好きなことをしてもイライラが消えない 脳波が示す“不機嫌”の整え方
2026年02月27日 公開
不機嫌になるのは脳の仕組み上仕方ない部分もあると、工学・医学博士の満倉靖恵さんは話します。ネガティブな感情に振り回されたときに心を落ち着かせる、効果的な方法を紹介します。(取材・文:林 加愛)
※本稿は、『PHPスペシャル』2026年3月号より内容を抜粋・編集したものです。
不機嫌のトリガーとは
どんな人でも、日常生活の中でムッとしたりイライラしたり、不機嫌になることはあるものです。そのきっかけは人によってさまざまですが、すべての人に共通する不機嫌のトリガーは、「望まない事態が起きること」です。たとえば、「物事が思い通りに進まない」「予測していなかったトラブルが起きた」などが挙げられます。
望まないことが起きてストレスを感じたとき、脳の視床下部が反応して、副腎からコルチゾールという分泌物が出ます。コルチゾールの別名は「ストレスホルモン」。分泌されると周りへの攻撃性が上がるだけでなく、自律神経の一つである交感神経が活性化し、外部からの刺激に心身が反応しやすくなります。すると、感情のコントロールが難しくなり、普段は気にならないような些細なことにもイライラしてしまうのです。
こうして生まれる不機嫌をコントロールするカギを握るのは、もう一つの自律神経である副交感神経です。副交感神経を効果的に活性化させれば、心身がリラックスして感情のコントロールがしやすくなります。
自分の機嫌は簡単にとれない
「すぐ不機嫌になる自分は性格が悪いのかも」と悩んでいる人がいるかもしれませんが、脳の仕組み上、不機嫌になるのは仕方がない部分もあります。
私は研究チームを組み、「感性アナライザ」というさまざまな感情をリアルタイムで可視化できる脳波測定装置を開発しました。この装置を使うと、たとえば被験者が不機嫌なときに脳波を測定した場合、「ストレス度」などの数値が高まっていることがわかります。また、あらゆるシーンでの測定結果から、不機嫌なときの感情は想像以上に扱いづらいことが判明したのです。
この企画では、不機嫌にまつわる実験結果を解説するとともに、副交感神経を活性化させてネガティブな感情を早めに手放し、心をリラックスさせるポイントをお伝えします。
脳波からわかる不機嫌の傾向
「感性アナライザ」による実験結果から、人の感情のやっかいな特徴が見えてきました。
●ネガティブな感情は消えない
生活する中で、人がポジティブな感情でいるときは「満足度」「快適度」「集中度」「好き度」などの脳波が高まりますが、それらの脳波は時と場合によってゼロになることもあります。
一方で、ネガティブな感情を持っているときに出る「ストレス度」「嫌度」「不快度」などを示す脳波が完全に消えることは、ほとんどありません。
●人は嫌な出来事に敏感
ポジティブな刺激を受けたときの「満足度」「快適度」の脳波はゆるやかに上がるのに対し、ネガティブな刺激を受けたときの「ストレス度」「嫌度」の脳波はすばやく上昇します。
たとえば好きな料理を食べたら、人はジワジワと幸せを実感します。一方で、苦手な料理を食べたときは、一瞬で強いストレスを感じてしまうのです。
●「快適度」は下がりやすい
一人には可愛わいらしい動物の映像を、一人には怖い映像を観せたあと、40分間脳波を測る実験をしました。
すると、可愛らしい動物の映像を観て高まった被験者の「快適度」は、すぐに低下。一方で、怖い映像を観た被験者は、「ストレス度」「嫌度」を高いレベルで維持し続けました。嫌な感情は、幸せな感情に比べて引きずりやすい傾向があります。
●集中できるのは40分まで
集中力が保てず、悩むことがあるかもしれません。実際に「ミスが少ないほど報酬が上がる」という条件で作業をする被験者の脳波を測ったところ、高い集中力を保てたのは最初の10分だけでした。
それ以降はだんだんと下がっていき、35~40分後には「集中度」の数値がゼロに。集中力を保つことが、いかに困難であるかがわかりました。
●ストレス発散は難しい
作業中に高まった「ストレス度」を下げるために、被験者に好きなお菓子を食べて休憩してもらったところ、「ストレス度」はあまり下がりませんでした。多少下がったのは「好き度」が上がったからではなく、作業をやめたからだと考えられます。
好きなことをして気分転換するよりも、しんどくなる原因を除くほうが、リフレッシュには効果的です。
●幸せなのにイライラ
大好きなものを食べたり、推しの映像を観たりすると、「快適度」「好き度」の数値はかなり高くなり、幸福感で満たされることが実験でわかりました。
ところが、幸せな気分にもかかわらず、それらの数値に負けないくらい「ストレス度」も高く出ていたのです。どれだけ幸せを感じたとしても、ストレスは手放せないということです。
不機嫌をご機嫌に切り替えよう
副交感神経を優位にすることで心身をリラックスさせて、機嫌のいい自分を取り戻しましょう。
●体を動かしてリフレッシュ
イライラして緊張した心身をゆるめるために、あえて交感神経をさらに高めるのも手。たとえば、軽い運動をするのがおすすめです。
運動によって一時的に高まった交感神経は徐々に下がっていき、その後、副交感神経が優位になります。ストレスを感じたときは体を動かして、クールダウンしてください。
●体の調子を整える
コルチゾールは病気にかかっているときや空腹時、睡眠が足りていないときなど、体調が悪い場合にも分泌されます。理由もないのに落ち込むときは、体に不調がないかを調べてみましょう。
生活習慣を整え、健康な体づくりを意識することも、機嫌のよさにつながります。
●散歩を五感で楽しむ
5分ほどの散歩に出かけましょう。汗ばむ程度のウォーキングでも、充分な運動効果が得られます。
散歩をしている間は、五感を研ぎ澄ませて「外の空気」を感じてください。目に映る風景や風の匂い、季節の移り変わりを楽しみながら歩くことで、ピリピリしていた心が穏やかになり、気持ちがほぐれます。
●バスタイムは湯船に浸かる
入浴は寝る1時間前がおすすめです。入浴後は1時間ほどかけて、体温がゆっくりと下がっていきます。このときに副交感神経がONになるため、体の緊張がとれて深く眠れます。
なお、シャワーを浴びるだけだと体の表面しか温まらず、副交感神経が優位になりません。できるだけ湯船に浸かり、気分よく朝を迎えましょう。
●「涙活」で心をスッキリ
泣くことで呼吸が深くなり、心拍が安定します。大声で泣いても静かに泣いても、効果は変わりません。また、泣くとセロトニンやオキシトシンなどの「幸せホルモン」と呼ばれる脳内物質が出ます。
ちなみに、スポーツ観戦やコンサートなどで高揚したり感動したりしたときに出る涙は、運動と同じく交感神経を一時的に高め、下がるときに副交感神経のスイッチをオンにする作用があります。余韻に浸っている間のさわやかな気分は、副交感神経が優位になった証です。
●睡眠で記憶を整理
睡眠には、辛い記憶を整理し、前向きに捉え直せるようになる作用があります。ただしそれには、ぐっすり眠ることが不可欠です。
記憶を整理するために必要な睡眠時間には、個人差があります。朝起きたときに嫌なことを引きずっているなら、睡眠時間が足りていないのかもしれません。その日の晩は、睡眠時間を長くとるようにしてください。
【「マイナス貯金」のすすめ】
「感性アナライザ」を装着して生活をしている被験者の脳波を観察すると、「満足度」と「快適度」、「ストレス度」と「嫌度」を感じる出来事が、それぞれ同じだけ起きていることがわかります。悪いことが起きたとしても、そのあとには必ずいいことが起きるようなのです。
そこでおすすめしたいのが「マイナス貯金」という考え方。嫌なことがあるたびに、「マイナス貯金が貯まった! そのぶんいいことが起きるはず」と期待しましょう。人は期待したとき、セロトニンやオキシトシンなどの「幸せホルモン」が出て前向きになり、行動にもよい変化が現れます。考え方を変えて、機嫌のいい時間を増やしましょう。
香りの力が不機嫌に効く
鼻と脳は近い場所にあるため、香りは脳に作用しやすいことがわかっています。アロマオイルやハンドクリームなどで、生活に香りをうまく取り入れましょう。
●ネクタリンの香り...イライラを抑える
ネクタリン(桃の一種)の香りを30秒嗅ぐと、「ストレス度」が嗅ぐ前よりも50%下がります。しかも、その後4時間に渡って効果が持続。不満が溜まっているときに効く、おすすめの香りです。
●オレンジの香り...集中力がアップ
オレンジの香りは「集中度」を高めるので、仕事中などに嗅ぐと◎。人が集中力を保てるのは長くて40分程度ですが、オレンジの香りには2~4時間ほど集中力をキープさせる効果があります。
●懐かしい香り...リラックスする
昔使っていた香水など「懐かしい香り」を嗅ぐと、その頃の思い出がよみがえってくるはずです。過去を懐かしむ行為には副交感神経を活性化させる効果があり、感情を安定させます。
●ゆずの香り...心を和ませる
ゆずの香りを嗅いだ被験者は、「好き度」の脳波がアップ。脳は何かを好ましく感じたときに、ストレスを和らげるオキシトシンを分泌します。穏やかな気持ちになりたいときは、ゆずの香りを嗅ぎましょう。
周囲への「フキハラ」に要注意!
職場に不機嫌な人がいると、席が離れているのに自分までイライラしてしまうことはありませんか? それは不機嫌なときの脳波が、周りの人にも伝わるからです。その場に不機嫌な人がいるだけで、周りの人にも嫌な感情が伝播してしまいます。
自分の機嫌が悪いために周囲まで不機嫌にする「不機嫌ハラスメント」=「フキハラ」をしないように、以下のポイントを心がけましょう。
\落ち着くまで一人になる/
不機嫌を自覚したら、できるだけ席を外し、運動をしたり泣いたりしてストレスを発散させてください。「ワーッ」と声を出すだけでも、コルチゾールは下がります。すぐに一人になることが難しい状況なら、右ページで紹介した香りを嗅いだり、深呼吸したりして、ネガティブな感情を手放しましょう。
\家庭に不機嫌を持ち帰らない/
外出先では、ストレスの原因になるような出来事がつきものです。でも、家庭に不機嫌を持ち帰ると、家族への「フキハラ」になりかねません。帰宅するまでに、心を落ち着かせましょう。気になるお店に立ち寄ったり、一駅ぶん歩いたりするなど、可能な範囲で気分転換をしてから帰ることが大切です。
\「フキハラ」をしたら必ず謝る/
うっかり不機嫌をまき散らしてしまったときは、誠実に謝りましょう。「ごめんね」とひと言伝えるだけで、お互いの感情が和らぎます。「じつは辛いことがあって……」と状況を説明するのもよいでしょう。「不機嫌なのは自分のせいじゃないんだ」とわかることで、相手は安心できます。
【満倉靖恵(みつくら・やすえ)】
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授、同大学医学部精神・神経科学教室兼担教授。脳波をはじめとした生体信号解析、脳波によるリアルタイム感情認識などの研究に従事。著書に『フキハラの正体』(ディスカヴァー携書)がある。
![PHPスペシャル 2026年3月号[ラクに生きるための頭と心の整理術]](/userfiles/images/book2/B0G8H77LZ7.jpg)






