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音楽家・青葉市子さんの心の守り方「遊び心を忘れないで、怖がらずにやってみる」

青葉市子(音楽家)

2025年07月16日 公開 2025年07月16日 更新

音楽家・青葉市子さんの心の守り方「遊び心を忘れないで、怖がらずにやってみる」

生きていれば、思いもよらない出来事に出会ったり、言葉にできないような理不尽さに心をすり減らすこともある。大きなことも、小さなことも、悩みは誰のもとにも訪れます。

音楽家の青葉市子さんの楽曲は、そんなときにそっと寄り添い、聴く人の内側に灯りをともすような力をもっています。

5月に刊行された初のエッセイ集『星沙たち、』(講談社)を機に取材の時間をいただき、悩みとの向き合い方、そして日々を豊かに生きるための手がかりについて、お話をうかがいました。

 

自分にしかないお守りをたくさん持ち歩いて

――生きていると色んなことに悩み、ぶつかることもあると思います。青葉さんご自身は、人生の中で、何か違和感や生きづらさを感じたとき、どのように対処してきましたか?

【青葉】本の一番最後の章で、「ねえ、ペンギン。」というのを書いたんですけど、これはイマジナリーフレンドの話をしているんです。

イマジナリーフレンドっていうと、わかりやすいキャラクターがいたり、そんなイメージがあるかもしれないけど、そうじゃなくてもよくて。自分だけの気流とか匂い、記憶でも何でもいいんですけど、お守りみたいなものが誰しもきっとあると思っていて。

そういうものを、全肯定して、どんどん引き出していっていいと思っています。

それが結果的に生きていて困難なことに直面したときや、ちょっと今日は生きづらいなみたいなときに、(手でふわっと持ち上げる仕草で)ピン!ってきて、(口元に手を添え、声をひそめながら)「大丈夫だよ」って。

自分にしかないお守りみたいなものをたくさん持ち歩いて、生み出していっていいと思います。それは全く変なことではなく、もしかしたら本当は出てきていいのに、周りの透明なルールで封じ込められてるだけかもしれない。

そういうものを魔法みたいにいっぱい出して、自分を守ったり認めてあげたりっていうことができたら、ちょっとは生きやすくなるのかなと。

 

タブーに思えることも、あえてやってみる

――最近、セルフケアという言葉も一般的に使われてきているように、自分の心を守る意識も高まっているのではないかと思います。青葉さんは、心を整えるためにやっている習慣などはありますか?

【青葉】「遊び心を忘れないこと」ですね。これ、今やったらタブーかもしれない、みたいなことを怖がらずにやってみるとか。

最初はみんなが「えー」ってなっても、意外とそれが新しい風穴になって、通り道になって、こんな選択肢もあったんだって切り開けるかもしれないから。ひらめきを大事にしたり、遊び心を忘れない。

今、こう座ってても、別にここに座っている必要もなくて、その辺の草むらにこうやって(ソファにもたれて)寝っ転がって「そうですね」なんて話しても全然いいわけじゃないですか。

「晴れてきたから外行こう」とか、全然それでいい。その方が健やかかなって思ったりします。

――直近で何か「遊び心が働いたな」というタイミングはありますか?

【青葉】そうですね。もう本当に昨夜とかでも全然あります。

ミュージシャンの先輩と妹さんが経営されているお店が15周年だったので遊びに行って、着いた瞬間、お店オープンの時に一緒に塗った床を目にして、懐かしくて床に頬ずりしてたんですよ。

お店の床は靴で歩くものだけど、先輩が「靴脱いでいいよ」って言ってくれて。みんなで靴脱ごうとか、ゴロンしようとか。そういう人が周りにたくさんいるのも恵まれていると思いますが、そんなことばかりです。

――大人になると「ちゃんとしなきゃ」と思い込んでいる人も多そうですよね。

【青葉】メリハリは大事だと思います。でも、その中に、いつでも可能性を感じていていい。可能性っていうと、何か重く感じるかもしれないけど、同じ意味で「遊び心」っていえば、ちょっと印象が変わるのかな?

 

「豊かさ」とは想像すること

――青葉さんは大人になるにつれて、自分の性格的な部分や人間関係など、手放してきたものはありますか?

【青葉】考えたことがなかった...。でも、手放したものは何もないと思います。

――では、守ってきたものはありますか?

【青葉】正直でいることが、結果的に自分を豊かに自由にさせてくれると思います。

たとえ誰かに縛られているような境遇だったとしても、自分の中でいっぱい魔法をかけることで飛べるかもしれない。

これはでも、ある程度、自分が幸せに生きているから言えることかもしれないですけどね。それが叶わない人もたくさんいると思うから。

こういう気持ちを持つことがダメなんじゃなくて、いろんな境遇の人がいるって想像しながら、自分が今いる場所のありがたさとか、どうしたらもっと豊かに生きられるか考えることは、無限に許されていると思います。

――このインタビューで青葉さんは、豊かに生きることや、豊かな心について何度か触れられてきました。ご自身のなかで「豊かさ」とは、あらためてどんなことを指すと思いますか?

【青葉】想像することですね。「今、この人おなかが痛いかな」とか、何でもいいんですけど。

自分勝手に生きてもいいと思うんですけど、自分の気持ちをキャッチすることと同等に、誰かがこう思ってるかもしれないなと想像することは、簡単な言葉ですけど、いいことだと思います。その引き出しが多ければ多いほど、その状況に適した動きができるかもしれないから。

例えば、おなかが痛いのに大事な会議があるから我慢しちゃう人がいる。洞察力を鍛えて「あ、この人おなかが痛いかも」と思ったら「大丈夫?」って言ったり、何か温かいものを渡したり、気づける人がいたらその人が無理しなくて済みますよね。

「ちょっと出ていいですか」と伝えたとき「いいよ、いいよ、どうした?」って言ってあげられる上司がいたら、その人も楽になるし、周りもほっこりします。

想像力と洞察力があるといいと思います。ハッと何かに気づいたとき、動いてもいいんだよっていう世の中にもっとなったらいいですね。

席を譲ってほしいかもしれない人に、行動を起こしてみて「ありがとうございます」って言われるときもあれば「大丈夫です」と断られることもあるかもしれない。でも、それでいいんです。

言えずにモヤモヤするより前に、やってみる。そこで出てきたレスポンスをキャッチして感じ取ることですね。

――青葉さんにとって、人の交わりに大きな意味があるんですね。
日本はどこか他人行儀で、席を譲ったりするのもまだハードルが高い印象もあります。

【青葉】ワールドツアーから一時帰国したばかりということもあり、日本の方とは目が合いにくいなと、より感じています。日本の奥ゆかしさには良さもいっぱいあると思うんですけど、優しさの中に両方があるといいなとイメージしています。

もっと(人同士が)混ざっていいと思います。怖がらずに。嫌な人は嫌って言えるだろうし、ほっとかれたその人が独りの世界に閉じこもってしまうよりは、「あれ?」って気付いた人が声をかけられたらいいな。

 

いま、悩みの渦にいる人へ

――PHPオンラインは何か悩みを抱えていたり、今つらい状況にある人が訪れるメディアでもあります。そんな方々に青葉さんから言葉をかけるとしたら、どんなことを伝えたいですか?

【青葉】「悩んでいること=悪いこと」だと決して感じないでほしいなと思います。

これは自分にも言ってるんですけど、それはカラフルないろんな感情の中の1つにすぎないから。もしかしたら、その人の人生は悩みがないと輝かないことがあるかもしれない。

誰にでもいいから、話したくなったらいつでも話してほしい。そんな自分もいて、当たり前にいいんです。

●青葉市子さんの楽曲
https://open.spotify.com/intl-ja/artist/6ignRjbPmLvKdtMLj9a5Xs
※編集註:悩んでいる人に向けて「できることなら音楽を届けたい」とおっしゃった青葉市子さんの気持ちを添えて

(取材・編集:PHPオンライン編集部 片平奈々子)

 

【青葉市子(あおば・いちこ)】
1990年生まれ。音楽家。自主レーベル〈hermine〉代表。
2010年のデビュー以来、8枚のオリジナル・アルバムをリリース。クラシックギターを中心とした繊細なサウンドと、夢幻的な歌声、詩的な世界観で国内外から高い評価を受けている。2021年から本格的に海外公演を開始し、数々の国際音楽フェスティバルにも出演。音楽活動を通じて森林・海洋保全を支援するプロジェクトにも参加している。2025年1月にはデビュー15周年を迎え、約4年ぶりとなる新作『Luminescent Creatures』を2月にリリース。 同月下旬からキャリア最大規模となるワールドツアー〈Luminescent Creatures World Tour〉を開催し、アジア、ヨーロッパ、北米、南米、オセアニアで計50公演以上を予定。
2023年5月号より『群像』でのエッセイ連載を開始、本書が初の単行本となる。FM京都〈FLAG RADIO〉では奇数月水曜日のDJを務めるほか、TVナレーション、CM・映画音楽制作、芸術祭でのパフォーマンスなど、多方面で活動している。

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