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令和ロマンは別物だった 人気NSC講師が思う、上手い下手ではない「売れる芸人」の条件

本多正識(漫才作家、NSC講師)

2025年03月06日 公開

令和ロマンは別物だった 人気NSC講師が思う、上手い下手ではない「売れる芸人」の条件

漫才作家であり、長年にわたって吉本興業NSC講師をつとめる本多正識さん。お笑い芸人たちがバラエティ番組などで見せる「切り返し力」について書いたご著書には大きな反響が集まりました。

多くのお笑い芸人を指導してきた本多さんから見た、売れる芸人の共通点とは?今年4月からPHP通信ゼミナールにて「切り返し力」に関するコースも開講されるという本多さんにお話しをうかがいました。

 

無名の頃から「売れる」と確信する芸人の共通点

――本日はお時間を頂きありがとうございます。PHPオンラインは、人の生き方や悩みをテーマにしているWEBメディアです。弊社が刊行する月刊誌『PHP』とも重なる内容を扱っています。

【本多】『PHP』は読み始めて50年くらいになると思います。何度も勇気づけられました。

――そうでしたか!しかも、そんなに長い間読んでくださっていたのですね。嬉しいです...ありがとうございます。
では、早速なのですが、質問に移らせていただきます。本多先生は長年、吉本興業NSC講師をつとめていらっしゃいますが、生徒や、お笑い芸人の卵の時から光るものを持っていてその後売れる芸人さんには何か共通点はあるのでしょうか?

【本多】これはいつも聞かれるんですが、説明が難しいんですね。上手い下手ではなく、その人が持つ雰囲気、オーラのようなものなんです。そんなことを感じさせた子たちは100%売れて、いまもこの業界に残っています。

これまでに「絶対に売れる」と最初の自己紹介のときから確信した芸人は、ナインティナインの岡村隆史くん、キングコングの西野亮廣くんと梶原雄太くん、友近ちゃん、この4人でした。

最近では、M-1グランプリ2連覇の令和ロマンなんかも、もう別物でしたね。慶応大学のお笑いサークル出身とはいえ、上手い下手ではなく雰囲気でそう思わされたんです。

――ちょうど先日、髙比良くるまさんが書籍を出されるタイミングで取材させていただきましたが、本当に頭の回転が速い方だと感じました。

【本多】くるまくんは、私と同じなんて言ったら失礼かもしれないけど、本当に「漫才馬鹿」なんですね。1つ振りをもらったら、3つ、4つ答えがすぐに出せる。しかも、その中から一番盛り上がるものを選んだり、あえて2番目に面白いものを出して徐々に盛り上げていったりしてる。本能的なものなのかもわかりませんけど、センスがすごいと思います。

――M-1の2連覇についてはどうご覧になっていましたか?

【本多】今回も優勝できると思ってましたね。あの完成度はなかなかできない。一昨年と昨年あわせて4本ネタを用意するのはかなり大変なはずなんです。

さらに、松井ケムリくんのツッコミも上手くなってパワーアップしてましたね。漫才って二人のコンビネーションなので。いくらボケが面白くてもツッコミが下手やとウケないんです。

令和ロマンはまだまだ面白くなると思います。彼らならもっと色んなパターンの漫才ができると思うし、なんならもう準備しているかもしれませんね。

 

1文字でも削って、笑いを起こす

――若手でカリスマ性のある芸人さんでいえば、2018年のM-1王者・霜降り明星さんも思い浮かびます。

【本多】霜降りの粗品くんは初めて舞台にピンで立ったときから見ているんですが、その頃から彼は特別でした。まだ現役大学生でしたが、舞台監督と「2、3年以内にR-1で優勝するな」と話したほどです。当時から粗品くんには、その場を制圧してしまう力がありましたね。

それで粗品くんに、ピンでやりたいのか、漫才をしたいのか聞くと「漫才したいです」って言うたから、「相方が決まってるなら一回連れておいでよ」と伝えて、せいやくんと二人の漫才を見さしてもらって。「どうでしょう?」と聞くから「粗品くんがいいと思うんやったら、間違いないやろ」という印象でした。

――「場を制圧する力」といえば、司会者として場を上手に回されていた、島田紳助さんの印象が強いです。

【本多】紳助さんがテレビに出られていた頃、あの方は好き勝手言っているように見えて本当に緻密に計算されておられました。

漫才において大切なことは何かをお話しする機会があったんですが、紳助さんは「漫才で大切なんは、無駄な言葉を削ぎ落とすこと」だとおっしゃっていました。例えば15文字で伝えることを14文字、13文字で表現できないか。一文字削るだけでも観客のリアクションは早く来るようになって、それが積み重なって笑いは増幅していくと。

私もなるほどと思って、お話を伺って以降、実践していますが、実際にやろうとすると結構むずかしいんです。

矢野・兵動の兵動くんもまさにセリフを削り込んでネタ作りをしているんですが、彼がピンでやっているツアーは、話をしている間ずっと客席からの笑いが途切れませんね。

――他に、NSC時代から印象に残っている芸人さんはいらっしゃいますか?

かまいたちの山内くんですね。彼はNSC時代はピンで変わったことをやっていて、ずっと能力別で一番下のCクラスに分けられていました。でも、私は当時から「彼ならいける」と思っていました。何より、着眼点が違った。今では見ない日がないくらい活躍していますから、ほんとに嬉しいですね。

 

“努力を当たり前にできる芸人”しか残らない

――ここまでNSCの頃から才能が垣間見えた芸人さんについて主にお聞きしてきましたが、反対に才能より「努力」で登りつめた芸人さんについて教えてください。

【本多】よく例に出すのは南海キャンディーズの山里くんですね。彼は出身が千葉で、大阪のNSCだと関西弁の壁がありました。だから最初の授業で「大阪では無理やと思う」って東京のNSCに編入させてもらうようアドバイスをしました。でも大阪で頑張りたいということで、そのまま残りました。今思うとめっちゃ失礼なことを言ってしまったんですが。

当時はM-1が始まる前だったので、一組3分でネタ見せをしていましたが彼は、オリジナルのネタ帳、講師のダメ出しをメモするノート、そのダメ出しをもとに作るネタ帳の3冊を常に持っていました。ダメ出し用のノートには、他のコンビが講師から受けたダメ出しまで全部メモしていたんです。

質問時間が10分でもあれば必ず質問をしてきました。だから、ネタ見せが終わった後は必ず山里くんとマンツーマン状態になっていました。

彼に限らず、努力で売れていく芸人に共通しているのは「聞く耳」をもっていることです。ただし、何でもかんでも取り入れるのではなく、自分に合うものを選び、合わないものは捨てる。その取捨選択ができる子が伸びていきます。

――すべてのアドバイスを受け入れてしまうのはダメなんですね。

【本多】私は基本的なセオリーは教えますが、あまり具体的なアドバイスはしないようにしています。なぜかというと私好みのお笑いになってしまうからです。ですから、A、B、Cと考えられる選択肢を示して、自分たちに合うものを考えさせる。そうすることで、よりオリジナリティのある面白さが出てくるんです。

――伸びる芸人さんたちの努力の量についてはいかがですか?

【本多】売れた子たちはみんな口を揃えて「努力なんてしてないです」って言います。でも実際は無茶苦茶、努力していますよ。

例えば、銀シャリ、かまいたち、天竺鼠、ジャルジャルあたりのコンビを、コンビ結成時から私は見ていますが、側で見ていて心配になるくらい努力していました。それが彼らにとって普通なんです。その努力を当たり前にできる子しか、この業界には残ってないです。

ただし、努力したから必ず売れるわけではない。努力しないと絶対売れないけれど、努力だけでは足りない世界なんです。

――とても難しい世界ですね...お笑い芸人に向いている人にはどんな共通点があると思いますか?

【本多】芸人に向いているのは真面目な人なんですが、あまり生真面目でもいけないんです。「1+1=2」だけでは足りなくて、3にも4にもなれる人じゃないといけませんね。

だから私が若手のネタを見る時は、上手い下手ではなくて、発想や着眼点を一番重視しています。そこしか見ていないかもしれませんね。

例えばペットボトルひとつとっても、見る角度によって全然違う形に見える。そういう違う視点を持てる人が向いているかなと思います。そして、その発想を努力で形にしていける人が残っていきますね。

 

お笑いブームの光と影

――最近のM-1はエントリー数も増え続けており人気がありますが、NSCの生徒に何か変化はありますか?

【本多】以前は「早くテレビに出たい」という漠然とした目標でしたが、M-1ができて20年ほどでしょうか。4分間の漫才で日本一を決めるという明確な目標ができました。一回戦突破、準々決勝進出など、自分の立ち位置が見えやすくなりました。

ただ、4分では勝負できない芸人もいます。10分の方が面白い人もいれば、短い一発ギャグが得意な人もいる。M-1は一つの指標に過ぎないと思うんです。本来、生き残る道はいろいろありますから。

――現在はやはりお笑いブームなんでしょうか。お笑い芸人さんをいろんなテレビやメディアでお見かけする印象です。

【本多】芸人は頭の回転が速く、臨機応変な対応ができるので重宝されるんです。

ただ、笑いを取らないといけないという本能があるので、政治や社会問題などセンシティブな話題でもそういった立ち回りをしてしまう芸人も多いです。若手から「コメンテーターのオファーがあった」とたまに相談を受けますが、キャリアの浅い子には「もうちょっと待ったら」と言っています。やはり社会や政治、国際的なことまで、広く教養が必要だからです。

例えば、麒麟の川島くんがやっている『ラヴィット!』は芸人らしく彼らのフィールドでやれるんでいいと思うんですが、一般的なワイドショーになると事件や政治問題、自然災害などについても話さないといけない。そこでピントの外れたコメントをしてしまうと信用も失くしてしまうし、その後の芸人人生にも響くと思います。

――芸人さんの露出が増えると同時に、炎上も頻繁に見かけるようになっていますね...

【本多】そうですね。その一方で、明石家さんまさんは政治的発言を一切されません。その真意はわかりませんが、戦略的なものなんだと思います。バラエティの領域に絞って勝負している。

今はSNSでの発信が瞬時に世界中に広がる時代ですよね。20年、30年前なら聞き流してもらえたことでも、今は炎上してしまう。その見極めが非常に難しくなっていると思います。

 

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PHP通信ゼミナールにて、本多正識さんによる「切り返し力」が身につくコースが、2025年春より開講予定です!「ああ言えばよかった...」がなくなるトレーニングを30個収録。テキスト+本多さんの講義動画で、毎日15分、スキマ時間で学習を進めることができます。
詳しくはWEBサイトをご確認ください。

https://hrd.php.co.jp/seminar/#d0e9d87eb78fa54e47cd213ca7606442

著者紹介

本多正識(ほんだ・まさのり)

漫才作家、吉本興業NSC講師

1958年大阪府高槻市生まれ。1979年にラジオ大阪『Wヤングの素人漫才道場』のコーナーに11本連続で漫才台本が採用されたことがきっかけで漫才作家を志した。その後、大阪シナリオ学校通信教育部を卒業(14期卒)、1983年に漫才作家集団「笑の会」に参加した。1984年にオール阪神・巨人の台本を執筆し、ブレーンの1人となり、漫才師や吉本新喜劇に台本を提供、1991年に読売テレビ『上方お笑い大賞』にて秋田實賞を受賞。1990年にはNSCの講師に就任し、担当した生徒数は1万人を超え、ナインティナイン、キングコング、南海キャンディーズ、ウーマンラッシュアワーなどの芸人を指導した。
『M-1グランプリ』『キングオブコント』では審査員を務め、2017年のNHK連続テレビ小説『わろてんか』では脚本協力・漫才指導で参加した。 近年では自身の体験も踏まえ、著書などで子供たちに「いじめのない、笑いのある未来を」というメッセージを発信している。
2021年NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』にて特集回放送、2022年NHK『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』に出演。

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