部下の「心理的安全性」を高める5つのコツ 職場の雰囲気は上司の言動で決まる
2026年04月20日 公開
部下と信頼関係を築いてより良いチームを作る上司と、部下との関係をなかなか構築できない上司――その違いはどこにあるのでしょうか。
人材育成や組織開発に長年携わってきたピョートル・フェリクス・グジバチさんは、信頼関係を築けていない上司が「日常の何気ない言葉で部下のモチベーションを下げている可能性がある」と指摘します。本稿では、最高のチームを作るために意識したい5つの行動について見ていきましょう。
※本稿は、ピョートル・フェリクス・グジバチ著『世界の一流は「部下」に何を教えているのか』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
部下の「長所」を伸ばす
日本企業の上司は、部下の「欠点」や「短所」に目を向けがちです。「なぜ、言われた通りにできないんだ!?」とか、「いつまで同じことをやっているんだ!?」と部下の問題点ばかり気にしていると、部下が萎縮するだけでなく、上司のストレスも蓄積します。お互いの成長のためには、「部下の長所を伸ばす」という視点を持つことが大事なポイントとなります。
人は自分が得意とする領域においては、最も速いスピードで学び、最も深い成長を遂げます。シリコンバレーを中心に、世界中の企業で注目されている「ポジティブ心理学」は、単なる理想論ではありません。ポジティブ心理学の強みや長所を活かすアプローチは、学習効率や持続力、主体性を飛躍的に高める......という極めて実践的な知見に基づいています。
日本の「メンバーシップ型雇用」(職務内容や勤務地を限定せず、新卒などを長期的に育成する日本特有の雇用システム)においては、割り当てられる仕事と個人の適性の間にミスマッチが生じることは避けられません。
このような環境下で弱点を責めるマネジメントをすると、組織内の摩擦を増やすことになりますが、強みを活かすマネジメントを選択すれば、個人の可能性を大きく広げることができます。長所に注目するマネジメントは、部下を甘やかすことではなく、組織が成果を最大化するための合理的な選択といえるのです。
「一方通行」の会話をやめる
成果を出せない上司に共通する特徴は、部下との会話のほとんどが「一方通行」で、言葉のキャッチボールができていないことです。
日本の上司で最も多いのが、指示や指導、業務連絡などを一方的に伝えるだけで、何ひとつ部下に意見を求めないタイプであり、極端な場合には、部下の意見だけを聞いて、何も具体的なフィードバックをしないタイプもいます。どちらの上司も、部下と信頼関係を築けないことは間違いありません。
一方通行の会話が危険なのは、上司が指導や激励、感想のつもりで何気なく発した言葉が、部下には「叱責」と伝わって、モチベーションを下げてしまうことです。部下のやる気を失わせる上司の一言には、次のようなものがあります。
・「こんなこともできないの?」(能力の否定)
・「ホントに、やる気あるの?」(人格の否定)
・「前にも言ったよね」(自尊心の否定)
・「ちょっとレベルが低いな」(具体性のない叱責)
・「普通はこうするだろう」(価値観の押し付け)
こうした発言は、パワハラと認定されるリスクがあり、部下の萎縮や離職につながる可能性が高くなります。世界の一流の上司は、自分の意見を積極的に話すのではなく、部下への問いかけを重視しています。指導の際には、部下の人格について触れるのではなく、具体的な「期待」と「基準」を言葉にします。
例えば、「今回の期待値は〇〇であり、現状との差分は△△であるため、次は□□に変えてほしい」と、客観的な基準に照らした指示を伝えます。併せて、「あなた自身はどう考えたのか?」「これからどうしたいのか?」という問いを投げかけます。こうしたアプローチは、部下自身の思考を深く促すとともに、自らの仕事に対する責任感を引き出す効果をもたらします。
双方向の対話は、単なる部下への優しさとして提供されるものではありません。複雑化する現代のマネジメントでは、チームの成果を最大化するために不可欠な「最低限の技術」と考える必要があります。
部下の前で「愚痴」をこぼさない
日本企業には、会社に対する不平や不満があると、部下の前で愚痴をこぼす上司が少なくありません。同じチームという安心感なのかもしれませんが、軽い気持ちで、「うちの社長はビジョンがハッキリしなくて困るよ」とか、「うちの会社は方針がコロコロと変わる」などと部下にボヤいているのです。
最も多く見られるのが、「役員が決めたことだから、課長の立場では何も言えないよ」という日本の中間管理職に特有の弱気な発言です。こうした発言を耳にした部下は、上司に責任を引き受ける意思がないことを即座に見抜きます。その瞬間に、上司の発する言葉はチームを動かす力を失います。
現場の苦労を理解しようとせず、自分の上ばかり見ている上司を、部下は「ヒラメ上司」と呼んで嘲笑していますが、上司本人は知る由もありません。手軽なストレス発散くらいのつもりで、部下に愚痴をこぼしています。
上司から聞かされる愚痴を、部下が額面通りに受け取ったり、上司に同情したりするようなことは滅多にありません。「あの人は信用できない」と感じたり、「自分も陰で何を言われているかわからない」と考え始めたりして、上司に不信感を抱くようになります。「自分より高い給料をもらっているくせに、何をやっているんだ!?」というのが部下の本音です。
部下に愚痴をこぼすことは、チームの士気を下げて、信頼関係を損ねる可能性が高くなります。上司から会社の悪口を聞かされて、不快な感情に陥ったり、精神的な苦痛を感じて仕事に支障が出たりする場合には、パワハラで訴えられることもあります。軽い気持ちで部下に愚痴をこぼすことは、どんな状況であっても「厳禁」と考えることが大切です。
「好奇心」を持って部下との会話に集中する
上司と部下が信頼関係を高めるためには、部下に対して好奇心を持ち、お互いの会話に集中することが大事なポイントです。部下が「報連相」(報告・連絡・相談)のために、上司のデスクに来て話を始めても、書類に目を通しながら聞いたり、パソコンの画面を見つめたまま耳を傾けたり......という態度は、どんなに忙しくても避ける必要があります。
こうした上司の姿勢は、傲慢な振る舞いと受け取られて、部下のやる気を削ぎ落とすことになります。部下が上司に求めているものは、「自分の行動に関心を持って、注視してくれている」という実感を得ることです。上司が好奇心を持って部下と接することは、部下の安心感につながります。きちんと相手の目を見て、ポジティブな表情と仕草で向き合えば、それだけで部下の心理的安全性が高まります。
逆に言えば、上司が好奇心を持って向き合わなければ、部下に投げかける質問も思い浮かぶことがなく、一方通行の会話が始まることになります。1on1ミーティングが部下にとって「拷問」のような苦痛な時間に変わってしまうのは、上司側の好奇心が欠如していることが主な要因です。相手への関心を欠いた対話は、何ら価値を生むことなく、ただ貴重な時間を消費するだけの行為に成り下がってしまいます。
日本の上司に多く見られるのが、自分で質問しておきながら、部下の答えを待たずに、自分で答えを先に言ってしまうパターンです。自分を偉く見せたいのかもしれませんが、こうした行動は、部下に好奇心を持って接していない証拠です。もっと言えば、上司が自分にしか興味がないことを物語っています。部下に対して「興味がない」という態度を示しても、何のメリットも生み出さない......と考える必要があります。
部下を一人の「人間」として見る
世界の一流の上司は、「人に優しく、成果に厳しく」という意識を徹底させることで、チームの心理的安全性の確保とパフォーマンスの向上を両立させています。その根底にあるのは、部下を一人の「人間」として見る......という考え方です。
自分の部下は何を望んでいて、どんな夢を持っているのか?部下を「役割」として見るのではなく、一人の「人間」として見なければ、上司はこうした視点を持つことができません。この視点を持っていないことが、上司と部下の心理的な距離を作り出しています。
現代の若手社員は、会社に対して忠誠を誓うために働いているのではありません。彼らが求めているのは、自己の成長や、意義のある仕事を通じて、社会と密接なつながりを持つことです。携わる業務が社会に与えるインパクトを具体的に実感できなければ、若手社員にとって、離職はごく自然な選択となります。
若手社員のニーズに応えて、彼らの成長を促すためには、一人ひとりの部下に目を向けて、細かなフィードバックや適切なコーチングをする必要があります。そのためには、部下を一人の「人間」として見る......という視点を持って、絶えずそれを意識する必要があります。マネジメントの基本は、可能な限り部下の考えを尊重して、自律的な働き方ができるように、これからの道筋を明確に示すことなのです。







