意味づけ、フロー体験で働きがいを生み出す
社員一人ひとりが自走するためには、与えられた仕事に対して、自分なりの新たな意味づけをしていくことも重要です。これを「ジョブ・クラフティング」といいます。これは、個人視点であるところに意義があり、仕事の意味づけ次第で「やらされ仕事」を「やりがいある仕事」に変えることができ、働きがいやエンゲージメントのレベルを高めることにつながります。
上司は部下がジョブ・クラフティングできるようにあくまでもそれをサポートするだけです。「この仕事はこういう意味だ」と上司の答えを押しつけるのではなく、「自分はこういうふうに考えて、この仕事をしてきた」と伝えるくらいにとどめます。考えるヒントだけ与えて、あとは自己決定できるように環境を整えるのが上司の役目です。
本人の自発的なやる気を引き出すには、自己決定をさせることが重要なポイントです。部下がみずから仕事に意味づけをして、自分の成長やお客様の幸せを感じながら仕事をしていくうちに、実はそれが働きがいの一番の根っこのところになってくるのです。
特にキャリアの浅い若手社員の場合は、まだ一人立ちできていないために事細かに指導をしてしまいがちですが、それは自己決定したり仕事の意味を考える機会を奪うことにつながります。ですから、本人の実力やキャパシティに応じて適度に仕事を任せ、自分で考えて取り組めるようにする必要があります。
そして、任せた仕事ができるようになれば少し難易度を上げた次のステップを用意し、本人がワクワク感を持って仕事に没頭できるようにします。このワクワクして没頭する状態を「フロー体験」といいますが、それを体験させることが働きがいを育むのです。
ソーシャルシフト時代の価値観を持ったZ世代
今では1990年代中頃以降に生まれた「Z世代」が入社してくるようになりました。Z世代はSNSがコミュニケーションツールとして当たり前になっている世代で、実は、一般的にここまで述べてきたようなソーシャルシフト時代の価値観を大切にしています。
まず、人とのつながりを非常に重んじています。SNSでいつも誰かとつながっていて、その中で心地よく生きたいという気持ちが強いため、人との対立を避けます。ですから、「共感」することを望み、「押しつけ」は最も敬遠されます。
また、お金や地位に対してのこだわりが弱く、それほど多くを求めません。Z世代にとっては生まれてこの方、日本は経済成長もなく、人口減少で衰退しつつある国だというイメージがあるからです。お金の大切さはわかっているけれども、人間関係を我慢してまで求めようとはしません。まず人間関係が大切で、次いで社会への貢献、自己成長やワクワク感を重視しているのです。
このようなZ世代に続いて、ソーシャルシフト時代の価値観を持ったビジネスパーソンがこれからますます増えていくでしょう。それは「幸せ視点の経営」に切り替える大きなチャンスともいえます。
一人でも多くの人が仕事を通して幸せを実感し、豊かな人生を送れるように、私はこれからも「幸せ視点の経営」を追究していきます。それが私の働きがいであり、生きがいなのです。
斉藤徹(さいとう・とおる)
起業家、経営学者、株式会社hint代表、ビジネス・ブレークスルー大学教授。1985年、日本IBM入社。’91年に独立しフレックスファーム創業。2005 年にループス・コミュニケーションズ創業。ソーシャルシフト提唱者として、知識社会における組織改革を企業に提言する。’20 年からビジネス・ブレークスルー大学教授に就任。’18 年に開講した社会人向けオンラインスクール「hintゼミ」は、卒業生が 700 名を超え、3カ月ごとに約100 名の仲間が増えている。主な著書に、『だから僕たちは、組織を変えていける』(クロスメディア・パブリッシング)、『業界破壊企業』(光文社)、『ソーシャルシフト』(日本経済新聞出版)がある。