人類はトウモロコシに操られている?
日本人にとってもごく普通の植物である「トウモロコシ」だが、実は植物の中でも非常にユニークな特徴を数多く持っており、「宇宙からやってきた植物」とすら言われることがあるという。
さらに、我々は知らず知らずのうちに、トウモロコシに大きな影響を受けているという。そんなトウモロコシの秘密を『世界史を大きく動かした植物』の著者である植物学者の稲垣栄洋氏に紐解いてもらった。
※本稿は稲垣栄洋著『世界史を大きく動かした植物』(PHP研究所刊)より一部再編集したものです
「宇宙からやってきた植物」
トウモロコシは宇宙からやってきた植物であるという都市伝説がある。
本当だろうか。
まさか、そんなことはないだろう。そう思うかも知れないが、トウモロコシはじつに不思議な植物である。
なにしろトウモロコシには明確な祖先種である野生植物がない。たとえば私たちが食べるイネには、祖先となった野生のイネがある。また、コムギは直接の祖先があったわけではないが、コムギの元となったとされるタルホコムギやエンマコムギという植物が明らかになっている。ところがトウモロコシは、どのようにして生まれたのか、まったく謎に満ちているのである。
トウモロコシは中米原産の作物である。祖先種なのではないかと考えられている植物には、テオシントと呼ばれる植物がある。しかし、テオシントの見た目はトウモロコシとは異なる。さらに、仮にテオシントが起源種であったとしても、テオシントにも近縁の植物はないのだ。
トウモロコシはイネ科の植物と言われるが、ずいぶんと変わっている。
一般的に植物は、一つの花の中に雄しべと雌しべがある。イネやコムギなどイネ科の多くは、一つの花の中に雄しべと雌しべがある両性花である。ところが、トウモロコシは茎の先端に雄花が咲く。そして、茎の中ほどに雌花ができる。雌花もずいぶんと変わっていて、絹糸という長い糸を大量に伸ばしている。この絹糸で花粉をキャッチしようとしているのである。
「種」を落とそうとしない不思議な植物
この雌花の部分が、私たちが食べるトウモロコシになる部分である。私たちがトウモロコシを食べるときに皮を剝いて食べる。皮を剝くと中から黄色いトウモロコシの粒が現れる。このトウモロコシの粒は、種子である。
当たり前のように思えるが、考えてみるとこれも不思議である。
植物は種子を散布するために、さまざまな工夫を凝らしている。たとえばタンポポは綿毛で種子を飛ばすし、オナモミは人の衣服に種子をくっつける。ところが、トウモロコシは、散布しなければならない種子を皮で包んでいるのだ。
皮に包まれていては種子を落とすことはできない。さらには皮を巻いて黄色い粒をむき出しにしておいても、種子は落ちることがない。種子を落とすことができなければ、植物は子孫を残すことができない。つまり、トウモロコシは人間の助けなしには育つことができないのだ。まるで家畜のような植物だ。
初めから作物として食べられるために作られたかのような植物――それがトウモロコシである。そのため、宇宙人が古代人の食糧としてトウモロコシを授けたのではないかと噂されているのである。
トウモロコシが宇宙から来た植物かどうかは定かではないが、植物学者たちはこの得体の知れない植物であるトウモロコシを「怪物」と呼んでいる。
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マヤの伝説では「人間はトウモロコシから生まれた」