AIは、いったいどこまで進化するのでしょうか。
ChatGPTを開発したOpenAIは、AIの発展段階を示す社内向け指標として「Five Steps to AGI(AGIへの5段階)」というロードマップを作成しています。このロードマップを読み解くと、AIが今後どのように進化していくのか、そして社会やビジネスにどのような変化をもたらすのかが見えてきます。書籍『AIの時代に 頭がよくなる人 悪くなる人』より解説します。
※本稿は岡瑞起著『AIの時代に 頭がよくなる人 悪くなる人』(日経BP)より一部を抜粋・再構成したものです。
AIは今、レベル3に手が届きそうな段階
AIの進化は5段階に分けられますが、まずこの項目では、今の状況を表すレベル3までを見ます。
■レベル1 チャットボット(会話型AI)─―会話ができる
レベル1は「チャットボット」、つまり会話ができるAIです。
これはすでに達成されています。人工知能の世界には、昔から「チューリングテスト」という有名なテストがあります。コンピュータ科学の父と呼ばれるアラン・チューリングが考えたもので、「人間と会話して、相手がAIか人間かわからなければ、そのAIは知能を持っていると言える」というテストです。
長い間、研究者たちはこのチューリングテストを目標にしていました。「AIが人間らしく会話できるようになったら、それは大きな進歩だ」と考えられていたのです。
ところが、2022年にChatGPTが登場すると、このテストはクリアされたと言える水準に達しました。今では、ChatGPTと会話していて「これは人間じゃない」とすぐにわかる人は少ないでしょう。幅広いトピックについて、自然に会話ができます。
■レベル2 リーズナーズ(推論者)─―博士号レベルの問題解決能力
レベル2はAIが「リーズナーズ(Reasoners)」になること。「推論者」です。
「推論」というのは、知っている情報をもとに、順番に考えて答えを導き出すことです。
たとえば数学の問題を解くとき、「まずこれがわかって、次にこれがわかって、だから答えはこうなる」と順番に考えていきますよね。それが推論です。
レベル2のAIは、「博士課程レベルの人間と同等の問題解決能力を持つAI」と定義されています。教科書なしに、複雑な問題を段階的に推論して解決できる能力水準です。
これは、2024年9月にリリースされた「o1(オーワン)」というモデルで達成されています。
o1をつくったサム・アルトマンさんは「レベル2にいる」と公の場で言及しました。同年12月には「o3(オースリー)」ができ、推論能力がさらに広げられました。
o3モデルは、アメリカのAIMEと呼ばれる難易度が高い数学コンテストで97%くらいのスコアを出したり、AI業界で最も信頼されているベンチマークのひとつであるSWE-bench Verifiedで、複雑なバグの70%以上を自力で直せるようになったりしています。科学的な推論も得意で、多くのテストで人間の平均を超える成績を出しています。
さらに、2025年に登場した「ディープリサーチ」という機能は驚異的です。これを使うと、AIが勝手にインターネットを調べて、情報を集めて、分析して、レポートにまとめてくれます。
その半年くらい前は、AIが調べてくる参考文献の数は20から30くらいでした。ところがディープリサーチは300から400もの参考文献を調べてきます。しかも、それを15分くらいでやってしまうのです。
私も使ってみて、正直なところぞっとしました。「こういう研究をしたいんだけど、どうだろう?」と聞くと、私が「大事だろうな」と思っているポイントを全部押さえてきます。それを詳細にまとめて、15分で返してくるのです。すでに、このレベルで「普通の人間」の能力を超えてしまっている側面もあることは否定できない状態です。
■レベル3 エージェント─―自分で判断して行動するAI
今、世界中で開発が進んでいるのが、レベル3の「エージェント」です。最近、「AIエージェント」という言葉を聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
レベル3のAIは、「人間の入力なしに、さまざまな領域でタスク(仕事)を実行できるAI」と定義されています。
レベル3について、まず最初に「AIエージェント」と「エージェンティックAI」というふたつの言葉を区別しておきましょう。
「AIエージェント」は、すでに使われています。たとえば、旅行サイトで「飛行機を予約する」「ホテルを予約する」などひとつの仕事を自動で行うAIのことです。
一方、「エージェンティックAI」は、より高度なものを指します。人間がいちいち指示を出さなくても、自分で判断して、いろいろな仕事をこなしてくれるAIです。
たとえば、「ブータンに旅行に行きたい」と伝えると、エージェンティックAIは自分で考え始めます。「どんな旅行プランがいいかな」「飛行機はどれがいいかな」「ホテルはどこがいいかな」「今、あの地域で流行っている病気はないかな」といくつものことを自分で調べて、判断して、必要なところだけ確認してきます。
「アレルギーはありますか?」「予算はどれくらいですか?」など予約に関わる重要な情報は聞いてきますが、あとは判断してくれます。まるで、とても優秀な秘書やアシスタントを雇ったような状態です。
しかも、対応も柔軟に変えられます。たとえば、旅行の計画を立てている途中で、目的地の天気が悪くなりそうだとわかったら、プランを修正してくれます。
2026年の今、レベル3はまだ完全には達成されていませんが、もう手が届くところまで来ています。
※Medium(Thomas)「An In-Depth Analysis of OpenAI’s O3 Model and Its Comparative Performance」2025-02-05,〈https://medium.com/@thomas_78526/an-in-depth-analysis-of-openais-o3-model-and-its-comparative-performance-813a7c57a83e〉(2026年5月7日閲覧)
レベル4以降 未来の世界とは
それでは、この項目からはレベル4と5を見ていきましょう。
■レベル4 イノベーターズ─―新しいものを発明するAI
レベル4は「イノベーターズ(Innovators)」、日本語で言うと「革新者」です。ここからはステージが変わってきます。
レベル3までは、「すでにある知識をどう活用するか」という世界でした。レベル4になると、「今まで人間が知らなかった、新しいものを発明する段階」に入ります。
AIが人間の知識の壁を超えて、真に新しいものを創造する段階─―これがレベル4です。「そんなことが本当にできるの?」と思うかもしれません。信じられない気持ちはわかりますが、実は、一部の分野ではすでに始まっています。
たとえば、物理学や化学の研究では、「この材料とこの材料を混ぜたらどうなるだろうか」「温度や圧力を変えたら、違う結果になるのでは」と膨大な数の組み合わせを一つひとつ試す作業が欠かせません。
人間がやると気の遠くなるような作業ですが、AIにとっては得意中の得意です。何万、何十万通りもの組み合わせを素早く計算し、有望な候補を見つけ出せます。しかも、実験用のロボットアームと組み合わせれば、AIが考えた実験を、ロボットが24時間休みなく、正確に実行してくれます。
もちろん人間よりもずっと速く、たくさんの実験ができます。
日本のSakana AI(サカナエーアイ)という会社は、「AIサイエンティスト」というシステムを発表しました。これは、研究テーマを与えると、AIが自分でどんな方法が考えられるかとアイデアを出し、実験計画を立て、プログラムを書いて実験を行い、結果を分析して、論文まで書いてしまうシステムです。
驚くべきは、これを約15ドル(約2200円)のコストで、3時間半くらいで完了してしまうことです。
もちろん、まだ完璧ではありません。間違いもありますし、論文のレベルもトップクラスの研究者には及びません。ただ、多くの人が「こういうことができたらいいな」と思っていたことを、実際にやって見せたという点で、とても大きな一歩といえるでしょう。
OpenAIのサム・アルトマンさんも、「これからは科学的なイノベーションにAIがきちんと関与できるようにしたい」と話しています。実際、この分野には、今、ものすごい投資が行われています。
■レベル5 オーガナイゼーション─―会社を経営できるAI
そして最後、レベル5が「オーガナイゼーション(Organization)」です。「人間の入力なしに、組織全体を運用できるAI」です。つまり、会社を経営できるAIです。
これがOpenAIがいう「AGIの完成形」です。
会社の経営にはさまざまな能力が必要です。
「長期的なビジョンと戦略を決める」「人、お金、時間を最適に配分する」「いくつもの部門やプロジェクトを同時に管理する」「新しいビジネスチャンスを自分で見つけて、実行する」─―こうしたすべてができるAIです。
「人間の力なしにAIが会社を経営する」と聞いてもSFの世界にしか思えないかもしれませんが、サム・アルトマンさんは、「このレベルは10年以内に達成される」と言っています。遠い未来の話ではなく、かなり現実的な話なのです。
ここで、少し違和感を抱いた人がいるかもしれません。
OpenAIが考える「AGIの完成形」が「会社を経営できるAI」であるからです。
もっと具体的に述べるとOpenAIが考えるAIの理想形は「ひとりでユニコーン企業をつくれるAI」です。「ユニコーン企業」というのは、企業価値が10億ドル(約1500億円)以上のスタートアップ企業のことで、珍しい存在なので、伝説の生き物「ユニコーン」にたとえられています。
つまり、OpenAIにとっての「完璧なAI」とは、「ひとりで1500億円の価値がある会社をつくれるAI」となります。
これは、とてもアメリカ的な考え方です。「完璧なAIとは何か」と聞かれて、「ひとりでユニコーン企業をつくること」と答える─シリコンバレーの価値観が色濃く反映されています。
もし日本人に尋ねたら「みんなで仲よく平和に暮らすことを助けてくれるAI」「困ったときに助けてくれるAI」などの答えが出てきそうですが、開発の目的は、国の考え方によってまったく異なるのです。
今のAI開発を牽引しているのはアメリカの企業です。そして、このOpenAIの考え方が、世界のAI開発の方向性に大きな影響を与えています。つまり、アメリカ的な価値感がAIの世界をつくっています。
日本も、この流れの中でどう立ち位置を取るかを考えなければなりません。









