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世界の採用手法が変化する中でも「採用エージェントの需要が高い」日本特有の理由

小野壮彦(グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクター)

2025年06月26日 公開

世界の採用手法が変化する中でも「採用エージェントの需要が高い」日本特有の理由

2000年中ごろから、この20年ほどの間で、世界の採用手法は劇的な変化をとげました。その要因は、リンクトインやビズリーチ等による新しいサービスの発展、そして巨大企業グーグルが全世界で実践した革命的な人材採用にあるといわれています。

その大きな特徴は、採用エージェントに頼らないダイレクトリクルーティング、そして、より良い人材を獲得するために経営資源を惜しみなく投入する仕組みにあります。さらに、こうした新しい採用の潮流を象徴するものとして、「タレントアクイジション」という言葉が生まれました。これは、「タレント(才能ある人材)をアクイジション(獲得する)」という意味を持ち、最高レベルの才能を持つ人材を積極的に探索し、アプローチする採用活動として広がりを見せています。

本稿では、そのような世界標準の採用を導入するにあたり、それでも採用エージェントが必要とされる日本特有の事情について、グロービス・キャピタル・パートナーズ ディレクターの小野壮彦氏に解説して頂く。

※本稿は、小野壮彦著『世界標準の採用』(日経BP)を一部抜粋・編集したものです。

 

エージェントは必要か?

エージェントマネジメント

ダイレクトリクルーティングがここまで発展した現代においても、日米を問わず、多くの企業が採用エージェンシーに採用支援を依頼しています。それはなぜでしょうか?

確かに、インハウスでダイレクトリクルーティングを担うTA(タレントアクイジション)リクルーターが、日本にも徐々に増えてきました。インハウスでも、ビズリーチやリンクトインといった採用プラットフォームを活用し、候補者を検索しながら優秀な人材を発見することは可能です。

また、自社の求める人材像を的確に把握できていれば、敏腕エージェントが強く推薦するような候補者に自力でたどり着くこともできるでしょう。

しかし、それだけで十分といえるでしょうか。

ビズリーチやリンクトインにすべての候補者が網羅されているわけではありません。

トップクラスのエージェントたちは、長年の経験と努力の中で築き上げた広くて深いネットワークを持っています。そのネットワークが、リンクトインに「#OPEN TO WORK(積極的に求職中)」のタグをつけている人の情報をにわかに集めるより、タレントプールとして優れている可能性は否定できないでしょう。

さらに、リンクトインでのメッセージ交換だけでは、候補者との間に深い信頼関係を築くことは難しいという面もあります。そもそも候補者がメッセージに応答するかどうかも不確実です。特に、声をかけてきた会社の知名度がまだ低かったり、または候補者が採用市場で人気の高い人材だったりする場合、そのハードルはさらに高まります。

混乱を招かないよう、ここで位置づけを確認しておきます。

新しい採用であるTAシステムの目玉が、インハウスのリクルーティングチーム(TAチーム)の構築と、ダイレクトリクルーティングの実施にあることは確かです。

しかし、TAをシステムとして捉える際には、それが外部の採用エージェンシーとの活動を含めた、総体的な活動であるということをご理解いただきたいと思います。

結局のところ、どれだけダイレクトリクルーティングのスキルを磨いたとしても、それだけで才能ある人材の獲得を目指すTAシステムが完結するわけではないということです。

したがって、採用エージェンシーは、TAチームと補完関係にあると捉えるべきです。

採用エージェンシーの担当者(エージェント)と協力し、互いにメリットを共有しながら、人材獲得の成果を高め合う関係を築くことが理想です。

このような関係性を適切に管理する取り組みを「エージェントマネジメント」と呼びます。ここから、このエージェントマネジメントについて論じていきたいと思います。

エージェントマネジメントの重要性は、特に日本では強調されるべきだと見ています。

日本ではまだまだエージェント経由の採用が主流です。これには、すでに指摘した理由に加え、日本人特有の気質が影響している部分も大きいように思います。

少し不思議な話ですが、日本人の候補者には、企業のリクルーター(採用担当者)と直接やりとりするよりも、エージェントが間に入る形を、より心地よく感じる傾向があるように思います。転職を考えた際に、自ら進んで新しい環境に飛び込み、アグレッシブにステップアップしようとするよりも、誰かに背中を押してもらいたいという気持ちが、日本人には強いように見受けられるのです。

「挑戦してみましょう!」「ここは人生の勝負どころです!」といった「後押し」の役割を担いやすいのも、エージェントの特性です。

実際、これがよくある残念な事例でもあるのですが、企業のリクルーターが候補者に直接、「あなたはうちで挑戦するべき」などと語りかけてしまうと、どうしても角が立ったり、相手が身構えてしまったりすることが多くなります。

その点、エージェントであれば、企業との間に入るニュートラルな立場から候補者に寄り添い、不安を和らげつつ、適切なタイミングで背中を押すことが可能です。エージェントの仲介によって、候補者の心を動かす「第三者」のメッセージを伝えることが可能になるというわけです。

こうしたアプローチは、前述のような日本の文化的背景において特に重要でしょう。優秀なエージェントは、候補者との信頼関係をしっかりと築きながら、企業側と役割を分担し、候補者の決断を促すことに長けています。
ビズリーチやリンクトインが広く普及している現代においては、候補者の「発掘」における付加価値は相対的に低下しています。しかし、一方で、候補者の「説得」における付加価値は、むしろ高まっているのではないでしょうか。

気乗りしない候補者をカジュアルな面談に誘い出す。内定を受諾するか迷っている候補者の話を親身に聞き、決断を助ける。こうしたシチュエーションでは、第三者であるエージェントがしばしば大きな役割を果たします。そのため、日本の採用活動においては、外部のエージェントの活用が、引き続き大きな意味を持つだろうと考えられるのです。

また、採用エージェンシーが提供するキャリア・カウンセリングという機能も(ちゃんと提供してくれれば)大きな効果を発揮します。

どれだけ年収が高く、立派な経歴を持つ候補者であっても、自分の採用市場での立ち位置や、そこにどのような仕事の選択肢があるかを十分に理解していることは稀です。自分自身の価値や能力を客観的に評価するのは難しく、過小評価もあれば過大評価もあります。

そして何より、自分が人生で何を求めているのかを明確に理解していない人が大半であるという事実が根本にあります。

自分自身を正しく理解するのは誰にとっても困難であり、このことが、候補者がキャリアに悩む根本的な理由となっています。これはどれだけAIが進歩しても、変わることのない人間の本質的な側面ではないでしょうか。だからこそ、候補者が人生における大きな決断を下すとき、有能なエージェントの支援が必要なのです。

こうしたエキスパートは、単なる仲介者ではなく、候補者にとっては優れたガイドとなり、採用したい企業にとっては、時に優れた説得者としての役割を果たします。

トップクラスのエージェントは、今の仕事が順調で、転職をまったく考えていない候補者にさえ、新しい機会に目を向けさせ、面接へとつなげることができるのです。まるで見えなかった道筋に光を当てるように、候補者を導いていく存在。それがエージェントの真の価値だといえるでしょう。

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