モチベーションタイプを見抜く「キャリアアンカー」
メンバーのモチベーションを整理するのに役に立つのが、組織心理学者のエドガー・シャインが提唱している「キャリアアンカー」という概念です。
アンカーとは船の錨(いかり)の意味であり、不動のものということでこの言葉が用いられています。キャリアアンカーとは、個人が自らのキャリアを形成する際に最も大切で、譲ることのできない価値観や欲求のことで、次の8つに分類されています。
各タイプの特徴を端的に言えば次のようになります。このうち誰しもいずれか1つが当てはまるとされています。
①専門・職能別能力......専門家としての能力を発揮したい
②経営管理能力......組織の中で出世したい
③自立・独立......自分のペースやスタイルを守って仕事を進めたい
④保障・安定......雇用が保障された安定した状態で働きたい
⑤起業家的創造性......創造性を発揮し、独立・起業したい
⑥奉仕・社会貢献......世の中のためになりたい
⑦純粋な挑戦......あえて困難に飛び込んで挑戦したい
⑧ライフスタイル......プライベートと仕事とのバランスをとりたい
たとえば、組織の方針が急に変わって、メンバーの気持ちの切り替えが難しいような場面において、各メンバーにどう伝えるべきか、キャリアアンカーを基に考えてみます。
メンバーのAさんのキャリアアンカーが、①「専門・職能別能力」である場合には、「Aさんにやってもらいたいことは基本的に変わりはありませんが、よりAさんの専門性を広範囲に活用していただく必要がありそうです」と伝えます。
Bさんが②「経営管理能力」であり、組織のリーダーを目指したい人である場合には、「こういう方針転換は辛いけど、組織で仕事をしている以上、どうしても避けられず、メンバーの気持ちを切り替えさせることがとても難しい。このあたりがリーダーの腕の見せどころでもあるけど、Bさんだったらどんなふうに伝える? ちょっとしばらくの間、皆の状況を観察して、適宜フォローしてくれる?」と伝えます。
Cさんが⑦「純粋な挑戦」である場合、「さらにチャレンジングなミッションに変わってしまった。状況変化に強く、プレッシャーを楽しめるCさんの出番だね。頼りにしてるよ」と伝えます。
キャリアアンカーを上手く活用した接し方をすることで各人とも気持ちを切り替えやすくなり、新たな方針に基づいてスピーディな転換が図りやすくなるでしょう。
【相原孝夫 (あいはら・たかお) 】
人事・組織コンサルタント、作家。株式会社HRアドバンテージ代表取締役社長。早稲田大学大学院社会科学研究科博士前期課程修了。マーサージャパン株式会社代表取締役副社長を経て現職。コンピテンシーにもとづく人材の評価・選抜・育成および組織開発に関わる企業支援を専門とする。 職場で他者の模範となり、継続的に高い成果をあげている人材である、ハイパフォーマーへのインタビューを30年以上続けており、これまで延べ3,000人以上を調査・分析している。 著書に『人望が集まるリーダーの話し方』(かんき出版)ほか多数。