自分のせいで相手に迷惑をかけてしまうことがあります。そのとき、謝っても、相手の怒りが大きくて、石のように無言だったり、無視されたりする......。そんなつらい状況で、謝る側にできることとは? そして、いちばんやってはいけないこととは?
プロのコーチとして、これまでに2万人以上のリーダーを対象にコーチングやリーダーシップの指導をしてきた林健太郎さんによる書籍『「ごめんなさい」の練習』から、人間関係の修復のポイントを紹介します。
※本稿は、林健太郎著『「ごめんなさい」の練習』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。
「コップ理論」で、ただ水をそそいでいく
相手に「ごめんなさい」を伝えても、うまくいかないことがあります。
たとえば、相手の怒りがおさまらなかったり、石のように無言だったり、うつむいて視線を合わせてくれなかったりするような場合です。
そのとき、「こっちが謝っているのに、その態度はなに!?」と反論するのは、もちろんNGです。許すか許さないかは相手の領域内のことなので、こちらではどうにもできません。それでは、うまくいかないときは、どうすればいいのでしょうか。
相手に繰り返し「ごめんなさい」を伝えてみてください。「ごめんなさい」は、いくら使っても在庫が減ることはありません。在庫は無限。出し惜しみせず、どんどん回数を重ねていきましょう。
ですが、反応がよくない、もしくは返事すらしてくれない相手に、繰り返し「ごめんなさい」を言いつづけるのは、なかなかしんどいですよね。そこで、私が普段「ごめんなさい」を重ねていくときに意識している技術をお伝えします。名づけて「コップ理論」です。
コップが相手の「心」で、水があなたの「ごめんなさい」です。相手のコップに少しずつ水をそそいでいく様子をイメージしながら「ごめんなさい」を伝えます。
コップの容量は相手によって違うし、同じ人でもそのときの状況によってまったく変わるので、どれくらいの「ごめんなさい」でコップがいっぱいになるのかは、やってみないとわかりません。
最初の「ごめんなさい」で足りなかったら、時間を置いて2回目を。それでもダメなら3回目、4回目、5回目......というふうに続けてみてください。
雑念に負けると水位は一気に0パーセントに
「ごめんなさい」を何度も繰り返し伝えるときに意識してほしいのは、相手のコップに入れている水は「炭酸水」だということです。
炭酸水は、そそぐとシュワシュワ泡が立ちますよね。その泡がおさまって静かになるのを待ってから、次の「ごめんなさい」をそそぐイメージを持ってみてください。
つまり、相手があなたの言葉を受けとる物理的な時間をとるということです。その時間なしに炭酸水をそそぎつづけると、水ではなく、泡がコップからあふれてしまいます。それでは本末転倒です。ちなみに、回数を重ねるほど、1回にそそげる水の量は減っていきます。
どんなことも、そうですよね。最初のインパクトがいちばん大きくて、何度も繰り返すうちに印象は薄れていくものです。
1回目でコップの30パーセントまで入った水は、2回目で50パーセント、3回目になると60パーセント......と増え方が鈍ります。ですが、水位は少しずつ確実に上がっているので、くじけずに水をそそぎつづけましょう。
相手は内心、あなたからの「ごめんなさい」を求めています。コップに「ごめんなさい」がなみなみとそそがれたときに、はじめて相手は心を開いてくれるのです。
このコップ理論を知っておくと、自分の雑念にとらわれずにすみます。「こっちばかり謝るなんて腹が立つ!」「どうして、こんなに相手のご機嫌をとらなきゃいけないの!?」といった思いに振りまわされなくなるのです。
その雑念に負けて、ついうっかり「だから何回も謝ってるじゃん!」「さっきから『ごめん』って何度も言ってるよね」などと口走ると、残念ながらコップの水位は一気に0パーセントに戻ってしまいます。
反論するのは、さらなる悪手です。「いつまで怒ってるの⁉」「これくらいのことでしょうもない!」「そっちだって悪いよね!」などと言ってしまうのは、コップの底に穴を開けるようなものです。
とにかく、コップが少しずつ水で満たされていく様子をイメージしながら、淡々と水をそそぐことに集中します。
「イエス・バット話法」では「謝る気はない」と思われる
コップ理論を思い浮かべながら「ごめんなさい」を重ねていくとき、最初はなかなか難しいかもしれませんが、言い訳や反論はせずに、相手の話をただ聞くことに徹してみてください。
あまり腕のよろしくない営業担当者がよく使う手法に「イエス・バット話法」があります。相手の意見をいったん「その通りです(Yes)」と受け入れて、そのあとに「でも(But)」と続けて自分の意見を話すテクニックです。
たとえば、「たしかに、お客様のおっしゃる通りです。でも、この商品には、こういう利点もありまして......」といったものですが、こんなふうに言われると、お客さんの側からは「結局、売りこみか」と感じるものです。つまり、「でも」以降の後半の言葉ばかりが目立ってしまうのです。
「ごめんなさい」を伝えるときも同じです。「ごめんね。でも、私だって......」「ごめんなさい。でも、あのときはしょうがなくて......」と言ってしまうと、最初の「ごめんなさい」はかき消され、相手には「結局、この人に謝る気はないな」という印象が強く残ってしまいます。「ごめんなさい」と「でも」「だって」「しょうがなかった」は、相性が悪いと心得ましょう。
結局、言い訳や反論はせずに「ごめんなさい」をただ繰り返していくことが、相手に心を開いてもらえるいちばんの近道です。