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日本の会社員の自主性を引き出すには? “浸透しない経営目標”を理解してもらう方法

名和高司(一橋大学ビジネススクール客員教授)

2023年03月20日 公開

 

「賞を取ったら終わり」にしてはいけない

ただ、こうした「アワード」で気をつけたいのが、それを一過性の取り組みにしてはならないということだ。受賞したらそれで終わり、では意味がない。

味の素も当然、そこは意識している。事例を単に知るだけでなく、「自分の職場でも同様の取り組みを実行し、モニタリングして改善。

さらに対話によって理解や納得を深め、また新しい成功事例を生み出し、共有する」というサイクルを回すことを重視している。

このサイクルを回すことでパーパスの「自分事化」がどんどん進んでいくとともに、企業価値も高まっていくことになる。

例えば前述の「ラブベジ」の活動は、東海地方のみならず日本中に広まっていった。これもまた、共有と実行のサイクルがあってこそのことだろう。

ちなみに「ラブベジ」はこの全国規模の広がりにより、再度ASVアワードを受賞することになる。

世界規模で社員を巻き込んだASVアワードにより、「どのような活動がパーパスに即しているのか」が社員に浸透するとともに、「自分たちもやってみよう」と行動を促す。これこそが「アワード」の力である。

 

パーパス実現のカギは「プリンシプル」

続いて、「花王」の例をご紹介したい。花王のパーパスは「Kirei Lifestyle」を実現するというもの。

「Kirei Lifestyle」を「こころ豊かに暮らすこと」と定義し、そのための革新と創造に挑み続けることを自社のパーパスとして宣言している。

「キレイ」という日本語には、ビューティフルという意味もあればクリーンという意味も含まれる。そうした多義的な言葉を「キレイ」という言葉にまとめており、グローバル企業ならではの優れたパーパスと言えるだろう。

以前、花王の澤田道隆社長(現会長)と対談した際、非常に印象深い話を聞いた。澤田氏によれば、「Kirei Lifestyle」に沿った製品はいろいろと出てきているとはいえ、いきなりすべての製品がパーパスに沿ったものになるわけではない。そこで重要になるのが「プリンシプル」の存在だという。

プリンシプルとはいわば「行動原則」である。花王の行動原則の基本となる価値観は、創業者が遺した「正道を歩む」という言葉に集約されている。プリンシプルがあってこそパーパス経営が実現できるという澤田氏の言葉に、私は深く納得した。

パーパスとはいわば「北極星」であり、目指すべき遠い理想でもある。しかし、それはあまりに高い目標であるがゆえに、ともすれば何をすべきなのかわからなくなってしまったり、理想の達成のためには手段を選ばなくてもいい、という発想にもなりかねない。

一方、「プリンシプル」だけでは、社員の行動は小さくまとまりがちだ。「正道を歩む」という言葉だけだと、ともすると「危ないことはやらない」「今まで通りにやればいい」というコンサバティブな発想になってしまう危険性がある。

しかし、そこに高いパーパスがあれば、保守的な殻を打ち破り、挑戦しつつもフェアな道を歩むことができる。

 

花王が導入する「OKR」とは

名和高司 パーパス経営

花王の優れている点は、こうした発想を「OKR」という仕組みで具現化しようとしていることだ。

OKRとはアメリカのインテルで開発された目標設定・管理手法の一つであり、「Objectives and Key Results」(目標と主要な結果)の頭文字を取ったものだ。シリコンバレーを始めとした西海岸の多くの企業で用いられているが、なぜか日本ではなかなか浸透しない。

OKRのO(目標: Objectives)は、ほぼパーパスと一緒だと考えていい。そして、それを実現するための具体的かつ定量的な指標である「主要な結果」(Key Results)を自ら設定し、その進捗を管理していくというわけだ。

難しいのはKey Resultsの設定だ。OKRでは3つくらいのKey Resultsを設定することが望ましいとされているのだが、ユニークなのは「Key Resultsは100%達成してはならない」とされており、6、7割の達成度が最も良いとされることだ。

その理由は、100%達成できるようなゴールは最初から実現可能な、いわば「ストレッチがかかっていない」ゴールに過ぎないとされているから。そうではなく、より高い目標を実現するために、あえてストレッチのかかったゴールを設定し、それを目指して取り組むことが重要だというのが、OKRの発想だ。

だからこそ、常に100%達成できるゴール設定は低すぎるということになり、達成度は6、7割がちょうどいい、ということになる。

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日本に根づかない根本原因

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