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「1億円を得る代わりに誰か1人死ぬ」と言われたら...? 今こそ考えたい倫理学

佐藤岳詩(専修大学文学部哲学科教授)

2022年05月23日 公開 2024年12月16日 更新

 

殺意は同じでも結果によって刑罰は違う!?

残念なことに、ニュースを見ていると毎日のように殺人事件の報道を目にします。

相手を殺害する意思をもって殺害行為におよび、被害者が死亡すると「殺人罪」になります。しかし、同様に殺害する意思をもって殺害行為におよんでも被害が死亡しなければ、「殺人未遂罪」になります。

どちらの罪も刑法第199条で「死刑または無期もしくは5年以上の懲役」が課されることになっていますが、実際に裁判所が出す判決には差があります。殺人罪は懲役10年以上が多く、無期懲役や死刑になる場合もあります。しかし殺人未遂罪は懲役3年~7年程度が多く、大半は殺人罪より罪が軽くなります。

相手が死んでしまったほうが罪が重くなるのは当たり前のような気もします。しかし、相手が死んでも死ななくても、相手を殺害しようと行動したのは同じです。

殺害を試みた人が力が弱かったために相手が死なずに済み、殺害を試みた人が力が強かったために相手が死んでしまったということもあるでしょう。どちらも殺意をもって行動を起こしている点は同じです。たまたま結果が違うだけで罪の重さが変わることは、公平なのでしょうか。

 

「倍返しだ!」はいいことなのだろうか?

数年前、『半沢直樹』というドラマが人気になりました。ドラマの主人公・半沢直樹は銀行員で、銀行で悪いことをする上司にいやがらせをされながらも、その不正を暴いて仕返しします。決まり文句、「やられたらやり返す。倍返しだ!」に聞き覚えがあるかもしれません。

このドラマが人気になったのは理由があります。会社に勤める多くの大人たちは、心の中では半沢直樹のように不正に立ち向かいたいにもかかわらず、不正をする上司がいても、不正を暴いたり、歯向かったりできないことが数多くあります。現実の会社では、上司に歯向かえば、会社を辞めさせられたり、給料を上げてもらえなくなったりするのです。

しかし、半沢直樹は正義を貫き、悪い上司にいやがらせをされながらも、最後には悪い上司の不正を暴いていきます。それができない大人たちにとっては気分がいいドラマだったのです。

いやがらせをされて倍返しをすれば、気分がスカッとするかもしれません。「悪いことをしたんだから、倍返しされるのは当たり前だ」という意見もあるでしょう。

でも本当に倍返しをしたら、された人も同じようにやり返したくならないでしょうか。そうなれば仕返しのやり合いになりそうです。倍返しは本当にいい方法なのでしょうか。

 

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