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読了後、最初に浮かんだ人を...作家・青山美智子さんが描く「愛の本質」とは

青山美智子(作家)

2022年05月01日 公開 2024年12月16日 更新

デビューわずか3年目で『お探し物は図書室まで』が、2021年の本屋大賞2位となった作家の青山美智子さん。

そして、先日発表された2022年本屋大賞で2位に入賞した、最新刊『赤と青とエスキース』では、一枚の絵画をとおし、5つの「愛」の物語がつづられます。

大切な人との間に生まれる感情の揺れが繊細に描かれた仕掛けと驚きに満ちた連作集。青山さんに、本作を書くにあたっての思いを伺いました。

※本稿は『PHPスペシャル』2022年3⽉号より抜粋・編集したものです。

【青山美智子(あおやま・みちこ)】1970年生まれ、愛知県出身。大学卒業後、シドニーの日系新聞社で記者として勤務。2年間のオーストラリア生活ののち帰国、上京。雑誌編集者を経て執筆活動に入る。第28回パレットノベル大賞佳作受賞。デビュー作『木曜日にはココアを』(宝島社)が第1回宮崎本大賞を受賞。『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)が2021年本屋大賞2位、最新刊『赤と青とエスキース』(PHP研究所)が2022年本屋大賞2位に選ばれる。

 

揺れ動く感情が肝!さまざまな「二人」が主人公

『赤と青とエスキース』は、一枚の絵画をめぐる5編からなる「二人」の物語です。メルボルンの画家の卵が、とある理由から手掛けることになった一枚の「エスキース(下絵)」。

その絵が、場所や時を移り行きながら、さまざまな「二人」の人生と思いを紡いでいくという作品です。

私にとって7冊目となる本書は、これまでとはちょっと雰囲気の違う作品となりました。

過去6作はどちらかと言えば、訪れたピンチや悩みを解決するなど「出来事ありき」だったのが、今作は、人の揺れ動く感情に焦点を当てたんです。

格好をつけてしまったり、みっともないことをしてしまったりなど、人が持つ"えぐみ"とでも言うんでしょうか。

こんなふうに人が抱く感情を素直に書いたのは初めてで、ちょっとドキドキしましたね。なんというか、脱いじゃった気分(笑)。

と言ってもすべてではないですけど、自分が隠していた部分を表せたかな、と思います。

 

恋は近しいからこそ、本当の気持ちを見逃す

本作ではいろいろな「二人」が登場します。

異国の地で出会ったがゆえに期限付きでつきあい始めたカップル、売れっ子になった後輩と対談をすることになった漫画家、仕事に悩む額縁職人と師匠、パニック障害で仕事に行けなくなった女性と上司……。

第1話は、レイという女性と恋人ブーの不器用な恋のお話で、私にとって初めて真正面から取り組んだ「恋」物語。

書いてみて改めて思ったのは、私は現実では片思いが好きだなということ(笑)。片思いだと「あの人素敵!」と勝手に盛り上がっているだけで済みますけど、両思いになるとそうはいかない。

相手が自分を好きでいてくれることが前提にあっての、消えない不安や疑ってしまう気持ちは手に余るというか……。恋って自分を高めてもくれますが追い詰めてしまうところもあって、取り扱い注意だなと思いますね。

主人公のレイもそうで、恋してブーと一緒にいるのに、自分の不安から傷つけるようなことを言ったり、ブーの言動を裏読みして落ち込んだりします。

現実の世界でもそうですが、近しいからこそ相手の本当の気持ちを見逃すことはよくあって、しかもきっかけがないと、そのことに気づけない。じゃあ何で気づくかというと、案外トラブルが起きたときだったりするんです。

私は、何かあったときに自分が取る行動だったり、相手がかけてくれる言葉だったりにすごく真実味があると思っていて、そこでわかることってたくさんある。

そう考えると、トラブルは恐れるものではないのかな、と。他の登場人物たちも、二人の間に起きる出来事を通して、自分自身や相手の思いに気づいていきます。

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想像力や言霊が「願う人生」を引き寄せる

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