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「米の価格は上がっているのに...」零細兼業農家が抱える“赤字の現実”

斎田史帆

2025年10月27日 公開

「米の価格は上がっているのに...」零細兼業農家が抱える“赤字の現実”

夫の実家は米を作っています。

そう話すと、以前は「手伝わなきゃいけないんでしょう?」「相続とか大変そうだね」と言われていたのが、令和の米騒動以降は「米を買わなくても良いなんて羨ましい」という反応に変化しました。

確かに結婚してからスーパーで米を買ったことはありません。手元の米が無くなる頃に義実家に顔を出して玄米を貰う生活です。市場価格を気にせずに米を消費できる生活は、現代では贅沢なことかもしれません。

ただし、米を作るには様々な問題があり、田んぼを手放して市販の米を購入したほうが良いのではないかと思うこともあります。

この記事では、兼業農家である義実家の姿を通して、米作りについて思うことをお伝えしていきます。

 

零細兼業農家の収支は赤字

兼業農家とは、農業以外の仕事からも収入を得ている農家を指しますが、義実家は農業での収入がほとんどないどころか、実質的には赤字です。

義実家では、収穫量が少ないことから農協に卸すことはせず、収穫した米は親族内で消費して、余った分をご近所さんに格安で販売しています。

そのため米を収穫しても大した収入にはなりませんが、一方で、米作りには相応の支出が必要です。

苗のほか、農機具、肥料や除草剤、農機具を動かすためのガソリン、川から水を引くための管理組合費を支払っています。また農機具は10年程度で買い替えしなければなりません。リースや中古を活用しても、かなりの出費となります。

ここまでご説明すると、義実家の米作りが赤字であることが理解いただけるのではないでしょうか。米の価格が高止まりしている状況でも、市販の米を購入する生活のほうが安上がりです。農作業に掛かる時間コストを考慮すると、赤字はさらに膨れ上がります。

 

農作業の担い手はフルタイムでは務まらない

米作りは3月の田おこしから始まり、9〜10月の稲刈り時期まで、1年間かけて行います。

米農家がどのように1年を過ごしているのか、農林水産省のこどもページに掲載されていた図が分かりやすかったので引用します。

ほとんどの作業は定年退職した義父や義母、近所に住む義叔母が担っています。特に草取りや水の管理は日々行うため、フルタイムで働いていては米作りに関わることができません。

義父や義母が仕事や子育ての真っ最中だった頃は、義祖母が田んぼの管理をしており、その後も主体的に米作りに関わっていましたが、数年前に農作業を引退しました。

田んぼへ向かう途中、側溝に落ちて大けがを負ったためです。今でも義祖母は健在ですが、あの時通りがかりの人が救急車を呼んでくれていなかったら...と考えると、身がすくむ思いがします。

現役世代の夫が駆り出されるのは、田植えと稲刈りの時期です。

そのため4〜5月と9〜10月の週末は予定を入れないようにしています。農作業ができるか否かはその時期の天候によって決まるため、前もって予定を組むことができないのです。

結婚当初は「行楽シーズンなのに予定を入れられないなんて」という思いもありましたが、数年経つとそういうものとして受け入れられるようになりました。

 

機械化が進まない? 米作り

〈先進的な技術を活用した、効率的な農業〉といった特集をニュースで目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

田んぼの生育状況を取得する農業用ドローンや、センサー感知型の水管理システムなど、大規模な農地を前提としたものが多いですが、田植えと肥料捲きを同時に行う田植え機など、個人で導入できる設備もあります。

義実家でも昨年から新型の田植え機や籾摺り機を導入するなど、少ない人手で効率的に農作業ができるよう試みています。しかし、完全な機械化は難しいのが実情です。

小さな農家ならではの悩みとして、田んぼが必ずしもきれいな正方形ではないことが1つの要因です。

田んぼがいびつな形をしているため、田植え機が入らない箇所があるのです。また、義実家で使っている稲刈り機は刈残しが出てしまい、稲刈り機の後に鎌で稲を刈ります。刈残しがあると農機具に引っかかって動かなくなってしまうため、必ず行う作業です。

新しい機械を導入しても、操作が難しくて苦労することもあります。

従来の農機具と使い勝手が違うため、誤った使い方をして、機械を動かすのに手間取ってしまうのです。

義父や義母は農業のプロではなく、会社員や主婦として過ごしてきた人たち。年に一度の作業のため、細かな操作を覚えておくのも大変です。前もって準備ができれば良いのですが、忙しい日常で、農作業のために費やす時間はなかなか確保できません。

 

放棄地化する田んぼ

農作業をするたびに、夫がぼやきます。

「放棄地となっている田んぼや畑が年々増えていてもったいない。全部統合して1つの農地にしたらいいのに」

義実家のある地域は、個人が開墾した土地がそのまま所有地となったため、あらゆる場所にあらゆる人の土地があります。 近年では土地を手放したり放棄したりする人も多く、新築住宅が田んぼや畑の隙間を縫うように立ち並び、放棄された荒地も混在しています。

それぞれが小さな農地を持っているために、人手不足と農機具の維持管理という共通の課題を抱えた世帯が集まっている地域なのです。

こうした課題を解消できなければ、先祖代々守ってきた農地を所有し続けることはできません。個人や一法人で解決できる範囲を超えているため、国や自治体が先導して農作業や農機具をシェアできる制度を整える必要があると感じます。

 

令和の米騒動はどうだったか

義実家は米を卸していないのでニュースで騒がれているほどの影響はありませんでしたが、「米を売ってほしい」という問い合わせが数件あったといいます。 毎年、特定のご近所さんだけに販売していたため、これは前例のないことでした。

また、物価高や異常気象の影響で、米作りにこれまで以上の負担が掛かっているため、今回初めて米の価格を上げました。改定後の価格は、30キロ1万2千円です。改定前は8千円でした。米の全国平均価格は5キロ4千円台で推移しているので、それでも破格の安さといえます。

私も初めて価格を聞いたとき、値段を倍にしても良いのではないかと思ったほどでした。 しかし、この価格設定は義実家特有の価値観が関係しているようなのです。

 

そこに田んぼがあるから米を作る

義父や義母はよく「そこに田んぼがあるから米を作っている」と言います。

食器を洗ったり、洗濯機を回したりするのと同じような感覚で、家庭を維持するのに必要だから田んぼを管理しているのです。1年でも米作りを休んだら、きちんと管理しない限り、すぐに田んぼは荒地になってしまうでしょう。 荒地になった田んぼを元に戻して、米作りを再開するのは大変です。

草取りや水管理が負担に感じられても、先祖が守ってきた土地を手放すほどではない...そんなメンタリティなようです。 また、ほとんど自分たちで消費する米だからこそ、極力時間や労力をかけずに収穫したいという思いがあります。

そのため、年に1回しかない田植えや稲刈りのために事前準備をすることはありませんし、最新の機械を導入しても、面倒だと感じたらその機械が持つパワーを十分に発揮させることもありません。

錆びた鎌で稲刈りが難航しても、翌年には忘れてまた同じ鎌を使っているのです。

ご近所さんへ格安で米を販売するのは、人のためでなく、自分たちのために自分たちのペースで米を作っているから。こうした「ゆるさ」は兼業農家として生活していくための、彼らなりの折衷案なのかもしれません。

以上、兼業農家の生活について思うがままにお伝えしてきました。現代を生きる兼業農家の実態を正直に書いたつもりです。

小規模な農家であっても抱える課題は大きく、何とか折り合いをつけながら生活しています。今後の農業政策がどうなるのか、注視することしかできませんが、少しでも農家が生活しやすい世の中になることを願っています。

 

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