今、世界的に注目を集めている「パーパス経営」。日本でもすでに先進的な企業はパーパスを中心とした経営を進めている。
しかし、せっかく作ったパーパスが、単なる「額縁に入れた飾り」になってしまっている企業も多い。本当に重要な「パーパスの浸透」のために必要なこととは?
※本稿は、『THE21』2023年2月号より、一部を抜粋・編集したものです。
パーパス浸透には「アワード」が効く
パーパスを会社に浸透させるための方法にはさまざまなものがあるが、今回紹介したいパーパスの浸透策は「アワード(賞)」を作るというものである。
パーパスに沿った活動を行なった組織や個人を表彰することで、受賞した社員の承認欲求を満たしつつ、「どのような活動がパーパスに合致しているのか」を社員全員が共有することができるという優れた手法だ。
一つ、事例を紹介したい。味の素が2015年にスタートさせた「ASVアワード」という取り組みだ。
これは、SV(社会的な価値)とEV(経済的な価値)を両立させる取り組みを表彰するというもので、単に「社会にとって良いことをする」だけでなく、それがどのように経済的な価値に結びついているかを問うのがポイントだ。
国家も巻き込むベトナムでの取り組み
味の素は世界中に支社を持つグローバルカンパニーであり、評価の対象となるのは日本のみならず、全世界で働く味の素の社員たちだ。
実際、第1回の2016年度に大賞を受賞したのは、ベトナムにおける栄養改善の取り組みだった。
ベトナムでは今でも栄養不足が大きな社会問題になっているのだが、その原因の一つは栄養に関する知識の不足にある。栄養のバランスが整っていなければ、いくら食べても栄養不足になってしまったり、逆に肥満になってしまったりする。
そこで、正しい栄養学の知識を広めるべく、味の素はベトナム政府に働きかけて栄養士育成のインフラ支援を実施。
また、「学校給食プロジェクト」を立ち上げ、小学校の給食をサポートし、その品質を改善させるという取り組みも行なった。これらの活動は現地の人に大いに喜ばれているという。
この取り組みが社会的な問題解決につながるのはもちろんだが、味の素の知名度やブランドが栄養士や児童の間で広がることで、味の素ファンが増える。
その結果、味の素製品を購入してくれるという直接的なメリットも生まれるだろう。まさに社会的な価値と経済的な価値を高いレベルで実現する優れた取り組みである。
ハードルは高くしすぎないほうがいい
このベトナムの例は国家まで巻き込んだスケールの大きなものだが、日本国内での取り組みも決して負けてはいない。一例を挙げれば、やはり2016年度に入賞を果たした「ラブベジ」という活動がある。
日本で一番野菜の摂取量が少ないのは、実は東海エリアだと言われている。その東海エリアでの野菜摂取量を増やすべく、行政・生産者・流通・外食店・大学・マスコミ・NPOなどと連携し、野菜を豊富に摂れるメニュー提案などを行なうのが、この「ラブベジ」という活動だ。
この活動も、野菜の摂取量を増やすことで健康を増進するという社会的な意義とともに、野菜を材料に使う自社製品の売上増にもつながる。社会的な価値と経済的な価値を両立させた活動だ。
私も審査員としてこのASVアワードに携わっているのだが、正直、この第1回のアワードで入賞した取り組みはどれも極めてレベルが高く、「できすぎ」という感じですらあった。
ただ、これでは誰もが気軽に参加しようと思えなくなってしまう恐れがある。そこで、第2回以降は間接部門などの人も募できるよう、もう少し応募のハードルを下げることにした。
これが功を奏し、翌年は前年以上に応募が殺到。エントリー資料を読むだけでも大変で、審査員は嬉しい悲鳴を上げることになった。
面白いのは、応募数に「お国柄」が出るということ。中でもブラジルはその明るい国民性のゆえか、毎回ものすごい量のエントリーがある。どうもブラジルの味の素社員にとっては、このアワードへの応募が毎年のお祭りのようなものになっているようだ。