自己効力感(セルフエフィカシー)は、スタンフォード大学教授の心理学者アルバート・バンデューラ博士によって提唱された概念です。
自己効力感は、「自分ならできる」「自分ならきっとうまくいく」と自分の能力やスキルに対して、信じられている認知状態のこと。「自信」に近いものですが、ただやみくもに「できる」と思うのではなく、明確な根拠に裏打ちされた自信といえます。
一方で自己肯定感は、「自分という存在」を好意的、肯定的に受け止め、長所だけではなく短所なども含めて自分をありのまま認め、自分を信頼している感覚です。
本記事では、自己効力感を高める方法の一つ「生理的・情緒的状態の管理」、その中でも特に「体のコンディション 疲労と休養」について工藤紀子さんに解説していただきます。
※本記事は、工藤紀子著『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)の一部を再編集したものです
体のコンディションの調整 疲労と休養
「あ〜疲れた」と思わずつぶやいてしまう、日々の小さい疲れや慢性的な疲れは解消できているでしょうか。
高熱が出れば人はおとなしく寝ています。頭痛や腹痛になれば病院に行ったり薬を服用したりします。一方、体がだるくてやる気が起きない、なんとなく不調を感じている疲労状態に対しては、何も対策をせず見過ごしている人が多いのではないでしょうか。疲労は休養を必要とする"病気のサイン"といわれています。軽く見てはいけない、というのが専門家の意見です。
心身を健康に保ち日々の活力を高めるためにも、疲労とは何かを知り、疲労とうまく付き合っていくにはどうしたらいいのかを理解する必要があります。
そして、日々の生活に疲労回復の対策を取り入れていきましょう。
疲労は病気を警告する三大生体アラームの一つ
「休養学」の第一人者である片野秀樹先生によれば、「日本疲労学会では疲労の定義は過度の肉体的及び精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態」だといいます。
「疲労状態」は「痛み」や「発熱」とともに、このまま活動を続けると病気になる、休息の必要性を警告する三大生体アラームと位置付けられています。
どんなに疲れていても一晩寝るとスッキリして元気よく一日をスタートできるのであれば「急性疲労」です。これは一日寝ると疲れが回復するものです。
それに対して、寝てもスッキリしない、前日の疲れを持ち越してしまう、疲れの回復が遅い疲労には注意が必要です。その状態が長く続くと「慢性疲労症候群」の可能性があり、これは病気の範疇に入るのです。
疲労は自分で改善するしかない未病

中国では病気と健康の間に、未病という考えがあります。
未病は「未病1」と「未病2」に分類されます。「未病1」は、自覚症状はあるけれど検査で異常が見つからないもの。「未病2」は、自覚症状がなくても検査で異常が見つかるものです。
例えば、まったく自覚症状はなかったけれど、血液検査で高血圧が判明して、血圧抑制剤を処方される場合、「未病2」に分類されます。投薬治療の対象で、放置すると重症化する可能性があります。
これに対して倦怠感を感じて内科へ、耳鳴りを覚えて耳鼻咽喉科へ訪れても「異常なし」と診断される場合は「未病1」です。
未病1の分類に入る場合は、食生活を改善したり、適度な運動習慣を取り入れたり、生活習慣を見直すなどして、自助努力で健康に向かうことが可能であると考えられています。
疲労は、自覚症状があっても検査で異常値が見られない未病1に当てはまります。
疲労を放置すると、心身にさまざまな悪影響を及ぼす可能性があります。心身の健康を良好にするためにも、疲労を自覚したらしっかり対処する必要があるのです。
「飽きる」は疲労の最初のサイン
東京疲労・睡眠クリニックの梶本修身 先生は、「何をしてもすぐ飽きてしまう、集中力がもたない"飽きる"というのは最初に出てくる疲労の兆候だ」といいます。
脳は長く緊張状態にさらされると、「飽きる」という症状でこれ以上同じところばかり使うなと警告を出し、その活動の継続は危険だと知らせます。飽きてもなお活動を続けていると、今度は眠くなってきます。それでも活動し続けるとパフォーマンスが落ちます。
「飽きる」「眠くなる」「パフォーマンスが低下する」は疲れの三大兆候なのです。
その他に「衝動」というシグナルも見逃せません。これは慢性的な疲労の兆候だといいます。
これは、「今日はなんだかだるい」「友達との約束が面倒くさい」「いつもは歩く距離なのに、タクシーに乗りたくなる」など、本来好きなことや苦にならないことなのに、なんだかやる気がしないというものです。自分の意識下にある、たくさんの情報によって起こる何かしらの反応が「衝動」です。
このような兆候が出たら疲れていると認識してください。
疲労は、運動や活動によってエネルギーが消費され枯渇したときや、睡眠不足や脳疲労などがあるとき、ストレスによって自律神経のバランスが崩れたときなど、さまざまな原因が複合的に絡み合って生じるといわれています。
活動能力が減退するのが疲労
「休みたい」が口癖になっている人はかなり疲労が溜まっているのかもしれません。
働く人が体調やメンタル不調などで、本来のパフォーマンスを発揮できないにもかかわらず仕事をする状態は「プレゼンティズム」と呼ばれ、労働生産性の損失ということで社会的に問題視されています。疲労はその原因の一つと考えられています。
パフォーマンスが上がらない疲労状態になると「休みたい」といった休養願望が強くなります。しかし、多くの人は睡眠や休憩、休日でしっかり充電できず、休養をとりたい願望を持ったまま活動しているため、疲労状態が改善されません。
休養学の片野先生によると、「疲労」の対義語は「休養」ではなく、「活力」だといいます。心身の健康を保つためにも、活力が必要です。
活力を得て活動能力を高めるためにも休養が重要なのです。
「休養」の7モデルを生活に取り入れる

自分なりに休んだと思っていても、次の活動につなげる活力が得られていないと、疲労を長引かせます。
休養の取り方で参考になるのが、杉田・片野モデルと呼ばれる「休養モデル」です。
次の7つのタイプ(型)からなる休養モデルを、複合的に組み合わせることで、疲労回復効果が生まれ、より活力が生み出されます。上図を見ると、休養は体を休めることだけではないのが分かります。
休養モデル(杉田・片野モデル)
・休息型 活動を中断し、心身を鎮静化し、心身の活力を養う(消極的休養)
・運動型 活動により老廃物の除去や新陳代謝の向上を促すことで心身の活力を養う(積極的休養)
・栄養型 生体内の生理生化学反応の促進。または消化・吸収活動の調整により心身の活力を養う
・親交型 人、社会との交流や自然・生き物との触れ合いなどにより心身の活力を養う
・娯楽型 趣味や嗜好を追求することで心身の活力を養う
・造形・想像型 何かを作りだす感覚や概念を巡らす。また表在化させることで心身の活力を養う
・転換型 買い物、食事、旅行や部屋の模様替えなど外部環境を変化させることで心身の活力を養う
「今日の疲れはできるだけ今日のうちに取る」ことを意識して、自分に合った小さな休養と充電を積み重ねていくことが大事なのではないでしょうか。








