部屋はキレイに保ったほうがいいとわかっているはずなのに片づかない...その原因は現状を維持しようとする「脳の現状維持バイアス」が原因だと、行動経済学者の竹林正樹さんは指摘します。
竹林さんの著書『すぐやる人の脳のクセ!』では、脳のクセを活かして行動を改善するためのナッジを紹介しています。本稿では、自然に片づけられるようになる仕組みについて解説します。
※本稿は竹林正樹著『すぐやる人の脳のクセ!』(飛鳥新社)より一部を抜粋・編集したものです。
3日坊主を卒業するためのナッジ
理想の行動を習慣にすることは、自分を変えるための効果的な戦略です。しかし、「片づけ」「運動」「ダイエット」など、本来プラスになる行動ほど、忙しさの中で後回しになってしまうものです。
すると、多くの人が「続かない」「やっぱりできなかった」という壁に直面し、そのうち、行動したいという気力すらなくなっていきます。その原因の多くは、脳が持つ「現状を維持しようとする力」(現状維持バイアス)にあります。
現状維持バイアスを打ち破るのに必要なのは、気合でもやる気でもなく「仕組み」です。「自然に続けたくなる環境作り」について、具体的なナッジの事例とともに紹介します。
「散らかしてもいいエリア」と「絶対清潔エリア」を区分する
こんな人にオススメ:部屋を片づけられない人、片づける時間を作れない人
ナッジ:ゾーニングナッジ
かつての私は、掃除や片づけが苦手でした。平日は仕事で忙しく、休日にまとめて掃除しようと思っても、結局手がつかないまま散らかった部屋で新しい週を迎える...そんな生活が続いていました。これは現在バイアスに振り回されている典型的な例です。
そんな私でも、今はある程度キレイな状態をキープできています。その理由は、「散らかしてもいいエリア」と「絶対清潔に保つエリア」を、養生テープで明確に区分しているからです(ゾーニングナッジ)。
片づける余裕がないときは、「散らかしてもいいエリア」に書類や荷物を一時的に置きます。それだけで、部屋がぐちゃぐちゃになることは避けられます。そして、「絶対清潔エリア」には物を置かないというルールを守ることで、「散らかった状態が当たり前」というスパイラルに陥ることを防げます。
この工夫には、心理的な裏づけがあります。散らかった状態を毎日目にしていると、単純接触バイアス(何度も目にするとそれが心地よく感じられる心理)が働き、「このくらいの散らかりが自分には合っている」と、現状を正当化したくなります。しかし、一部でも「片づいている状態」を維持できていることで、「部屋は整っているべきもの」という感覚が自然と根づくのです。
全体が散らかっていると、何をどうしていいのかわからなくなります。何事も0→1へと一歩踏み出すのはむずかしいものですが絶対清潔エリアを死守することで、片づけの着手しやすさが大きく変わってきますよ。
片づけるのは「レジ袋1枚分のゴミ」だけ
こんな人にオススメ:片づけをはじめるのに腰が重い人
ナッジ:スモールステップナッジ
「散らかしてもいいエリア」を設定すると、時間が経つにつれて、物が増えていくという問題が発生します。もちろん定期的に片づければいいのですが、面倒くさがりな私は、「一度掃除をはじめたら、全部やり切らないといけない気がして、手がつけられない」という状態になったことが何度もありました。
私に限らず片づけが苦手な人は、「やるなら徹底的にやる」という完璧主義の側面もあります。しかし、その気持ちが逆に行動を妨げ、「今日は忙しいから無理」「また今度にしよう」と、片づけを後回しにする原因になってしまうのです(現在バイアス)。さらに、私たちの脳は思い出の品には並々ならぬ愛着を持つため、廃棄処分するのを苦痛に感じます(保有バイアス、IKEAバイアス)。
そんなときにオススメしたいのが、レジ袋1枚分だけ片づけるというスモールステップナッジです。「このレジ袋1枚が満杯になるまでゴミを集める」という小さな目標を設定することで、心理的ハードルを下げることができ、「ここまでやった」という達成感も刺激され、次もやろうという意欲にもつながります。
友人を自宅に招く
こんな人にオススメ:部屋を片づけられない人、部屋にゴミが散乱している人
ナッジ:社会的ナッジ
来客があるとわかった瞬間、掃除する明確な動機ができます。普段は「また今度でいいか」と後回しにしてしまう片づけも、「人が来るから」と思うと自然と手が動きます。
これは、「自分のためには動けないけれど、誰かのためなら動ける」という利他性の心理(利他性バイアス)と「他人の目が気になる」心理(モニタリングバイアス)に働きかけた仕組み作り(社会的ナッジ)です。人は本質的に、他人からの評価や印象を気にする心理があります。「この状態を見られるのはさすがに恥ずかしい」という危機感が、掃除のモチベーションになります。
その結果、我が家の掃除の頻度は友人の来訪頻度とほぼ連動するようになりました。「来客のために掃除をする」というより、「掃除のためにお客さまを呼ぶ」という状態になっているのかもしれません。
「人を家に呼ぶのは苦手」という人は、他者に家の中を見られるタイミングをあえて生活に組み込むのも効果的です。たとえば、「毎週△曜日、自宅からオンライン会議に参加する」「毎月、シルバー人材センターに水回りの掃除をお願いする」などと決めると、その予定に合わせて自然と片づけたくなります。









