
飼い猫の多くは飼い主を置いて先立ちます。それは不幸なことではなく、自然なこと。ただ、特にはじめて猫と暮らしているという人にとって、愛猫の命が残りわずかだとは到底納得できないし、がんばって受け入れたとしても、今度は大きな不安に陥ることでしょう。そして考えます。「愛猫の最期をきちんと看取ることができるのか」。はじめてのことは不安がいっぱい。ことは愛する猫の、世界にひとつだけの命。心配するのも当然です。
以下、『まんがで読むはじめての猫のターミナルケア・看取り』(猫びより編集部・編/日東書院本社)より、積極的治療を続けることが限界となったとき、愛猫のために飼い主ができることをまとめました。
治療方針を見極めるタイミング
イラスト:小野崎理香
余命わずかと宣告されても、少しでも希望があれば治療を続けたいと思うのが飼い主ゴコロ。獣医師も知識と技術をフル稼動して治療に臨みます。
それでも限界のラインはあります。薬の限界、猫さんの体力の限界、致死的な副作用の可能性、そして、飼い主さんの体力や気力・経済的な限界など、猫さんの数だけ限界の種類があり、どこかのタイミングで、見極めが必要になります。
当事者(猫)の意思を確認できない動物医療の場合、最終的には飼い主さんの判断で決めなければなりません。これは簡単なことではありませんね。
積極的治療をストップすることを「見放す」と考え、罪悪感を抱く飼い主さんもいます。ただ、猫の病状は上がったり下がったりを繰り返しながら進行するケースが多く、一度治療を休止し、緩和ケアで基礎体力を復活させてから治療を再開するという手もあります。
通院・治療というストレスがなくなったことで免疫力が上がり、元気復活!なんていう話もよく耳にします。
一時的な感情ではなく、そのときの状況、ようす、進行度合いなど、さまざまな視点・角度から考えて、見極めができるといいですね。
QOLを重視した生活を
QOL(クオリティーオブライフ)とは「生活の質」を表す言葉です。人間のターミナルケアで重視されている要素ですが、近年はペット医療でも注目されています。
緩和ケアで痛みや苦痛をとりのぞき、安心できる環境で家族に囲まれ、無理なくその子らしく残りの時間を過ごさせることを目的とします。下痢や吐き気止め、水分補給、食欲増進などの対症療法は行うものの、あとはおだやかに家で過ごします。
QOLを重視した生活こそ飼い主さんの出番です。暖かく心地よい寝床、おいしいごはんはもとより、飼い主さんの手や声、ぬくもりが大きなパワーとなって猫さんを癒すことでしょう。その子の「うれしい」「気持ちいい」を世界でいちばんわかっているのは飼い主さんなのです。「見放した」なんて思わずに、たっぷりと愛情を注入してあげてください。
在宅での緩和ケアがもたらすのは猫さんの安心だけではありません。飼い主さんに大っぴらに猫さんにかまける時間が与えられます。仕事や家族のこと、外での時間など、人にはそれぞれやることがあり、いくら可愛いからといって猫さんにばかりかまけてはいられません。でもターミナル期はそれができる最後の時間。同時に、刻々と近づいてくる「そのとき」への覚悟が固まる時間でもあります。
いっぱいいっぱいなでて声をかけて、がんばっている猫さんの姿を目に焼きつけてください。きっと濃密で尊い時間となることでしょう。
まんが:ななおん
監修:古山範子(獣医師)
医療指導:西村知美(アール動物病院院長)
ケア指導:武原淑子(東京都動物愛護推進員)