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生き方

同じ見た目の「感情をもたないゾンビ」と「人」を見分けられる? あなたの思考力を問う2問

笠間リョウ

2024年07月16日 公開

同じ見た目の「感情をもたないゾンビ」と「人」を見分けられる? あなたの思考力を問う2問

日々、膨れ上がる情報の波を前に過ごしている私たちだが、情報に振り回されないために必要なのは、やはり「自分の頭で考える力」ではないだろうか。そんな力を鍛える最適な方法として注目されるのが、実際の実験を行わずに頭の中で問題を考える「思考実験」である。

思考実験は、いわば考えるゲームのようなもの。楽しみながら取り組めて、思考力も身につけられる現代人の強い味方だ。ここでは、企業研修で思考実験を積極的に行う笠間リョウ氏の著作より、哲学的思考のおもしろさに触れた問題を2つ紹介する。

※本稿は、笠間リョウ著『頭がいい人の論理的思考が身につく!大人の思考実験』(総合法令出版)より一部抜粋・編集したものです。

 

ゾンビウイルスで生き返った死人と人間の違い

「哲学的ゾンビ」の思考実験をしてみましょう。

今は20XX年の未来です。医療や科学技術が進歩し、ウイルスや人工知能、ロボットの研究でも大きな進展が見られます。ある研究チームが、死人を生き返らせることのできるゾンビウイルスを開発しました。このゾンビウイルスで生き返った死人は外見や行動、言語能力など、元の人間に非常に近い能力を持っています。

この研究チームは、元の人間の脳の構造と機能をほぼ完全に生き返らせるウイルスを開発しましたが、このゾンビウイルスでゾンビとなって生き返った死人には意識や感情が全く存在しないことがわかりました。

つまり、このゾンビは外見や行動だけでなく、物理的にも全く人間と同じように振る舞いますが、意識や感情がありません。このゾンビは周囲の環境に反応し、知覚し、行動しますが、それらの反応はすべて機械的な計算処理によって実現されているとされています。

果たして、あなたはこのゾンビを見分けることができるでしょうか?

「哲学的ゾンビ」とは、物理的には人間と同じような外見や行動をしながら、内面に意識や感情が全くない存在です。この思考実験は、意識や心の問題を探求するためにオーストラリアの哲学者デイビット・J・チャーマーズによって考えられました。

 

他人の感情を完全に読み取ることは不可能

「哲学的ゾンビ」に登場するゾンビは、見た目は普通の人間です。違うのは意識がないだけ。感情が表に出ていても、それは機械的に計算されて出力されているだけに過ぎません。

ただ、実際の人間はどうでしょう? 表に出している感情と実際に心の中で思っていることは必ず一致しているのでしょうか? 次のような経験はないでしょうか?

・納得していないけど、とりあえず「ごめん」と謝っておこう
・もらったプレゼントが嬉しくないけど、とりあえず「やったー」と喜んでおこう
・ケンカをしているときに「お前なんか死んじゃえ」と言ってしまった

このように、みなさんの日常でも表に出ている感情と心の中で思っていることが違うことはよくあることなのです。「哲学的ゾンビ」に登場するゾンビを他の人がゾンビだと特定をすることは極めて困難なことだといえるでしょう。

そもそも、感情とは自分が経験したことを主観的に感じることであり、他人からはわかりません。感情は、家族や友達、パートナーであっても絶対に100%理解することはできません。あなたは果たして本当にこのゾンビを見分けることができるのでしょうか?

「哲学的ゾンビ」は、意識の本質や意識の起源、身体と心の関係などを考えさせられる思考実験です。結局、人間は自分以外の感情を完全に読み取ることは不可能だということがわかります。

 

曖昧な概念にひそむ「砂山のパラドックス」

では、もう一つの思考実験を紹介します。

あなたは、夏休みに海に行きました。砂浜には大きな砂山が置かれていました。砂山から1粒、砂を取ったら、どうなるでしょうか?

あなたは、恐らく「砂山のまま」と答えると思います。しかし、この砂山から砂を取り除く作業をずっと繰り返したらどうなりますか?

ついには、砂山は砂1粒になってしまうかもしれません。それは砂山といえるのでしょうか?

これは「砂山のパラドックス」、または「ソリテスのパラドックス」ともいわれています。ソリテスは、ギリシャ語で積み重ねるという意味のソロスが語源になっています。このパラドックスは、言葉の曖昧さによって、生み出されてしまうパラドックスなのです。

砂山は何粒か定義されていません。そのような曖昧な概念に対して、論理を適用すると変な結論が導き出されてしまうのです。新しい商品をつくるときの会社の会議も、この砂山のパラドックスと同じようなことが起きていると考えられます。

「新規性を大事にした商品を考えろ!」
「売れる商品をつくれ!」
「人気が出るサービスを提供しろ!」

こうした号令が上司から伝わっていても、何から始めればいいのかわからなくて、迷ってしまう人も多いでしょう。そのとき、砂山のパラドックスのような問題があることが多いのです。

こうした問題を避けるためには、新規性とはどのような方向の新規性を考えるのか、また、何を表すのか、売れるとはどれくらい売れることなのか、などを決めておくことが必要です。
概念が曖昧なことが原因で生み出されるパラドックスなのです。

この「砂山のパラドックス」と同じように、定義している概念が曖昧で、結論が奇妙になってしまうパラドックスはいくつもあります。

著者紹介

笠間リョウ(かさま・りょう)

1973年生まれ。都内の大学院卒業後、コンサルティング会社に就職。さまざまな商品アイデアを生み出したり、画期的な販売戦略を考えたりするのに思考実験によるトレーニングが役立つことを発見する。現在は会社に在籍しながら、思考実験を用いた企業研修を中心に実施。また、思考実験の成果を生かすウェブプロモーションの立案など多方面で活躍。趣味は哲学書の乱読。将棋にも造詣が深い。著書に『これは「読む」本ではなく「考える」本です』(総合法令出版)がある。

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