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スマホを落とすだけで謝礼が必要?意外と知らない日本の法律

山崎聡一郎(教育研究者)

2022年09月01日 公開

「法律はあなたを守ってくれる見えない盾と矛のようなものです。そして『自分は法律に守られている』と知ることは、あなたの気持ちを何倍も強くしてくれることになるのです。」

こう指摘するのは、教育研究者の山崎聡一郎氏だ。73万部突破の子ども向け法律本『こども六法』の著者でもある。

同書を原作に、『こども六法ノベル その事件、こども弁護士におまかせ!』(KADOKAWA)が2022年7月に発刊された。本作品は、「こども弁護士」として活躍する女子高生が、身の回りで起こるいじめやバイトでの困りごと、傷害事件などを法律の知識を使って解決していく物語が描かれている。

その監修としても携わった山崎氏に、学校生活やアルバイトなど身近な出来事を例に、自分や周りの人を守るための法律や、その考え方や使い方についてうかがった。

 

スマホを落とすだけで法律が関与する?

私たちは普段、法律を意識せずに生活しています。しかし思わぬところで、法律の知識が必要になることがあります。

例えばスマホを落としたら、そしてそれが「おさいふ」代わりだったら。私たちは拾ってくれた人にいくらお礼を支払わなければならないのでしょうか。

拾ってくれた人へのお礼にあたる「報労金」は通常、落とした金額の5%〜20%を支払うと決められています。例えば10万円のスマホを落としたとしたら、それが現在中古市場でどのくらいの価格で流通しているかを元に計算することになるでしょう。

問題は、電子マネー部分です。法律はそれをどう判断するのでしょうか。実際には、携帯の中にどのくらいの電子マネーが入っているかという金額の多寡だけでなく、スマートフォンにロックがかかっているかによってもお礼の金額は変わるでしょう。

つまり「すぐに使える金額はどれくらいか」というところがポイントになるわけです。また、携帯をなくした時点で、あなたが電子マネーの利用手続きを止めておけば、お礼として支払う金額はずっと少なくてすむ可能性があります。

このように1つの物事を解決するために、法律はいろいろな側面を考えていきます。何もかもが法律に書かれているわけではありませんし、なんでもスパッと決まるわけでもないのです。

 

民法と刑法、法律によって異なる運用範囲

また、法律によってもその運用のされ方には、大きな違いがあります。

例えば「こんなことをしたら、こういう罰を受けます」ということが決められている刑法という法律は、解釈の余地が狭くなるように作られています。

なぜなら、解釈の余地を多く残してしまうと、国や警察が「あいつは気に入らない」といった理由で逮捕し、罰するために使われてしまうからです。人を裁いたり、捕まえたりするための法律は、権限を持っている人が勝手に使えないように狭く設計されています。

逆に広いのが民法です。これは物の貸し借りなど、生活の中の人と人との約束や関係について決められた法律です。民法には「契約自由の原則」というものがあり、「お互いが納得しているのであれば契約の相手、内容、方法を自由に決められる」とされています。

あなたと友人の間で決めた約束事が民法と違ったとしても、お互いが納得してるのならOKということです。民法では、当事者同士の約束が優先されます。

たとえば、あなたが友達からゲームを借りたなら、民法では、返すときにはあなたのセーブデータ等は消して、借りたときの状態に戻して返さなければならないことになっています(民法621条)が、友達が「そのまま返してくれたらいいよ」と言ってくれたなら、別にデータを消す必要はありません。これは法律が優先される刑法とは大きく違います。

ただし、いくらお互いが「それでいい」と合意をしていても、人殺しの依頼など社会が許さない物事の契約は認められません。これは「公序良俗違反」と呼ばれます。

僕は法律の仕事をしながら俳優業もしているため、パワハラ関連の相談を受けたりします。以前、とある劇団の方から「演出指導のときにパワハラ的な行為があったとしても『容認する』という条件を、あらかじめ契約書で結んでおくことはできないか?」と相談されたことがあります。

条項を入れること自体はできますが、後になって訴えられたら、パワハラをしたほうが負けることになるでしょう。契約をするのは自由ですが、それが「公序良俗違反」であれば契約は無効になります。自由度が高い民法であっても、なんでも許されるわけではないのです。

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労働基準法は、働く人を守るための法律

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