↑鼻チューするメトと優しくメトを見守るドトウ
引退馬牧場「ノーザンレイク」は北海道日高地方沿岸の中部に位置する新冠町(にいかっぷちょう)にある、競走や繁殖、乗馬を引退した馬たちが過ごす牧場です。
「ウマ娘」のモチーフともなっているG1ホースのメイショウドトウ(認定NPO法人引退馬協会所有)をはじめ、昨年12月にはネコパンチという新たな仲間も加わり、全部で6頭の馬たちが過ごしています。
そして忘れてはいけない小さな仲間が1匹。牧場のボスとして悠々過ごす猫のメト(推定4歳♂)です。
ノーザンレイクは引退馬たちに牧場の自由猫メト、それに加えお家の中で元気いっぱいに過ごす猫2匹と、とっても賑やか。そんなノーザンレイクでの日々が詰まった書籍『ボス猫メトとメイショウドトウ』が昨年12月、辰巳出版から刊行されました。
その著者でありノーザンレイクで馬たちの世話もする佐々木祥恵さんにお話しを伺いました。(写真・芳澤ルミ子)
メトは草むらから突然ニャアと飛び出してきた
↑ノーザンレイクで馬たちの世話をしている佐々木祥恵さんと元JRA厩務員の川越靖幸さん
――メトはどのような経緯でノーザンレイクにやって来たのでしょうか?
ノーザンレイクに引っ越してきて3日目にメトは現れました。手伝いに来ていた川越の親族が草刈りをしていた時に、草むらから突然ニャアと飛び出してきたそうです。
夕方、メトは厩舎に入ってきて、とにかくニャアニャア鳴いて何かを訴えているようでした。ごはんをちょうだい、仲間に入れてと言っていたように思います。去勢されていたので、以前は飼い猫だったのかもしれません。
――メトはどんな猫ですか?
メトは人見知りを一切しません。誰かが来たら、自分から寄っていきます。うちに来た時からよく喋り、人間と意思疎通をはかろうとしているように見えました。私は動物は全般的に好きでしたがどちらかといえば犬派で、猫を飼うのはメトが初めてだったので、猫が甘えん坊で人に自分の意志を伝えようとする動物なんだと驚きました。
メトは牧場見学の方が来ると、皆が喜びそうなポーズを取ったり、肩や背中に乗ってみたりと、自分がどう振る舞えば良いのかわかっているように見えます。その一方で我が強く、自分がこうしたいと思ったことは必ず押し通すタイプです。
――家にも2匹の猫ちゃんがいるそうですが、どんな子たちなのでしょうか?
メトの後に迎えたサビ猫のチビは推定2歳くらいの女の子で、昨年4月に突然ノーザンレイクに現れました。外出先から車で帰ってきた時に、小さめの猫が車の少し前に歩いて出てきました。
まだ小さかったので、カリカリを持って追いかけたら警戒しながらも食べてくれました。まだ食べたそうにしていたので、急いでちゅ~るを取ってきてあげると、もの凄い勢いで何本も食べていました。翌朝また姿を現したので、フードをあげると目の届く場所にいるようになり、そこから徐々に距離を縮め、家族の仲間入りをしました。
ふくちゃんこと福豆は、昨年9月に保護猫団体から引き取りました。チビはメトと遊びたがるのですが、メトは少し相手をするとすぐに外に行ってしまいます。それでチビに遊び相手をと考え、保護猫団体から生後約4か月の黒猫の女の子を引き取りました。
ケージの中で懸垂したり、電動で動くミニカーをいつまでも追いかけたりするかなりのお転婆で、それを川越が気に入って譲渡していただきました。チビがそのお転婆をもて余し気味になりながらも、家中2匹で元気に走り回っています。
↑ふくちゃんが来てすっかり母親らしくなったチビ(写真・佐々木祥恵)
最初メトはチビを警戒して唸っていましたが、チビが鼻先をメトの鼻先に近づけて甘えているうちに、メトがチビの頭を舐めたり、一緒に寝たりするようになりました。
メトはふくちゃんに対してはまだ警戒しています。ふくちゃんはメトがシャーッと威嚇をしてもあまり動じず、メトがご飯を食べている時に背中やお尻のあたりの匂いを嗅いだりするので、それがまたイラッとするみたいです。ただご飯は一緒に食べても割と大丈夫なようです。
猫たちそれぞれの関係性やその変化を感じられて、毎日とても楽しいですね。
「猫吸い」をする馬たち
↑「メト吸い」を堪能するアシゲチャン(ネガイちゃん・アシゲチャン引退繁殖牝馬の会所有)
――メトは馬たちとは仲良しなんですね
お互いがお互いをどう認識しているかはわかりませんが、そこにいて当たり前の存在という感じがします。ノーザンレイクを開場して間もない頃、メトは馬がいる馬房でも構わず寝ていましたが、それに対してキリシマノホシが少し怒ってみせて以来、メトは馬房では寝なくなりました。意思疎通ができているんですね。感心しました。
馬は臆病な性質の生き物ですが、メトを警戒することは一度もありませんでした。馬がいてもメトは自然体で、厩舎の廊下を時には悠然と、時には足早に通り過ぎていくのですが、馬たちはみんなメトのことをチラチラ気にしています。
メトが馬柵棒(馬房に掛けてあるカンヌキ)の上に乗ると鼻を近づけて「猫吸い」する馬もいます。人も馬も、ふわふわの猫に対してやりたいことは一緒みたいです(笑)。
――さまざまなメディアで取り上げられている「メト&ドトウ」コンビですが、ここまで人気になった理由はあるのでしょうか?
「馬×猫」の最強タッグの可愛さはもちろんありますが、大きかったのはやはり「ウマ娘」の存在です。
G1ホースのメイショウドトウはもともとキャラクターとして存在していましたが、公式のイラストやアニメにメトと思しき茶白の猫も現れるようになり、「メト」がTwitter(現X)のトレンドに入るようになりました。
びっくりしましたが嬉しかったですね。メト&ドトウのコンビはすごい人気だなと改めて思いました。
また、メトがドトウの背中に飛び乗った動画もバズりました。メトが最初に乗ったのはプリサイスエンド(認定NPO法人引退馬協会所有)という馬でしたが、洗い場での手入れ中に、洗い場の木枠からプリサイスの背中に乗っていました。背中にメトを乗せたまま厩舎まで移動させましたが、メトは器用にバランスを取っていました。
↑プリサイスエンドは2021年3月に急逝したが、メトが一番慕っていた馬だったかもしれない(写真・佐々木祥恵)
メイショウドトウに乗った時は、ドトウの馬房の前でメトが上を見上げてニャアニャア鳴いていて、何かいつもと様子が違うな、と思っていたところ、馬柵棒からドトウの背にいまにも飛び乗りそうにしていました。
慌ててスマホで撮影し始めると、ヒョイッとドトウの背にメトが飛び乗りました。この動画はかなり拡散されて、ノーザンレイクを知ってもらうきっかけになったかもしれません。本当にメトは奇跡みたいな猫ですね。
↑厩舎内でアイコンタクトを取る仲良しなふたり