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人たらしの流儀 ~相手の人柄をどう見抜くか?

佐藤優(作家/元外務省主任分析官)

2013年04月05日 公開 2024年12月16日 更新

《PHP文庫『人たらしの流儀』より》

小さな嘘で相手を見抜く

―― 相手の人柄を知るには、どうすればいいですか?

 ストレートに「あなたは、どんな人ですか?」なんて訊いたりすれば、相手に怪しい人、変なヤツと思われます(笑)。

 まず、動物の話をしてみるといいですよ。

―― 動物ですか?

 たとえば、犬の話を振ってみる。それで、動物に対して、憎悪が感じられる、または、小動物を徹底的に苛めた話を嬉しそうにする。相手が、そんな感じだったら、この人はちょっとヤバイかなって思ったほうがいい。

―― 「動物はお好きですか?」なんて訊くのも唐突のような気がします。

 でしたら、巷で話題になっている犬猫の話を普段からマメに収集しておきましょう。それから、「犬好きですか? 猫好きですか?」と訊きます。

 そして、猫が嫌いならば、犬の話で入っていく。これならいかがでしょうか。

―― なるほど。犬の話題で、盛り上がったりしますもんね。

 相手が、あまり動物に関心がない場合には、子供の話をするといいですね。ここで、動物に続いて、人間の子供の話もダメならば、この相手の人は、極端に利己的な可能性があり、友だちが少ない可能性があります。

―― 諜報活動の世界でも活用されているのでしょうか? かけひきの応酬のようなイメージがあります。

 そうです。インテリジェンスの世界の人たちは、動物の話が好きなんです。それから、前にも話しましたが、ベストセラーの本の話など、ちょっとした探りに使いますね。

 『1Q84』。

 必ず、読んでおいたほうがいい本でしょう。

 社会現象にまでなった大ベストセラーです。

 以下は、自分自身が『1Q84』を読んでいることがこの話の前提ですよ。

 対話の相手が、「『1Q84』読みましたよ」と言ってきたとします。ならば次は、その小説の事実を少し変えて、内容を訊ねてみるのです。

 相手が、いい加減な説明をして返してきたら、嘘つきの傾向があるのかもと、相手を判断する1つの材料になります。

―― ひっかけの質問を1つ、忍び込ませるわけですね。

 知らないことを、知らないと言うことができるか、どうか、これをチェックするのは重要です。なぜならば、これからともに仕事をしていける相手か、あるいは、プロジェクトを遂行するメンバーになり得るか、しっかり見極めておかないと最後に大怪我をすることになりかねません。

―― 『1Q84』なら、どんなひっかけ質問を用意しますか?

 「主人公の女性が、渋滞の東名高速から自分の足で一般道に下りるのはおかしいですよね、危険ですし」と話題を振ってみる。

 相手が、「そうそう」と相づちを打ったら、その人は、嘘をついています。正しくは、首都高です。

 もし、相手が、「えっ、首都高でしょ?」と言えば、読んでいて嘘を許せない人だとわかります。

 その場合は、質問したこちら側も、その程度ならば、「あ、勘違いしていました」で通ります。

 ―― ずるいなぁ(笑)。でも、人たらしに、ずるさは必要ですよね。

 相手とのその後の人間関係のつくり方ですが、これはどうすればいいでしょうか?

 実感として、相手と自分との力関係しかないですね。相手の力が圧倒的に上ならば、こちらは、もう奴隷のような関係になってしまう。その場合は、画策して動ける範囲が限られます。

 日本の外交官が、各国で比較的人脈をつくれるのは、日本という国家が強いからです。韓国の外交官が同じようなことをしようとしても無理です。それは、韓国の国力が弱いからです。

 力が弱い国の白人の外交官が、いくら英語を話せても、米国の外交官と同じようにはいかないのが外交です。

―― 外交官のバックが国家なら、民間人は、会社ですか?

 そうなります。

―― すると、相手から見くびられないようにする場合、会社が大きければいいですけど、個人レベルでやるには、どうしたら、いいですか?

 相手から見くびられないようにするより、相手との関係が長く続くようにするほうに、気を配ったほうがいいでしょう。

―― 相手を常に持ち上げる、接待モードですか?

 そんな感じですが、重要なのは、相手を常に上座に着かせることです。会食の場には常に先に到着し、下座に着きます。接客が行き届いているレストランなどですと、常に上座からサービスしてくれます。常に上座がどこに位置するのか、把握していることが大切です。

―― 難しくないですか?

 簡単です。わからなければ、お店の人に訊けば教えてもらえます。外国では、日本よりその辺りの事情は複雑かもしれませんね。外国の場合は、主人の座る位置によって、上座、下座が変わる場合もあるんです。主人の座る位置の対面が一番偉い場合とか、主人の隣が上座という場合もあります。いずれにせよ、主人がどこに座るかで決まるのですけれど……。

―― 難しい問題が新たに出てきましたねぇ。お店の人に訊ければいいですけど、もう、相手が来ているとか、お店の前で会ってしまった、なんて場合は?

 プロトコールに関する本を一度読めばいいと思います。

―― プロトコール??? 冠婚葬祭事典みたいなものですか?

 そうではなくて、日本語に訳すと儀典です。外務省儀典官室に長く勤めていた寺西千代子さんが書いた 『国際ビジネスのためのプロトコール』。

 図解も入っていてわかりやすいですし、お薦めです。

―― 今回は読むべき本が 『1Q84』のBOOK1、2、3と合わせて、4冊もあります(笑)。

 ところで、相手に足元を見られないようにするためには、どうしたら、いいでしょうか?

 相手に弱みを見せないことです。

―― 弱みですかっ?

 足元を見られてしまうのは、基本的にお金です。だから、領収書に上乗せさせて、お金をちょろまかしたり、白紙領収書を取ったりとか、そういう下品なことをしない。お金の払い方が、その人の品格を示すと言っても過言ではありません。

 次に弱みを握られやすいのが「酒と女」に関する行状です。

 普段は、きちんと仕事しているけど、お酒が入ると、女性とのトラブルを起こしてしまう人がいます。

 ですから、お金、お酒、女性、この3つは人間関係を構築していく場合、とくに気をつけたほうがいいですよ。

 自分より力が下、立場が下という場合は、仕事をするのに必要ならば、相手から自然と寄って来るものです。

 付き合い方は考えなくていいけれど、気をつけることは、恨みを買わないことです。誰であれ仕事相手には丁寧に接することが大切です。

 実は、一番付き合うのが難しいのは自分と同等の相手です。同等だと会社が違っても、同じでも、ある意味ライバルですからね。

―― 同等の場合は、相手に貸しをつくる関係が好ましいですよね?

 そうですね。相手に貸しをつくっていると、相手に理解させるには、まず、実力で頭2つ、自分が抜きん出ていることが前提です。

 客観的に見て「こいつ、俺より下だな」と自分が思っている相手こそが、実際にはイーブンの相手なのです。

―― 同等の相手より頭2つ、出るのは大変だなあ。

 かつて一億総中流なんて言われたように、日本社会の8割は同等でしたよ。この経済状況下で、8割あった層が、6割に、減りつつあります。2割落ちて、全体の3割が下流層に。1割がズドンと飛び抜けて上のほうに移行しつつあります。

―― 落ちれば、地獄。そこに留まっても同等との付き合いは、頭2つ抜ける地力がいる。もう、どうしたらいいのでしょうか?

 こんな時の人との付き合いの関係では、自分自身が、ある怖さを持たなければダメです。

―― 怖さ?

 相手に与える、怖さ。怖さがないといけません。もし、相手から無礼なことをされたら、大暴れしないといけません。毎回やるのは変人ですが、20回に1回ぐらいなら大丈夫でしょう。

 「舐めてもらっては困りますよ」という意志を、態度で示すということも人間関係の構築において、時には必要なんです。

 

佐藤 優

(さとう・まさる)

作家、元外務省主任分析官

1960年、東京都生まれ。1985年に同志社大学大学院神学研究科終了後、外務省入省。在英日本国大使館、在ロシア連邦日本国大使館に勤務した後、本省国際情報局分析第一課において、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で東京地検特捜部に逮捕され、2005年に執行猶予付き有罪判決を受ける。2009年に最高裁で有罪が確定し、外務省を失職。2005年に発表した『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年に『自壊する帝国』で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
『獄中記』『交渉術』『外務省に告ぐ』『国家の「罪と罰」』『読書の技法』など著書多数。


<書籍紹介>

人たらしの流儀

佐藤優 著 本体価格 552円

情報収集と分析、交渉のかけひき、人脈を広げるコツまで、外交の最前線で培われた「相手を意のままに動かす」究極の対人術を一挙公開!

 

 

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