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臨場感を表現するには? 動物写真家・岩合光昭さんが撮る“猫写真の秘密”

猫びより編集部

2024年02月20日 公開

臨場感を表現するには? 動物写真家・岩合光昭さんが撮る“猫写真の秘密”

動物写真家・岩合光昭さんの最新大判写真集『ネコ日本晴れ』。都市・大阪府の中心街から、瀬戸内海に浮かぶ香川県・女木島まで、さまざまな地域に根ざして生きる猫たちがいきいきと映し出されています。

A4サイズの大きな写真集はまるで写真展のよう。猫は毛の質感まで見事に捉えられ、背景の景色も表情豊か。猫が生きる各地の美しさもしっかりと伝わってきて、どの写真も見るたび新しい発見があります。ディティールまで岩合ワールドが堪能できるのは大判写真集ならではの魅力です。

しかし、岩合さんの写真はどこがそんなに特別なのでしょうか? どこに秘密があるのでしょうか? 担当編集者の斎藤実が写真集に収録したカットをもとに解説します。

 

光も影もしっかり撮る

岩合光昭

――『ネコ日本晴れ』は猫専門誌『猫びより』の連載をまとめた写真集ですね

【斎藤】まとめたといっても、全136カット中71点が未掲載カットですので、ほぼ別物になっていると思います。編集にあたっては岩合さんの野生動物の写真集も見ながら、より「岩合さんらしい」写真を意識して選びました。

――ずばり、岩合さんらしさって何でしょう?

【斎藤】まず動物を見る解像度の高さでしょうか。表紙の写真は、女木島のシロちゃんという猫を撮ってるんですけど、迫力ありますよね。バーンと目の前にぬっと顔が現れたような感じ。

普通、ピーカンの時に白いものを撮ったら光で細部が飛ぶのですけど、岩合さんは意地でも飛ばさないんです。そして影の部分もしっかり撮る。ただの猫の顔なんですけど、すさまじい情報量です。毛の質感とか、骨格や肉づきまで手に取るようにわかるんです。

すみずみまで撮るということは、岩合さんが猫の毛一本一本まで意識されているということだと思います。だから、写真とは思えない臨場感が出てくるのでしょう。

 

猫のポーズを待つ忍耐がすごい

――今回の写真集は女木島の写真が多いですね

【斎藤】はい。「岩合光昭の世界ネコ歩き」(NHK BS)でも香川編はあったのですが、諸事情あって女木島は出てきませんでした。どちらも2020年秋の撮影なのですが、幸い天気がよかったみたいで、連日秋晴れのいいお天気だったようです。

岩合さんは数日で2万枚ほど撮影してもらいました。どれもいい写真ばかりでしたけど、表紙になったシロちゃんたちの撮影はすばらしかったですね。

他の写真や撮影日時からの推測ですが、岩合さん、毎日浜に通って徐々に猫たちと距離を詰めていたったようです。最初遠巻きに望遠レンズで撮るとか、短時間で切り上げるとかいう下準備をしてるのがわかりました。最終日にようやく張り付いて長時間撮影するんですよ。

気ままな猫に合わせて、海岸行ったり、道路行ったり、道端でゴロンしたら側溝に潜って青空バックで顔のアップ狙ったり。それで撮れたのが表紙の写真ですが、他の写真も秀逸なのが多かったですね。個人的には、シロちゃんが友達のハチワレと並んでシッポをクロスさせてる絶妙なカットが印象に残ってます。

普通、猫ってカメラの前でこんなポーズしてくれませんよ。「これだ!」というポーズをやってくれるまで待つ、驚くべき忍耐だと思います。

しかも、背景の構図が完璧ですよね。手前の花、左の林、後ろの雲と対岸の島影。猫がこの絶妙なポーズをやってくれた一瞬にこの構図でシャッター切るなんて、ただただ脱帽です。

 

猫の足元にもピントを合わせる

岩合光昭

――岩合さんは背景の景色もしっかり撮りますね

【斎藤】猫だけじゃないんですよね。猫が生きてる空間もすみずみまで撮ろうとするんです。例えば、このうどん屋に通ってる香川のハナコという三毛猫がカメラに向かって鳴いた瞬間の写真。花子の胸の毛の繊細さに目を奪われるんですけど、写真とは思えないぐらいに臨場感たっぷりなんですよね。

よく見ると背景もきっちり撮ってるんですよ。特にポイントは足元。他の写真もそうなんですけど、岩合さんは猫の全身を好んで撮るし、その時、猫が足を置いている面をしっかり撮るんですね。

岩合光昭

【斎藤】広島の宮島で杓文字屋さんのジェイの横顔を撮った写真でも、背景をぼかしてるように見えてジェイが寝ている座布団の周りはきっちりピントが合ってるんですよ。猫が存在してる面はきっちり撮るんです。だから、猫と周りの空間の関係が一発で見えて、こちらは猫がいるかのような錯覚に陥るのだと思います。

――岩合さん自身の目線も低いですよね

【斎藤】いつも猫の目の高さで撮りますよね。だから、岩合さんの写真は猫がカメラ持って猫を撮ったみたいに見える。和歌山の漁港のおりんがベタっと地面に寝そべってる写真も、大阪中心街で撮影したモーの写真も、寝そべるような姿勢で撮ってると思います。

まるで岩合さん自身が猫になって、猫をしっかり見て、猫が生きてる周りの景色をしっかり見て、それでシャッターを押したんじゃないかしらと思うこともあります。猫も周りのことを信じられないぐらいよく見てますし、自分の足元はほんのささいなことでも見逃しませんから。

――編集者として岩合さんの猫写真のどんなところに魅力を感じますか?

【斎藤】ささいなポーズや動作から「猫ってこんなに素晴らしい生き物だったんだ!」と再認識させてくれるところでしょうか。

岩合さん、日常をとことんありのままに撮ってくるですよ。そのありのままをとことん律儀にすみずみまで見ているからこそ、現実の重みや日常の輝きがダイレクトに伝わってくる。

猫をしっかり撮る、背景をしっかり撮る、猫が生きてて人が生きてる世界のありのままのリアリティを撮る......だから、よく知ってるつもりの猫のさりげない姿にも感動できるし、新しい発見があるのだと思います。

岩合光昭

 

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