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【OFFへの誘い】自転車ライフをはじめよう

疋田智(自転車ツーキニスト)

2011年01月22日 公開 2024年12月16日 更新

自転車はもっと愉しくなる可能性がある!

 自転車は日本人にとても身近な乗り物です。でも、あえて言わせていただけば、多くの方々は、今の乗り方では、自転車の真の愉しみを充分に引き出せていないのではないかと思います。自転車は、正しい知識を身につけるだけで、もっと快適に、もっと便利で安全に、人生の可能性を広げることのできる乗り物なのです。
 かくいう私は、10年以上前に片道12kmの通勤を自転車にかえてからというもの、自転車の魅力にとりつかれてしまった一人です。以来、自転車ツーキニスト(自転車で通勤する人)として自転車ライフを愉しんでいます。「自転車の魅力は何か」と問われれば、健康づくりにもっとも最適なスポーツであり、旅や散策にいざなってくれる趣味であり、交通手段という実用でもあることです。さらに、お財布にも環境にもエコな乗り物であること。これほど多彩に活用できる乗り物はほかにあったでしょうか。
 まだまだ知られざる自転車の愉しみについて、皆さんにご紹介していきましょう。

最大の変化は心身が研ぎ澄まされること

 自転車に乗るようになって、私の身に起きた驚きの変化といえば、心身ともに健康になったことです。一年で体重が17キロも落ちてしまったのです。なんと身体が軽くなったことか。マラソンなどのように膝に負担をかけず、歩くよりカロリー消費しますから、これほど健康的で確実に効果が得られるダイエット法はありません。
「いい歳して自転車なんて」と思う方もいるかもしれませんが、自転車は高齢の方ほどおすすめしたいスポーツ。漕ぐ動作は体幹を鍛えます。とくに腰と太ももをつなぐ腸腰筋と、お尻にある大臀筋が強化されます。これらは全身の筋肉の30%を占め、立ったり歩いたりの動きに関わる重要な筋肉。いくつになっても鍛えることができる、いや鍛えるべき筋肉なのです。
 さらにはバランス感覚や方向感覚、反射神経などが刺激され、脳を活性化する効果もあるようです。自転車に乗っている最中は、運動を支配する延髄や小脳が活性化しますが、大脳はリラックスした状態に入ります。そうすると頭の中にアイデアがどんどん湧いてくる。こうして私はテレビ局に勤務するかたわら、10年で24冊もの本を書き上げました。
 さらに、自転車は現代人にとって「積極的休養」の手段です。私もそうでしたが、よく眠れない人は、頭は疲れているのに身体が疲れていないのが原因。自転車に乗ることで気持ちいい疲労感がおとずれ、ふとんに入ればぐっすりです。
 なお自転車でこれらの目的を達成するならママチャリ(通常の自転車)より、左頁にあげたスポーツサイクルが断然おすすめです。なぜなら、ママチャリは重いため、スピードが出ず、長距離を走るのにまったく施していないのです。

左側通行&車道走行が安全のための自転車の作法

 自転車の魅力を知ったら、安全のための作法もぜひ身につけていただきたいと思います。なぜなら、交通マナーを守ることは身を守る最大の方法だからです。
 まず、「左側通行」。交通法規上、車両の一種なので当然なのですが、道路の右側を走る自転車をじつによく見かけます。自転車事故の大半は、右側通行の自転車が起こしているのです。右側を走る自転車はクルマから死角になりやすい、さらに、クルマの流れに逆らうことで、対向車との衝突事故が起こりやすい。正面衝突の事故数は追突の4倍にものぼるのです。
 次に「車道を走る」。ご存じかと思いますが、現在の道路交通法では自転車は歩道を走ってはいけないことになっています。歩道はドライバーから見ると、視野の外にあります。ガードレールや縁石で囲われた道を走る自転車は目に入ってこない。しかし、歩道を走る自転車は交差点を渡るとき車道に出てきます。そのとき、クルマからは自転車が急スピードで現れたように見え、とても危険なのです。
 左側通行と車道走行。ルールを守ることで、ドライバーから自転車の存在がしっかり目視され、自転車とクルマが車道をシェアする健全な道路環境が実現できるのです。

自転車の旅で最高の自由と達成感を手に

 自転車のもたらす爽快感と自由さに惚れ込んでしまった私は、旅だって自転車派です。これまでに47都道府県すべてを走りました。自転車を分解して輪行袋に入れて電車や飛行機に乗り、現地で自転車を乗り回すスタイルです。
 風景をゆっくり楽しめるし、何かを発見したらさっと降りられる。少し足をのばしたいときも楽に動ける。クルマより徒歩より、ずっと自由度が高いのです。何より土地の空気を全身で感じて、自分の足でめぐったという達成感が残ります。
 心身の刺激に満ちているのが自転車の旅。まずは近所の名所めぐりや日帰りサイクリングから始めてみてはいかがでしょうか。慣れたら、ぜひ自転車旅に挑戦してみてください。現地でレンタサイクルできる観光地も増えています。
 初心者にもやさしくて、最高のサイクリングロードとしておすすめしたいのが瀬戸内海の島々を結ぶ「しまなみ海道」です。一日で走れる距離でサイクリングロードも整備されています。海を眼下に島と島を結ぶ橋を渡るときは、まるで天空の回廊を走っているよう。自転車の素晴らしさを最高の場所で堪能していただけると思います。
(取材・文:麻生泰子/写真・江藤大作)

疋田 智(ひきた さとし) 疋田 智(ひきた さとし)
1966年、宮崎県生まれ。東京大学文学部卒。勤務先の東京・赤坂まで自転車で通う自転車ツーキニスト。『筑紫哲也NEWS23』『ブロードキャスター』など報道畑を経て現在、TBS情報制作局プロデューサー。『自転車ツーキニストの作法』(ソフトバンク新書)など著書多数。

雑誌紹介

『PHPほんとうの時代』2011年1月号

『PHPほんとうの時代』2011年1月号

「65歳定年制」が広がる中、人生のセカンド・ステージに対する準備や考え方が大きく変化しています。定年後は、趣味など好きなことに打ち込み、スケジュールを気にしない旅をしたい。そんな人生設計のターニングポイントである55歳から考えたい「お金」「働き方」「夫婦関係」「趣味の楽しみ方」......いきいきとした暮らしを実現するための準備や心構えを、さまざまなジャンルからアドバイスします。

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