眠るのに時間がかかる、深夜や早朝に起きてしまう、熟睡ができない...。60歳以上の3人に1人が「不眠に悩む」といわれ、睡眠のストレスを抱えるシニアが増えています。本稿では、書籍『精神科医が教える 毎日がスッキリする「老後の快眠術」』より、眠れない夜の過ごし方についてご紹介します。
※本稿は、保坂隆著『精神科医が教える 毎日がスッキリする「老後の快眠術」』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
必要以上に気にすると、さらに眠れなくなる
「布団に入ってもなかなか寝つけない」
「早く寝ようと思うほど目がさえて、眠れなくなってしまう」
こんな悩みを持つ中高年は少なくありません。
現代人は、約20%が睡眠に問題を抱えているといいますが、年をとるほど多くなり、60代以上ではなんと三人に一人が睡眠に不満を持っているとされるほどです。
不眠の悩みが増える主な理由は、加齢によって長時間の熟睡ができにくくなることと、必要な睡眠量自体が少なくなること。つまり、以前より寝つきが悪くなったり、睡眠時間が短くなるのは人間の自然な生理反応で、これを完全に止めることはできないでしょう。
だから、「若い頃と同じように眠れないのは不健康だ」と、必要以上に気に病む必要はありません。たとえ短い睡眠時間でも、起きたときに「よく寝た」という満足感があって、昼間の倦怠感がなければ、それは十分に"快眠"といえます。
大事なのは、どれぐらいの時間眠ったかという「長さ」ではなく、どれほど気持ちよく寝たかという「質」なのです。
一番よくないのは、「よく眠れないのはうつ病かもしれない」とか「なかなか寝つけないのは不眠症だろうか?」と必要以上に気にすること。むしろ神経質になって、さらに眠れなくなるケースが多いのです。
なぜなら、私たちの自律神経は交感神経と副交感神経のバランスで成り立っていますが、眠れない状態では、心身をリラックスさせる副交感神経より緊張させる交感神経のほうが優位になるからです。
さらに、眠れないことでイライラすると、不安を感じたときに出る「ストレスホルモン」のノルアドレナリンが分泌されて、ますます神経が興奮してしまいます。
「眠らなければ!」という強迫観念を持つことで、反対に眠りが遠のいていくという皮肉な結果になるわけですね。
「無理して眠ろうとしない」のも大切 失敗体験を止める
眠れなくて困っているときに、「一日、二日寝なくても死なないよ」などと笑われると、「他人事だと思って!」と怒る人もいるでしょう。しかし、実際に二日間も寝ないでいられる人は非常にまれで、たいていは徹夜して一日もたたないうちに眠り込んでしまいます。
けれど、多くの人が悩むのは布団に入って30分たっても、1時間たっても眠れないという場合です。
「布団に入っても眠れない」という人の特徴は、当たり前のようですが、眠れないまま布団の中にいる時間が長いことでしょう。つまり、眠れないのになんとかして眠ろうと、布団の中で長時間粘っているのです。
このように「眠りたいのに眠れない」という失敗体験が続くと、無意識に「今日も眠れないかも」という強迫観念が働いて、いっそう眠れなくなってしまいます。そんな場合は、一度思い切って不眠のサイクルを断ち切り、いつもと違う行動をしてはどうでしょうか。
すなわち、「眠れないときは無理して寝ないぞ」と決めて、布団にしがみつくのをやめるのです。
まず布団に入って15分。そのまま眠れるか試してみて、もし眠気がないようなら、きっぱりと寝室を出てリビングに落ち着くなり、キッチンに行くなりして一度眠れないことを忘れて過ごします。
ただし、テレビやスマホなど光の出る電子機器は、遠ざけておいてください。
そこで本を読んだり、趣味のことをしているうちに眠気を覚えたら、また寝室に戻って布団に入ります。もし、まだ寝室で眠れなかったとしても、同じことを繰り返すだけです。
そして、どうしても眠れなかったら、その日はあきらめて朝まで起きていましょう。次の日は眠くて仕方がないと思いますが、夜は布団でぐっすり眠れるはずです。ちょっと乱暴な方法かもしれませんが、不眠の強迫観念(失敗体験)を追い払うには一番手っとり早いやり方なのです。
こうすれば不眠に対する恐怖がなくなり、何時間も悶々と過ごす不眠ループから脱け出すきっかけがつかめます。これで自信がついたら、健康的な睡眠習慣へとシフトしていってください。







