求められますが、魅力に欠ける人はあぶれてしまいます。

実際に、チンパンジーは乱婚ですが、階層の高いボスザルほどたくさんの交尾相手を獲得します。同様にメスにも階層があり、多くのオスに求愛されるサルもいれば、相手にされないサルもいるのです。このような不平等性から、サルの世界では上の階層を巡って激しいマウンティングや配偶者獲得を巡る争いが起こります。その争いは、あまりに激しいと時に集団を疲弊させ、内部崩壊させる恐れもあります。

それを避けるために、私たちの直接の祖先であるホモ・サピエンスが取り入れた制度。それが、「一夫一妻制」だと考えられています。一握りの強いオスが多くのメスを独占するのではなく、1人のオスには1人のメスと決めることで、理論上は配偶者の数が公平になります。それでもモテずに配偶者を獲得できない個体は出てきてしまいますが、集団内での嫉妬は大幅に減らすことができるわけです。

このように人間は、制度を取り入れることで、不平等と闘争のコストを避けてきたという歴史があるのです。こうした狩猟・採集時代のような公平な関係性を、国の制度として実現しようとしたのが、かつての共産主義です。

しかし、その歴史の結末はみなさんご存じのとおり。共産主義が崩壊した理由には、与えられたものを受け取るだけで、集団に貢献しない人が増加したことや、個人の努力が評価されなかった結果、商品やサービスの競争力が低くなってしまったことが挙げられるでしょう。

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