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なぜ、同じ仕事なのに「楽しんでいる人」と「つまらなそうな人」に分かれるのか?

鳥潟幸志(株式会社グロービス マネジング・ディレクター)

2024年09月19日 公開 2024年12月16日 更新

なぜ、同じ仕事なのに「楽しんでいる人」と「つまらなそうな人」に分かれるのか?

毎日同じことの繰り返しに感じる仕事...。しかし、同じ仕事でも、人によって感じ方は大きく異なります。ある人は「単なる作業」と捉え、ある人は「大きな目標への貢献」と捉えます。仕事に「意味」を見つけることで、仕事に対するモチベーションは大きく変化するのです。書籍『AIが答えを出せない 問いの設定力』より解説します。

※本稿は、鳥潟幸志著『AIが答えを出せない 問いの設定力』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「自分らしさ」に沿って生きるとは何か?

皆さんは、「自分らしさに沿って生きることができているか?」と問われた場合、どのような答えが頭に思い浮かぶでしょうか?

・プライベートの場では「自分らしく」いられるけど、仕事の場ではそうではない
・「自分らしく」いられる日もあれば、誰かに流されて1日が過ぎてしまう日がある
・そもそも、「自分らしさ」が分からず曖昧な感じがする

これらは、私(鳥潟)がビジネススクールの学生や、仕事の同僚・メンバーに質問をした際にいただいた反応の代表例です。近年は、自分らしく・自分軸・自分の価値観・自己尊重など、自分や自己という言葉が含まれた内容を多数目にします。

実際に、過去数年のメディアでは、自分・自己をテーマにしたタイトルが増えているように感じます。この自己の尊重や「自分らしさ」の追求という流れは、以前から存在していたのでしょうか。少しだけ歴史を俯瞰して確認してみたいと思います。

農耕型社会をベースとする日本では、集団生活・規範が重要視されてきました。国土が狭く、資源が限られている中で、自然というコントロールできない対象を相手に生きていくためには、人間が寄り集まって規律を大切に生活する必要があったのが理由と言われています。

江戸時代には士農工商という身分の区分けが設けられて、それぞれの役割を全うすることが美徳とされてきました。明治維新を経て身分制度はなくなりましたが、20世紀にはいり、会社員の割合が増えていく中で、個人の意見は押し殺してでも、会社組織のために尽くすことがよしとされる文化が強まりました。

このような状態を滅私奉公と表現し、会社員としてのあるべき姿とされてきた側面もあると思います。個人が会社に深く・長くコミットする代わりに、会社側も社員が定年退職する時まで責任を持って雇用する、そのようなバランスが保たれていました。

このように、日本社会では長い歴史の中で「自分」よりも、「組織」や「社会」、「集団」を重要視する傾向にあったと言えます。

それでは、現在はどうなのでしょうか。例えば、就業という視点で見れば、厚生労働省のデータによると、「より良い条件の仕事を探すため」に転職を希望する社会人は2019年時点で127万人と、2002年以降で過去最多の伸びを示しています。

また、新人が会社を選ぶ際の理由についても変化がみられます。株式会社学情が2023年に発表した調査結果では、就職活動において「自分自身が成長できそうか」を重視する学生が9割に迫っています。「終身雇用が当たり前ではないので、成長し続けることが必要だと思う」という声が多数寄せられたようです。

もちろん、これまでのように組織・集団・社会を重視する文化は依然として残っていますが、個人を重視する価値観が近年急速に高まっているとも言えるのではないでしょうか。

 

つまらない仕事と楽しい仕事

毎日多くの時間を使う仕事は、皆さんにとってどのような意味を持っているでしょうか? そして、その意味は自分にどのような影響を与えているでしょうか? 米国の調査会社ギャラップ社が2023年6月に公表した「グローバル就業環境調査」によると、日本では「仕事への熱意や職場への愛着を示す会社員」の割合は5%と、調査した145カ国で最低水準でした。

ほかにも各種調査から、日本の会社員の仕事満足度が低いことが明らかになっています。仕事にやりがいを見出せない場合、プライベートを充実させたり、転職を検討する方もいるでしょう。転職を期にイキイキと仕事に取り組み前向きな人生を送っている方がいる一方で、期待通りの会社や仕事に出会えず数年ごとに転職を繰り返してしまう方もいます。

また、不思議なことに、同じような仕事をしているはずなのに、とてもやり甲斐を持って仕事に取り組んでいる人もいれば、常に不満を持ちながら仕事に向き合う方もいます。この不思議な事象について理解を深めるために、ある有名な寓話をご紹介したいと思います。

レンガ職人の寓話です。知っている方も多いと思いますが、改めて本書のコンセプトに沿って捉え直してみます。

かつて、熱い太陽の下、3人のレンガ職人が働いていました。通りすがりの人が最初の職人に声をかけます。「何をしているのですか?」職人は無気力に、「ただレンガを積んでいるだけです」と答え、肩をすくめました。次に、2番目の職人に同じ質問を投げかけると、彼は少し誇らしげに、「私は壁を作っています」と答えました。

しかし、3番目の職人の目は、別の世界を見ているかのように輝いていました。彼は手を止め、夢見るような声で答えました。「私たちは、人々を魅了する美しい大聖堂を建てているのです」。

彼の言葉には情熱と大きなビジョンが込められており、その目には将来の壮大な建築物を映しているかのようでした。同じ「レンガを積む」という作業でも、それぞれの職人が持つ心の持ちようが、仕事の満足度に大きく影響を与えています。

そして、この寓話のエッセンスは、現代の私たちにも当てはまると思います。目の前の仕事を「作業」と捉えるのか、その作業がその先の「価値」に繋がっていると捉えるのかによって、仕事に向き合う姿勢が変わってくるのです。

ではどのようにして、目の前の「作業」を「価値」と捉えることができるのでしょうか。

ここでご紹介したいのが、「意味の階段」です。具体的には、以下の問いを自分に投げかける形になります。

・目の前の作業は、何に貢献しているのか?
・その貢献は、最終的にどこに繋がっているのか?

イメージしやすいように、社会人向けの動画学習サービスの制作スタッフを例に挙げます。

そのスタッフの主な仕事は、撮影された動画教材を編集することです。具体的には、教材をより分かりやすくするためにアニメーションやイラストを作成し教材に加えていきます。これを「作業」と捉えるのであれば、日々同じような「動画編集」を行っていることになります。そのため、いかに効率的に仕事を終わらせるかという考えが中心となります。

しかし、貢献という意味で捉え直すと、「動画教材を通じて、多くのビジネスパーソンの成長支援をしている」と表現できます。さらに、多くのビジネスパーソンが成長することで、彼らが所属する組織の生産性や業績が高まり、最終的には日本経済成長に繋がります。また、学びと成長を繰り返すことで、そのビジネスパーソンの人生が前向きになり幸せな人生を送ることにつながる、と捉えることもできます。

このように捉えて業務に向き合うからには、動画で学習した後に成果に繋がりやすくするためにはどうするべきか、また、学習を楽しく最後まで続けてもらうためにはどのような工夫ができるのか、といった試行錯誤も生まれていきます。なお、この制作スタッフは私が一緒に仕事をする仲間であり、実際にこのような会話をしたことがあります。

そして、もうひとつ大切なことは、意味の階段を上った先にある貢献は、自分にとってどのような意味があるのか? という問いを自分に投げかけることです。先ほどの事例の場合、「動画教材の編集作業を通して、日本経済の発展に寄与する」という貢献に対して、自分が意味を見出せるのであれば、そこに向けて更に努力を続けることをおすすめします。

しかし、意味を見出せない、異なる領域で貢献していきたいと思うのであれば、もしかしたら仕事内容や会社を変えることもひとつの選択肢に入ってくるかもしれません。

ここで注意が必要なのは、意味の階段は経験を通じてより鮮明に見えてくるということです。そのため、十分な経験をせずに意味がないと切り捨ててしまうのは、そこに秘められている可能性を見過ごすことにも繋がります。自分なりに目の前の仕事に打ち込み、その経験を踏まえて意味の階段をのぼるという流れをおすすめします。

 

著者紹介

鳥潟幸志(とりがた・こうじ)

株式会社グロービス マネジング・ディレクター/GLOBIS学び放題 事業リーダー

グロービス経営大学院 教員。埼玉大学教育学部卒業。サイバーエージェントでインターネットマーケティングのコンサルタントとして、金融・旅行・サービス業のネットマーケティングを支援。その後、デジタル・PR会社のビルコム株式会社の創業に参画。取締役COOとして、新規事業開発、海外支社マネジメント、営業、人事、オペレーション等、経営全般に10年間携わる。グロービスに参画後は、社内のEdTech推進部門にて「GLOBIS 学び放題」の事業リーダーを務める。グロービス経営大学院や企業研修において思考系、ベンチャー系等のプログラムの講師や、大手企業での新規事業立案を目的にしたコンサルティングセッションの講師としてファシリテーションを行う。

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