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生き方

同じ作業の繰り返しが五感を磨く? 陶芸家が実感した「ルーティンの力」

SHOWKO(陶芸家)

2026年02月09日 公開

同じ作業の繰り返しが五感を磨く? 陶芸家が実感した「ルーティンの力」

新しいことをするのはワクワクするけど、繰り返し作業は退屈でつまらないと思う方は多いのではないでしょうか?ところが、陶芸家のSHOWKOさんは、そんな繰り返し作業こそが、感性や心を豊かにするといいます。

一見、単純で退屈にも思えてしまう繰り返しが、なぜ人の感性を磨くことになるのか――著書『クラフトフルネス』にて、SHOWKOさんが解き明かします。

※本稿は、SHOWKO著『クラフトフルネス』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

繰り返すことで見えてくる世界がある

繰り返すことは、単純作業でつまらないことだと思われがちです。たとえば、オフィスでのコピーや、書類の整理、片付けなどの単純でお金を生まない作業は、誰でもできる非生産な作業だと思いがちです。実際に企業では「忙しく複雑な仕事」こそが良い仕事とされるところがあります。

きっとそれも間違いではないのかもしれません。しかし、繰り返すことで見えてくる世界があります。

近年、たくさんの方に評価された「PERFECT DAYS」という映画では、日々トイレ掃除をする初老の男性が主人公です。彼は決して豪華ではない家に住み、毎日同じ時間に起きて、同じように自動販売機でコーヒーを飲みます。

毎日の公衆トイレの掃除中、公園の人々の動きや、季節の移り変わりなどを細かく感じ、誰と共有するでもなく一人で喜んでいく情景が、美しい光とともに描かれています。休みの日もクリーニング屋にいくなどのルーティンの過ごし方を持っていて、本を読んだり、写真を現像したりして楽しみます。

これに、日々新しい価値を作ることに奮闘してきたオフィスワーカーたちが共感しました。イレギュラーなことは刺激的ですが、その刺激のまばゆい光に見えなくしている部分があるのかもしれません。もの作りの世界にも、こうしたルーティンは数多くあります。

私の実家は陶磁器の製造を営んでおりますが、子供のころは職人さんたちが昼食後、必ず電気を消して横になり、13時きっかりに作業を再開する姿を見て育ちました。当時は、職人さんのところに遊びにいきたいのにと寂しく感じましたが、今思えばあれは午後の集中力を保つための、大切な習慣だったのです。

今では、パワーナップと言われ、昼間の短時間の睡眠が、脳のパフォーマンスが向上し、午後の集中力や作業効率がアップすると、企業でも奨励されていることが多いです。

十数年経ち、私ももの作りの修行のために、佐賀県有田に住むことになりました。すると、同じような日々が始まりました。毎朝同じ時間に目覚め、同じ手順で歯を磨き、お弁当を作る。決まった道を通勤し、工房に着けば同じ順番で掃除をする。そんな日々が続きました。

出勤や朝の掃除だけでなく、それは制作でも同じでした。金彩の作業では、気づけば毎回同じように、同じ回数、筆をしごいていました。繰り返しの中で最適な回数や動きが体に刻まれ、意識しなくても精度が上がっていくのです。

繰り返すことは単純でつまらないことではなく、身の回りの状況と、そして心身の調子までも整えるために大切な訓練と言えるのかもしれません。感情を中に入れず、粛々とルーティンをこなすなかで、五感のアンテナが自然と敏感になります。世界は同じでも、その受け取り方が豊かになります。当たり前のことを、当たり前にとらず、日常の一コマがまるで映画のワンシーンのように感じられることがあるのです。

 

いつもの状態を知り自分の変化を感じる

直感とは、何もないところから突然ひらめく魔法ではありません。実は、日々の繰り返しの中で「いつも」と「違う」を敏感に感じ取っています。毎日同じことを繰り返していると、新鮮なものに気がつきます。

たとえば、会社へ行く毎日の通勤路。同じ道を歩きながら、季節ごとの街路樹の変化や、顔なじみの店の新しい張り紙に気づく。同じダイヤの電車に乗ると、秋口にいつもより夕焼けの時間が早くなっていることを体感する。朝の散歩やヨガなども、1ヶ月も続けると体が自然にそのリズムを覚えて、いつもよりもしなやかになった自分を発見する。

私たちは、変化や異常をうけとるとき、自分のなかに「基準」を持っています。決まった動作や所作、いつもの時間や流れがあるからこそ、その差分にセンサーが働くのです。

逆に、毎日がイレギュラーだらけだと、何が「普通」で何が「変化」なのかがぼやけ、違和感を感じ取る力は鈍ります。違和感とは、ルーティンがあるからこそ生まれるのです。そして、それは、直感に結びついていきます。

私の場合、経営や日々の仕事は変化の連続ですが、それでも毎日欠かさないのが「朝の瞑想」です。基本は同じ方法で20分、自分の体の各部位に意識を向けていくボディスキャンのような瞑想法をしています。続けていると、小さな変化に気づきやすくなります。

「今日は喉が少し詰まっている」「呼吸が浅い」「猫背になりやすい」――そんな日々の違いが、自分の調子を知らせてくれるのです。絶好調のときとの差や、前の日からの変化に気がつきやすくなります。

論理的に考えることを必要とされすぎて、頭で考えて答えを出す癖がある現代人。ぐるぐると同じことを考え過ぎてしまうときは、頭ばかりが働いて「感じること」が疎かになっています。論理思考の限界だと思って一度その悩み、もしくは場所から離れることをしてみてください。

悩みごとなどがあるときは、なかなかその思考から離れられないので、何か日常的に手を動かすことに集中すると、そのあとのパフォーマンスにもポジティブに影響していきます。

これは茶道や華道など「道」のつくものの稽古でも同じことが言えます。稽古というのは何度も繰り返しその動きを行います。たとえば茶道のお稽古では、茶席のなかでメモをとることも許されず、ただ見て覚えるようにと言われます。なぜここに置くのか、なぜこのように動くのかなどの疑問がわくこともあります。

しかし、意味を聞いて理解して覚えるというよりは、みたものをそのまま身体に染み込ませていくという感覚に近いです。そのうち、毎回、同じ所作を稽古していくと、いつの日か、頭で考えずとも自然に体が動くようになっていきます。

道具の配置や、自分の目からみた世界、人の動き、香りを、五感を通して学んでいきます。すると、何かがいつもと違うとき、小さな違和感でわかるようになるのです。たとえば、置く位置が数ミリ違う、においが違う、人の動き方が違う、音が違う、という些細なところから、いつもと違う、というその違和感こそが直感です。

よく刑事ドラマや、探偵ドラマで真犯人を追い詰めるときにも、その「いつもと違う何か」を起点に思いつく描写がありますよね。いつもの状態を知ることは、自分自身をフラットに整えて、「何かがちがう」という直感力を働かせる訓練にもなっていくはずです。

 

心を楽にするルーティン

オフィスワークやリモートワークをしていると、毎日があっという間に過ぎ、ルーティンをつくりにくいと感じることはありませんか?でも、小さな習慣を決めることで、驚くほど心がラクになります。

有名な話ですが、亡くなったアップルの創始者、スティーブ・ジョブズは、いつもイッセイミヤケの黒いタートルネックシャツにジーンズを着ていました。服装がトレードマークだから、といった見方もできるかも知れませんが、最大の理由は、「服を選ぶための時間を仕事に使いたい」ということだったようです。

これはジョブズに限った話ではなく、日本でも、有名な経営者やコンサルタントの中にはこれと同じ理由で毎日同じ服を着る人が多いようです。日々決断や刺激の多い経営者にとって、選択する範囲を狭めておくこと、こういった日常の一部を最適化しておくことは、それ以外の部分の感性や決断力を有効に働かせるためでもあります。

とはいえ、毎日同じ服を着るのはちょっと......と思う方もおられるでしょう。洋服以外では、どのようにルーティンを組み込むことができるでしょうか?まずは小さなことですが、日々の生活に必ずしなければならないことの時間や方法決めておくことから始めてみましょう。

・朝のスキンケアや歯磨きの順番を決めておく。

・お風呂に入る時間を「22時まで」と固定する。

・昼休みに必ず10分だけ散歩する。

・ランチは「サラダ+タンパク質+スープ」といった基本ルールを決める。

こんな小さな習慣でも、いちいち迷わなくなることで、頭の中がスッキリします。私自身は、仕事場のランチを最適化しました。以前は「何を食べよう?」と毎日迷っていましたが、今は「鶏むね肉と野菜、ナッツ入りのサラダ」を定番にしています。ヘルシーで集中力も落ちず、午後の仕事に響きません。

もちろん、楽しみを感じる部分まで最適化する必要はありません。お気に入りの洋服のコーディネートを選ぶのが楽しみなら、その時間は大切にしてください。

でも、特にこだわりのない部分は、迷わない仕組みに変えてみる。その小さな工夫が、毎日の小さなストレスを減らし、あなたの時間とクリエイティビティを守ってくれます。

プロフィール

SHOWKO(しょうこ)

陶芸家

陶芸家。アーティスト。京都にて340年もの歴史がある茶道具の窯元「真葛焼」に生まれ、茶道をはじめとした日本文化が日常にある家庭で育つ。陶芸修行を経て、京都で自身の工房をスタート。2009年に法人化し、「読む器」をコンセプトとした陶芸ブランド「SIONE」を立ち上げる。その後、直営店をオープンし、世界各地にも活躍の場を広げる。また、現在は工芸の哲学を活かした感性をひらく宿「うたひ」を開業。著書に『感性のある人が習慣にしていること』(クロスメディア・パブリッシング)、『私らしい言葉で話す』(CCCメディアハウス)、『心に気持ちのよい風を通す』(大和書房)など。

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