中国の恋愛事情と日本人男性
きっと、日本のみなさんは驚くでしょう。中国においては、高校生以下の学生は恋愛禁止です。手を繋ぐことも許されません。見つかった場合は、学校の先生にも両親にもひどく怒られ、男女は別れなければいけません。中国では、学生は勉強に集中するものだとされているのです。
それでも、片思いなら問題ありません。
「初恋はいつですか?」
今のような仕事をしているせいか、しばしば聞かれることがあります。
初恋は高校生のとき。相手は同級生でした。もちろん、私が一方的に心の中で想っていただけです。私は幼いころから勉強ばかりしていたので、絵を描いたり、歌ったり踊ったり、楽器を弾いたりするのが不得意でした。だからでしょうか、芸術的な才能がある人に魅力を感じる傾向がありました。
好きになったきっかけは文化祭でした。ステージで披露された彼の歌が私の心に響きました。歌が上手だという才能に惹かれたのです。外見は憶えていないくらい、顔やスタイルは関係ありませんでした。特徴を強いて言うなら、色が白かったことでしょうか。
芸術的な才能も、色白な肌も、私が持っていないものです。自分にはないものを持っている人を好きになるという話は聞いたことがあります。たぶん私もそうだったのでしょう。
彼とはどうなったか?
何もありません。高校を卒業してバラバラになっただけです。恋愛禁止なので、告白なんてとんでもない。
「想いを伝えられないなんて悲しいね」
日本の友達に言われました。でも、悲しい話ではありません。中国人にとっては、あたりまえのことなのです。
大学生になると、恋愛禁止ではなくなります。私が通っていた大学は、正確に言うと女子大ではありませんが、学生のほとんどが女子でした。クラスで男子が占める割合は、6分の1程度。そうなってくると、先生も含めて、男子の人気は高くなります。
私が大学1年のとき、同級生に告白されたことがありました。しかも入学式当日に。彼とは少しだけお付き合いしましたが、長続きしませんでした。彼が浮気をしたのです。私は彼を責めました。しかし、それよりも女子だらけの環境に腹が立ちました。
「女子大なんて大嫌い!」
もちろん、そのときだけの感情です。
「最近の日本は草食系男子が増えた」と言われていますが、日本人女性のみなさんは、どう思いますか? 私は日本に来てまだ約3年ですが、「なるほど、そうかもしれない」と感じています。
自分から女性に声をかけてくる男性が、中国よりも少ないように思います。私が抱いている「草食系」のイメージには、消極的という以外に「自分に夢中」ということがあります。
例えば、電車の窓に映った自分の姿を見ながら髪型を直したり、女性よりも甘い香りがする香水をつけていたり。先日、大学院で隣に座った男性は、ファンデーションを塗って、アイラインまでしっかりと引いていました。「おねえ」ではないと思いますが、真実は分かりません。
また、日本人男性は総体的に"レディファースト"の気持ちが足りないと思っています。買い物をしているとき、女性が重たい荷物を持って、その後ろを男性が手ぶらで付いていくといった光景を目にしたのは、一度や二度ではありません。
私は日本語学校の先生に聞きました。
「日本の男性はどうして、女性に荷物を持たせるのですか?」
「女性にとってバッグはファッションのひとつだから」
先生はそう答えましたが、私の本音は「バッグは自分で持ちたいけど、荷物は男性に持ってほしい」です。わがままでしょうか。
現在、私の恋愛については、残念ながらおもしろいエピソードがありません。理想の男性のタイプは、話をしなくても"心"が通じ合う人です。国籍や外見は関係ないと思っています。何より心が大事です。
しかし、そんな私でも条件があります。日本のサラリーマンの多くは、仕事や接待で、まともに家に帰って来ないようです。そういう人は嫌です。
変わる中国/若者の本音
「反日感情についてどのように思いますか?」
日本人は、中国人に嫌われていると思っているのでしょうか。遠慮がちに質問されることがあります。
私はどう答えようかと困ります。もちろん、日本が嫌いだからではありません。質問が曖昧なものにしか聞こえないからです。考え方は人によって異なります。中国は広いので、地域によって受けた教育も違うでしょう。
しかしながら、聞きたくなる気持ちも分かります。両国間には、戦争という過去があるからです。確かに、ある中国の新聞が実施したアンケートによると、日本は「最も嫌いな国」の上位に入っています。でも、それと同時に「最も好きな国」の上位にも入っているのです。それが実情ではないでしょうか。
また、インターネット上で「日本が嫌い」「中国が嫌い」と論争が起こることがあります。でも、実際はどうなのでしょう。
ネットに「日本が嫌い」と書き込んだ中国人は、いつも日本の化粧品を使っているかもしれません。日本アニメの大ファンで欠かさず見ているかもしれません。
さらに、嫌いになったのも、パソコン画面を見ているうちに、なんとなく...なのかもしれません。なぜなら、その人が見ている狭い画面は、日本が嫌いな人が集まる場所だからです。
「バーリンホウ」や、さらに若い中国人は、インターネットが得意です。インターネットを上手に利用すれば、正しい情報を得られます。実際に旅行や留学で、日本へ来たことがある若者も増えたでしょう。学校の先生や教科書だけではなく、自分の目で見て、日本が好きか嫌いかを判断することが可能になっているのです。
私が知っている限りでは、中国の若者の多くが、客観的に物事を見ています。歴史は過去の出来事であり、現在の日本とは、切り離して考えています。
戦争そのものを憎むことがあっても、「日本の化粧品がいい」と思えば抵抗なく使い、「日本のアニメがおもしろい」と思えば見るのです。私に限って言えば、「日本が嫌い」という中国人がいても、「私は日本が大好きです」と声を大にして言います。
また、若者でなくとも、中国人の多くは、"メイド・イン・ジャパン"を、ひとつのブランドのように感じています。家電製品の質の良さは、日本製の先を行く物が中国製品にはありません。化粧品も女性に大人気なので、おみやげに最適です。
こんなこと書いていると、今の中国の若者は、「愛国心がない」「政治や歴史に無関心」と悪く思う人がいるかもしれません。そうではなく、客観的かつ冷静に考えることができる世代なのです。
段 文凝(だん・ぶんぎょう)
中国・天津市出身。2009年5月来日。同年まで天津テレビ局に所属。2011年4月より、NHK教育テレビ『テレビで中国語』にレギュラー出演。同年から早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース在学。NHK語学番組に出演と同時に、多くの中国語の教材にもナレーション出演。2011年10月、東京国際映画祭『東京・中国映画週間』の司会を担当。2012年から中国語コミュニケーション能力検定(TECC)のイメージキャラクターを務める。中国語学習者に大人気、インターネットでも話題となっている。
主な出演に『DVD&CD付き 基礎から学べる中国語<発音と文法>』(PHP研究所)『読める!話せる!26のコツで身につく中国語の基本』(日本経済新聞出版社)『早稲田式20ステップ即修ビジネス中国語』(空間概念研究所)『中国語講座 すぐに使える短いフレーズ』(ヤマダパソコン教室)などがある。