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「採用を止めておけば...」業績不振で退職を迫られた人事担当が痛感したワケ

鳶本真章(組織開発デザイナー)

2023年02月06日 公開

「採用を止めておけば...」業績不振で退職を迫られた人事担当が痛感したワケ

企業がやりがちな、ポジションを埋めるためだけの採用や、人数を集めることを目標とした採用活動は、離職率を高め、結果的に大損になってしまう可能性がある。

新著『ミッションドリブン・マネジメント』を上梓した鳶本真章氏。長きにわたり組織開発に携わってきた鳶本氏に、「ポジションを埋めるための採用」をやめるべき理由を語ってもらった。

本稿は、鳶本真章著『ミッションドリブン・マネジメント』(技術評論社)を一部抜粋・編集したものです。

 

人は究極の負債になりうる

多くの企業では、「来年度の採用人数は〇人」と目標人数を決めています。「200人採用したいのに、応募が少ない」といって悩んでいたりします。しかし、その人数は本当に必要なのでしょうか。

僕が支援している会社に、採用面接に来た方と話していたときのことです。当時ある会社の人事部門にいた彼は、転職活動をしていました。その会社の経営が傾いており、管理部門を縮小することが決まったため、辞めなくてはならないというのです。

面接中、僕はこう聞きました。

「1年前に戻れるとしたら、何をしますか」

こうなることがわかっていたら、どんな手を打っていただろうかという質問です。彼の答えはこうでした。

「採用を止めます」

経営に関係なく採用を例年どおりに続けたために、採用のコストがかかるうえに離職も多く、非常に経営を圧迫していたといいます。

「正直に言って、人を1人採用することのコストとリスクをそこまで考えていませんでした」

そうなのです。人を1人採用するにはコストがかかっていますし、その人が売上に貢献しないどころか大きな負債になるリスクもあります。なぜなら、日本では社員をかんたんに辞めさせることはできません。

期待したとおりに働いていないからと、契約解除するわけにはいかないのです。採用に関するコストと人件費だけでなく、モチベーションの低い社員が周囲に悪影響を与えていることもマイナスです。

最終的に管理部門を縮小することになり、人事部門で採用をしていた彼自身が辞めることとなってしまいました。

「採用を止める」と言っていましたが、本来はこの会社はミッションに基づく事業戦略、組織戦略をもとに採用人数を決めるべきでした。どのような人が必要なのかを定義し、本当に必要な人材を採用していれば違ったはずです。

脅すわけではありませんが、採用のリスク・コストを甘く見ている会社が多すぎです。企業規模が大きくなるほど、そういう傾向があります。経営と人事が離れてしまうからです。

少なくとも人事部門のトップは、経営の視点を持っていなくてはなりません。惰性で採用するのではなく、その採用が経営にどう影響するのかを見て判断する必要があります。

 

採用フィーを真剣に見ない理由

「人を雇えば人件費がかかる」

これは、だれもがある程度は意識していることだと思います。年収300万円の人を雇うのか、1000万円の人を雇うのかで人件費は大きく変わりますが、当然ながら人件費を安く抑えればいいわけではありません。

1000万円の給与を支払って、それ以上の利益・価値を生むことができればいいのです。各部門のリーダーは、「いくらの人を採用するのか」という点は意識していることでしょう。

それでは、採用フィーはどうでしょうか。採用フィーとは、エージェント(人材紹介会社)を介して人を採用したときに、エージェントに支払う手数料のことです。

採用フィーの相場は30~35%くらいです。つまり、年収1000万円の人を採用した場合は、300~350万円くらいをエージェントに支払うことになります。

じつはこの採用フィー、現場においてはあまり真剣に見られていません。たとえば、ある会社の第一営業部のエリアマネージャーが、営業担当者を1人採用したいとします。エージェントにお願いしたところ、同じ業界で営業経験のあるAさんを紹介されました。

面談してみると、どうもAさんの求めている環境とは違う気がする。ほかのメンバーとはタイプが違う...と引っかかる部分はあるものの、人が足りず困っているのでとりあえず採用してしまいます。もしかしたらうまくいくかもしれないと期待をこめて研修もおこないましたが、案の定3か月で辞めてしまいました。

「まぁ、仕方ないよな。また同じ給与の人を採用すれば、年間の人件費は変わらないわけだからいいだろう」

いえいえ、そうではないのです。Aさんの年収500万円として、Aさんが辞めたあとに続けて採用したBさんも年収500万円である場合、たしかに年間の給与額は500万円になります。

しかし、採用フィーが30%としたら、それぞれ150万円かかっており、合計300万円です。決して安くないコストです。

なぜ、採用フィーがあまり真剣に見られていないのかというと、本部のコストとして計上されていることが多いからです。本社全体でコスト計上するのみで、現場に振り分けない会社が多いのです。

ですから、採用フィーの存在自体は知っていても、自分ごと化できないのでしょう。採用フィーも含めて、各部門のコストをしっかり計上したほうが採用にかかるコストを意識できます。

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