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日本人が「句読点なし」で文章を読めなくなった理由

2022年04月12日 公開

山口謠司(大東文化大学文学部教授)

山口謠司

昔の日本人は活字を読むときに「音読」をするのが当たり前だった。しかし読める量を増やすために、日本人は「黙読」するようになる。本来、日本には必要なかった「てんまる(句読点)」が、なくてはならないものになった背景とは?

※本稿は、山口謠司[やまぐち・ようじ]著『てんまる 日本語に革命をもたらした句読点』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

音読か黙読か

皆さんは、ふだん、本や雑誌、新聞を、どのようにお読みでしょうか?ほとんどの人は、黙読だと思います。でも、できれば、新聞は音読してみるといいと思います。

なぜかというと、明治時代、日本で新聞が発行された時代、読者は、新聞を音読していたからです。新聞を音読することで、新しい時代を作っていく言葉を耳と目と口を使って、身体全体で受け入れようとしていたのです。

時代は、いつも言葉とともに作られます。そして、それは、目からよりもむしろ耳から早く入ってくるのではないでしょうか。

それは、子どもの言語の習得を考えてみても分かります。

子どもは、まず読み聞かせをしてもらって、ある音の連続が特定の物や行為を指すことを無意識のうちに認識し、それが文字として表記されることを少しずつ学んでいきます。

「ママ」「パパ」「ババ」「ジジ」などから始まって、「うみ」「やま」「かめ」「コアラ」などと、初めは身近な単語を覚えていくのではないでしょうか。

それから次第に動詞や形容詞を覚えたりして、一文が言えるようになります。

ただ、小学校に入っても、低学年の間は、文字と発音が必ずしも一致しない場合も少なくないため、たくさんの音読をさせられます。そして、小学校の中学年から高学年になると、次第に音読を止めてしまいます。

なぜかというと、音読をしていると、頭の中にこだまする音が邪魔になって、早く先に読み進めることができなくなるからです。

受験を目指したりするようになると、音読は不利になります。先生たちも、ほぼ、小学校高学年になると「黙読」を勧めるようです。

 

口をモゴモゴしながら読む人

最近は、もう、ほとんど、本を読むのに唇を動かしている年輩の方を見ることはなくなりました。

でも、私がまだ高校生だった時期、昭和50年代、1980年よりちょっと前までは、新聞を読むのにモゴモゴと唇を動かして、小さな音を出しながら読んでいる人たちは少なくありませんでした。

当時はまだ、明治時代末期に生まれた人もいらっしゃいましたし、なんといっても戦争を経験した人たちも多くいらっしゃいました。

こういう言い方をしては失礼ですが、教育を十分に受けることができなかった人たちは、「速読」をする必要もない、ほぼ現在の小学校4年生程度の学力で修学を終えた人たちだったのです。

したがって、「音読」から「黙読」への滑走ができず、文章を読む時には唇を動かして音を脳に響かせる方法で、この方々は本を読んでいらっしゃったのです。

今でも、私の耳底(じてい)には、祖母が小学生の私に言った言葉が残っています。「口を動かして本を読むと、恥ずかしいからね!」

その時には何を意味しているのか、分からなかったのですが、おそらく祖母は、「黙読」ができることが、ある意味教育を受けた人という認識であることを私に教えようとしていたのだろうと思います。

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