私たちは、常時デジタル機器に接することによる、デジタル疲れに直面しています。これは世界的にも問題視されており、仕事でPCを扱う人であれば、1日9時間45分よりも多くの時間をスクリーンの前で過ごしているという試算もあります。
一般社団法人日本デジタルデトックス協会理事の森下彰大さんは、著書『戦略的暇』にて、自分のための余暇を取り戻し、その余暇で培われた思考やエネルギーを個人と社会にとってより良い方向へと向けるための「戦略」の必要性を強調します。
本稿では同書より、現代人がスマホを手放せないことによる弊害について語られた一節をご紹介します。
※本稿は森下彰大著『戦略的暇―人生を変える「新しい休み方」』(飛鳥新社)より一部抜粋・編集したものです。
1年のうち、3ヵ月間は「スクリーンの前」
スマホやPCの利用時間を計測するアプリ「レスキュー・タイム」が同アプリのユーザー1万1000人を対象に行った平日のスマホ利用の調査によると、1日の平均利用時間は3時間15分でした。そして、上位20%のユーザーの利用時間は、1日あたり4時間30分とも報告されています。
この数字を見て考えなければいけないことが、二つあります。
一つは、調査対象のユーザーは、スクリーンタイムを計測するアプリを自主的にインストールしていた点です。彼らは、かなりデジタル機器の利用に対して意識的だと考えられます。スクリーンタイムを特に気にしてない一般的なユーザーであれば、平均時間がより延びる可能性もあります。
実際、コロナ禍を経て、各国でスクリーンタイムは増えています(インドでは子どもたちのデジタル機器の利用時間が100%増えたという報道もあります)
もう一つは、あくまで「スマホの利用時間」であるということです。ほとんどの人たちが仕事でPCを使う時代、PCの利用時間を無視するわけにはいきません。
そこで、アキュビュー(J&J社)が2000人の事務職員を対象に実施した調査を見ると、対象者の仕事中のPCの利用時間はなんと年間1700時間。1日(平日のみ)に換算すると、約6時間30分です。調査に参加した方の37%は、「モニターの見すぎで頭痛に悩んでいる」と回答しました。
これらの数値を併せて考えると、一般的なスマホユーザーかつ仕事でPCを利用する方であれば、デジタル機器に触れている時間は、試算にして9時間45分よりも長く(平日の1日だけで)、起きているうちの半分以上は「モニターの前に居る」と考えられるのです。
この数字をもとに、1ヵ月と1年のスクリーンタイムを算出すると......1ヵ月でおよそ195時間(約8日間)1年で約2340時間(約97.5日間! つまり、約3ヵ月!)あくまで、これは少なく見積もった数値であることにご留意ください。スマホの利用時間が比較的多い10〜20代では、この時間はさらに跳ね上がると考えられます。
スマホが近くにあるだけで流れ出る注意
私たちの有限な注意資源は、使っていなくてもスマホが近くにあるだけで消耗しています。よくスマホを机の上に置いたまま話している人たちを見かけますが、実はこれも彼らの関係にとっては危うい行為かもしれません。
スマホの影響を調査した研究では、対象となる100組のペアを無作為に振り分け、幅広い話題をテーマに、10分間話し合ってもらいました。研究の助手たちは10分間の会話を遠くから観察し、参加者が携帯電話やスマホなどのモバイル機器を卓上に置いたり、手に持ったりしたかを記録します。
結果、モバイル機器がない状態で会話したペアは、対話する相手に対して共感や関心を抱く傾向が強かったことが判明しました。
一方、ペア同士が親密な関係であってもモバイル機器が卓上にある場合、「親密ではないペアよりも会話の共感レベルが下がる」傾向にあるとわかりました。まさに「親しき仲にも礼儀あり」で、会話の相手が自分と近しい仲であってもスマホの存在があるだけで、コミュニケーションの質が下がってしまうと、この研究では警告されています。
では目に見えない場所にスマホを保管しておけば良いのかというと、そうでもないようです。2017年に発表された米国での研究では、548人を対象に認知作業のテストを行いました。被験者は次の3つの作業環境のうち、いずれかを指定されてテストを進めます。
1.スマホを別室に置いて作業
2.スマホを机の上に置いて作業
3.スマホをポケットかカバンに入れたまま作業
結果、最も良い成績を収めたのは1のスマホを別室に置いたグループでした。他方で、最も成績が悪かったのは2のスマホを机の上に置いたグループ。
ちなみに、スマホをポケットやカバンに入れたままの3のグループの人たちもテストの成績が悪かったのです。これらのことから、スマホが近くにあるだけで認知能力が下がることが示唆されました。
ONの時間、OFFの時間と共に、スマホの存在があるだけでいかに目の前のことに集中するのが難しくなっているかがわかります。
勉強していてもスマホで成績が悪化する

東北大学の川島隆太教授は、仙台市に住む中学生の家庭での学習時間とスマホ(LINEやカカオトークなどの通信アプリ)の利用時間の比較から、「家庭での学習時間の長さが同じ場合、平日のスマホの利用時間が増えると成績は下がる」というショッキングなデータを発表しました。さらに、スマホの利用時間が長くなると、勉強していても成績は下がってしまうことがわかったのです。
ちなみに、この問題を「スマホを長く使っている分、勉強をする時間が減ったため成績が下がった」と片付けることはできません。たとえ家庭での学習時間が2時間以上でもスマホを2時間以上使うと、家庭で30分しか勉強しないスマホを持っていない子どもよりも成績が下がると示されているのです(上図)。
スマホの使いすぎによって、学校で習得した内容が頭に残らなかったと示唆するこの報告。川島教授はこのプロジェクトの結果から、「子どものスマホ利用は長くても1日1時間まで」と推奨しています。なぜなら、スマホを毎日1時間以上使っている子どもたちは、成績が下がってしまうからです。
そして、たとえスマホを毎日1時間以上使っていても、毎日1時間未満にすることができれば、成績が上昇することも分かったからです。
この研究では、勉強中のアプリの利用数が増えると4科目(国語・社会・算数・理科)の成績が下がるとも報告されています。勉強中にスマホを「ながら」で触っていると注意散漫(マルチタスク状態)になり、勉強に集中できなくなるようです。勉強するときは、いかに勉強だけに集中できる環境を作るかが鍵だと言えそうです。
脳に何が起きているのか?
ネオ・デジタルネイティブと呼ばれる世代の子どもたちの脳には、いったい何が起きているのでしょうか。より大規模な調査にも、目を向けてみましょう。米国で1万人以上の子どもたちの脳の状態を追跡調査する「思春期の脳認知発達調査」では、実際にスマホの使用で脳に変化が起きていることが明らかになっています。
この調査について脳科学者のラリー・ローゼンは、デジタル機器に多く触れている子どもたちの脳の大脳皮質が、そうでない子どもたちに比べて薄化している点に注目しました。
大脳皮質の薄化は、加齢によって起きる正常な変化です。デジタル機器の使用過多と脳の変化についてはその他の環境要因も影響している可能性はあるものの、このような脳の老化現象がすでに若い世代で現れている事実は注視すべきです。
成人においても、GPSの使いすぎのリスクを指摘する声もあります。カナダのマギル大学の神経生物学者であるオリバー・ハートは、GPSに頼りすぎると記憶を司る海馬の灰白質の密度が下がる可能性が高まると述べています。海馬が劣化すると、うつ病やその他の精神疾患のリスクを上昇させると、ハートは付け加えています。
「テクノロジーに頼ると人は退化する」とよく言われますが、研究報告を見る限り、脳は認知的タスクを外部のテクノロジーに頼りすぎることで「老化」するというのが正確でしょう。








