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“謎の疲れ”やうつの原因?「リーキーガット」が現代人の腸を壊す

鈴木祐(サイエンスジャーナリスト)

2026年07月20日 公開

“謎の疲れ”やうつの原因?「リーキーガット」が現代人の腸を壊す

「毎日しっかり寝ているのに、疲れが取れない」――そんな現代人を悩ませる"謎の疲れ"やうつ症状の原因は、もしかしたら「腸」にあるのかもしれません。実は今、腸のバリア機能が破壊されてしまう「リーキーガット」という症状に陥る人が増えています。本記事では、「リーキーガット」の正体や、腸内細菌の働きについて解説。良かれと思って使っている薬やアイテムが腸内細菌に及ぼす影響や、現代人が見落としがちな対策についてひも解きます。

※本稿は、鈴木祐著『新版 最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)より一部抜粋・編集したものです。

 

現代人の腸はバリアがどんどん破れている

あなたに数年来の親友がいるとしましょう。
2人は生まれてからずっと一緒で、ほどなく共同で暮らすようになりました。あなたは友人に住む場所を提供し、その代わりに友人は炊事や洗濯をすべてやってくれます。もはや、あなたは友人なしで生活ができません。

そんなある日、関係に異変が起きます。あなたは、今まで助けてもらった恩を忘れて友人を自宅から追放。それでもめげずに戻ってくる友人を、何度も何度も追い出し始めたのです。
なんともひどい話ですが、実はここ数十年、人類は同じような過ちをくり返してきました。その友人とは、「腸内細菌」のことです。

腸内細菌は、ヒトの消化器官のなかに住み着く様々な微生物で、ヨーグルトなどに含まれるビフィズス菌や乳酸菌が有名です。その数はおよそ100兆〜1000兆で、これは人体のすべての細胞の数を超えます。
その全容はまだ解明されていませんが、腸内細菌の働きぶりは凄まじいものです。

たとえば、腸内細菌は、アミノ酸や食物繊維などを材料にして、ビタミンB群やビタミンKといった重要な成分を合成します。おかげで私たちは、主要なビタミンの欠乏症から免れることができています。

ほかにも栄養の吸収を助けたり、食物繊維を分解してエネルギーに変えたり、脂肪酸を生成して腸壁を守ったりと、その活躍は八面六臂。いずれも私たちが健やかに暮らすために欠かせない機能で、腸内細菌なしで人体は正常に働きません。

数ある腸内細菌の働きのなかでも、もっとも大事なのが「外敵との戦い」です。

腸管は栄養の吸収を行うための器官ですが、いっぽうでは細菌やバクテリアなどの脅威にさらされています。人間の腸は、栄養を体内に送り込むと同時に外敵が体内に入り込むのを防ぐという、非常に難しい役目を任されているわけです。

そんななか、腸内細菌は兵隊として働きます。

まずは善玉菌が腸内に巨大なコロニーを作り、敵に立ち向かうための前線基地を設営。そこで栄養素をもとにバクテリアを駆除する武器を作り出し、腸管からの侵入をブロックするのです。
同時に、腸内細菌は食物繊維から酪酸という脂肪酸を生産し、これで有害物質が体内に入り込むのを防ぎます。腸内細菌がなければ、私たちの免疫システムは攻撃も防御もままなりません。

ところが、人類の暮らしが近代化するなかで、このシステムに不調が出てきました。その根っこにあるのが、「リーキーガット」という症状です。
これは腸の細胞に細かな穴が開いてしまう現象のことで、日本語では「腸管壁浸漏症候群」と呼びます。腸の粘膜をつなぐ結着細胞が壊れて、バリア機能が破れた状態を意味しています。

いったんリーキーガットが起きると、腸の穴から未消化の食物やエンドトキシン(毒素)などの有害物質が血管に侵入。これに反応した人体は免疫システムを作動させ、体内のあらゆるエリアに慢性的な炎症を発生させていきます。
こうなってしまうと、どんなに健康的な生活をしても、なかなか効果は出ません。いくら野菜を食べようが、毎日8時間ずつ眠ろうが、腸のバリアを突破した毒素が体内で暴れ続けるからです。

リーキーガットはアレルギーや認知機能の低下など様々な症状を起こしますが、なかでも重要なのは「疲れやすさ」との関係性でしょう。
現代では「謎の疲れ」に悩む⼈の数が激増しつつあり、その実数は不明ながら、厚労省の調査には回答者の38.7%が慢性的な疲労感を報告しています。

2020年、アルバータ⼤学などが、腸内細菌とメンタルヘルスの関係性を調べたレビュー論⽂を発表しました。

研究チームは88の先⾏研究を調べたうえで、現代⼈が苦しむ謎の疲れは腸内細菌と深い関係があると指摘。リーキーガットのせいで体内に⼊った毒素が脳まで達し、そこで激しい炎症が起きた結果として、不安、うつ症状、疲労感の発⽣につながっていくと結論づけました。

この結果をもとに研究チームは、現代⼈の謎の疲れや不安に対して、⾷物繊維やプロバイオティクスが効く可能性を⽰唆しています。

 

衛生的な生活が免疫システムを狂わせる

ヒトと類人猿のDNAをくらべた2016年の研究によれば、およそ530万年前には、私たちと腸内細菌は「持ちつ持たれつ」の関係だったと推測されています。腸内細菌は、人類にとって最古の友人だと言えるでしょう。
にもかかわらず、現代人は最古の友人との共同生活を取りやめようとしています。長い人類史のなかで、初めての仲違いが起きているのです。

その原因はおもに2つで、ひとつめは「衛生の発達」です。
言うまでもなく、現代人は衛生の発達で平均寿命を大きく延ばしてきました。古代人を悩ます多くの感染症を克服できたのは、抗生物質のような医薬品を発明し、クリーンな水道水や下水といった衛生設備を発展させたおかげです。

ただし、この発明が現代人に重大な副作用をもたらしたのも事実ではあります。抗生物質が腸内の善玉菌を殺し、衛生設備が有用な菌との接触を妨げてしまうからです。

典型的なのが、1989年の東西ドイツで観察された事例でしょう。
この時期、東ドイツの生活水準は西ドイツより低く、衛生環境はかなり劣悪なものでした。ところが、いざ東西が統一された後に調べてみると、清潔な暮らしをしていた西ドイツの方が、東ドイツより花粉症の患者数が4倍も多かったのです。

この現象は、東ドイツでは女性の就業人数が多かったため、保育所の利用率が高かったせいで起こりました。衛生状態が悪い保育所に預けられた乳幼児のほうが微生物にさらされやすく、そのぶんだけ免疫システムが鍛えられたのです。

腸内細菌のエキスパートであるロンドン大学のグラハム・ロックは言います。
「高度に近代化した国ではライフスタイルが大幅に変わり、環境内の微生物や寄生虫との接触が減っている。これらの生物は、人類の進化のうえで免疫系の生理反応をつかさどる重要な役割を果たしてきた」
かつては身の回りにあふれていた微生物が近代化のプロセスとともに減り、そのおかげで免疫システムに狂いが出たというわけです。

実際、狩猟採集民の多くは、先進国の住民よりも多種多様な腸内細菌を持っています。たとえばアマゾンのヤノマミ族を調べた調査によれば、彼らの腸内に住み着く細菌の種類はおよそ50種超。これに対して、一般的な西洋人の腸内には数種類の細菌しか存在していません。

 

腸内細菌の食糧難

もうひとつ、現代人の腸内細菌が変化した理由は「腸内細菌の食糧難」です。これだけ食べ物が豊富になったにもかかわらず、私たちの腸内細菌は、まともに食事ができていません。

まず前提として、腸内細菌はおもに食物繊維を食べて繁殖します。
本来のエネルギー源は炭水化物ですが、ブドウ糖の大半は小腸で吸収されてしまうため、腸内細菌が大量に住む大腸まではほとんど届きません。そこで彼らは食物繊維をエサにしているのです。

にもかかわらず、現代人は年ごとに食物繊維の摂取量が減っています。厚労省は1日の食物繊維の摂取量を20〜27gに定めていますが、いまの日本人は13〜17g程度しか摂れていないのが現状です。

これに対して、コロラド州立大学が229種の狩猟採集民を調べたところ、彼らは1日で42.5gもの食物繊維をとっていました。エサの量に2倍以上もの差があるのだから、先進国と狩猟採集民の腸内環境に違いが出るのも当然でしょう。

いったん旧友と別れてしまった私たちが、再びかつての仲を取り戻すにはどうすればいいのでしょうか?
道のりは簡単ではありませんが、ここまでの話を見れば、おのずと対策は浮かび上がってきます。すなわち、腸内細菌と仲直りした上で、彼らをもてなせばいいのです。

 

抗生物質を使うと腸内細菌が大量に死ぬ

旧友と仲直りするためには、まず彼らの部屋を整理し直さねばなりません。そのために最初にすべきは、抗生物質の乱用を避けることです。
抗生物質の悪影響に関する研究は多く、たとえば2008年の実験では、たった1回の使用でも腸内細菌の3分の1が死に、そのダメージは半年が過ぎても回復しませんでした。抗生物質でお腹を壊す人は多いですが、これも腸内環境の悪化が原因のひとつだと考えられています。

もっとも、ここ数年は世界中で抗生物質の利用を減らす傾向にあり、日本でも無闇に処方されることは少なくなりました。医療機関で抗生物質を処方された場合は、どのような細菌感染が疑われるのかさえ確認しておけば問題はないでしょう。

また、抗生物質と同じく使用をひかえたいのが抗菌グッズです。日本のドラッグストアでも定番の商品ですが、この手のアイテムには2つの問題があります。

第一に、薬用ソープに使われる抗菌成分が、肌に住み着く有益なバクテリアまで殺してしまう点です。
なかでも注意したいのはトリクロサンとトリクロカルバンの2つで、どちらも体内のホルモンバランスを乱す作用を持ち、米国食品医薬品局も「体への害が大きい」との警告を出しています。

この結果を受けて、アメリカ政府はこんなコメントを出しました。
「消費者は薬用ソープにより雑菌の繁殖を防げると思っている。しかし、いまのところ薬用ソープの効果を示す証拠はゼロだ。普通の石けんと水を使ったほうがいい」

手や体を洗いたいなら、昔ながらの石けんを使えば十分。石けん素地だけを使った無添加のボディソープなどを使うのがおすすめです。

プロフィール

鈴木祐(すずき・ゆう)

サイエンスジャーナリスト

1976年生まれ。慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門家へのインタビューを重ねながら、へルスケア、生産性向上をテーマに書籍や雑誌で執筆。自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、化学に関する最新の知見を紹介し続け、月間250万PVを達成。著書に『ヤバい集中力』他多数。

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