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『刀剣乱舞』の蜻蛉切役が見つからず...多才なミュージカル俳優・spiの転換点

spi(俳優)

2023年07月04日 公開

 

舞台人生を激変させた「運命的な出会い」

――ミュージカル『RENT』にアンサンブルとして出演後、ベニーという本役を得たのが11年前。当時はまだ25歳でしたよね。それからの11年間で、ご自身の舞台人生や演劇観を激変させた、いわばターニングポイントとなった作品について教えてください。

【spi】それはやっぱり『刀剣乱舞』と言いたいですが、本当のターニングポイントは、その直前かもしれません。2016年に出演した『H12(エイチジュウニ)』という日本のオリジナルミュージカルのゲネプロ(最終リハーサル)が、大きな転換点になりました。

実は、その『H12』の脚本家・御笠ノ忠次(現在は本名の伊藤栄之進として活動)さんは、当時ミュージカル『刀剣乱舞』でも脚本家をされていて。その頃、『刀剣乱舞』の重要キャラ・蜻蛉切の役ができる俳優を探していたそうなんです。

2.5次元の俳優さんって、美形でスラっとした細身の方が多いじゃないですか。でも蜻蛉切の役は、歌って踊れて、芝居もバッチリで、さらに新日本プロレスの棚橋弘至選手みたいにガタイがいい、そういう人にしかできない役柄(笑)。なかなかそういう俳優が見つからない中で、そのとき現場にいた僕を、御笠ノさんが見つけてくれたんです。

――『刀剣乱舞』出演の裏に、そんな運命的な出会いがあったんですね。

【spi】それと、直近ですがもう一つ。昨年出演した『ミュージカル「手紙」2022』も、大きなターニングポイントでした。弟の学費のために罪を犯して収監された兄から弟へ送られる書簡について描いた作品で、初演は獄中の兄に焦点を当てた演出。それを僕が、再演にあたって「観る人が、手紙を受け取った弟の心情に心を寄せるような内容にしたい」と演出の藤田(俊太郎)さんに提案し、演出を大幅に変えてもらったんです。

というのも、実はこの作品、手紙の書き手である兄の実情(=つらい中で努めて明るく振る舞う)と、手紙を受け取った弟が感じる兄への印象(=自分のせいで家族がどれほど苦しんでいるかわからない、能天気でムカつく奴)が大きく違っていて。

その場合に、兄の「実情」よりも、弟の受ける兄への「印象」をわかりやすくするほうが、観客の共感をより強く誘えるんじゃないか、と...難しい話ですみません。

以前から「役柄をそのまま生きる」という演じ方に疑念を抱いていたこともあって、「観る人の共感に寄り添う」という演じ方を形にできたことは大きな転換点でした。あれ以来、自分の演劇観も大きく変わりましたね。

 

社会のため、家族のためにどう生きるか

――spiさんのインタビューには、よく「社会貢献」という言葉が出てきます。やはり、軍人という職を持ちながら劇団の座長まで務めたお父様の「仕事以外でも人とつながり続けていた姿」が大きく影響しているのでしょうか。

【spi】それは大いにありますね。父の姿は、僕の社会貢献への想いを形成するピースの1つです。でも、別にそれだけが理由でもありません。例えば、初めて『RENT』に出演したとき、振付師の方に「お前は体がデカいんだから、人に道を作るためにその体を使いなさい」と言われたことを今も鮮明に覚えていたり。

2019年頃に、マツコ・デラックスさんがテレビでしみじみ社会貢献の話をされているのを観たのもそうですね。なぜか妙に心に響いて...たまたま自分が「人のために生きるには」と考えていた時期、ということもあるんだと思います。

――何か具体的に、目指している目標はあるんでしょうか。

【spi】まず、先ほども言った「日本の2.5次元作品を世界へ」というのは、一つの大きな目標です。舞台上でのパフォーマンスについても、観る人がスッと「ああ、この悩みを抱えているのは自分だけじゃないんだ」と思えるような、作品の持つ性質や魅力を増幅させる演技がしたい。

でも、一方で「別に、何か具体的な目標を考えなくてもいいんじゃないか」とも思っていて。日々小さなバタフライエフェクトを繰り返して、小さなポジティブが周りに広がっていけば良い。

僕みたいな人生を送っていないと見えないものもあるはずですし、それを振りまくことで、一人でも多くの人に「人生、案外チョロいかも」と思ってもらえたらいいのかな、と。

――もうあと4年ほどでspiさんも40歳。40代、50代はこう過ごしたい、こう生きていきたいなどのビジョンがあれば、ぜひお聞きしたいです!

【spi】40代になる頃には、海外での活動も本格的に始めていたいと思っています。もちろん日本での活動も続けるつもりですが、昼間にロサンゼルスを歩きながら「今からニューヨークに飛んで撮影だ。あー、日本に帰りたい。ホームシックだ」って、自分が言っているシーンを今から想像しているんです(笑)。真田広之さんのように、海外で「アジア人俳優といえば?」みたいな存在になれたら最高ですね。

あと、先ほども社会貢献の話をしましたが、自分のことばかり考えていると、人間ってどこか歪んでいくと思うんです。自分ばかりでなく他人のために生きることは、今後も意識していきたいですね。

人生の価値観を、努めて他人中心にシフトしていく、みたいな。社会のため、家族のため、どう生きていくべきか。今後は、それも探っていきたいですね。

【spi(すぴ)】
俳優。1987年、神奈川県生まれ。幼少期よりミュージカルを軸に活躍し、近年は舞台や2.5次元作品にも活躍の幅を広げている。主な出演作に、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズ、『ジャージー・ボーイズ』、『信長の野暮』など。7月8日からは主演舞台『シュレック・ザ・ミュージカル』がスタート。音楽パフォーマンスユニット「ZIPANG OPERA」のメンバーでもある。主演を務める映画『SINGULA』(堤幸彦監督)プロジェクトも進行中。

 

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