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科学的に実証された「正しい休み方」 脳の疲労を回復させる方法とは?

河原千賀(アメリカ在住ジャーナリスト)

2025年03月28日 公開 2026年03月26日 更新

科学的に実証された「正しい休み方」 脳の疲労を回復させる方法とは?

膨大なタスクに追われ、毎日クタクタになって帰宅する......そんなビジネスパーソンは多いだろう。変わらない日々を過ごしがちだが、アメリカのビジネスエリートは、「ある工夫」をしながら効果的に休む術を知っている。本稿では、ロサンゼルス在住の河原千賀佳氏が、科学的に証明された「正しい休み方」について紹介する。

※本稿は『グーグル社員はなぜ日曜日に山で過ごすのか』(PHPビジネス新書)より抜粋・編集を加えたものです。

 

リラックスした脳でこそ「ひらめき」が生まれる

アリゾナ大学における研究で、50デシベル(騒音レベルを測定する単位)が最も生産性の高い音だと発表されている。静か過ぎても、うるさ過ぎても生産性には良くない。

50デシベルは優しく降る雨、小鳥のさえずりと同じだと言う。自然の中では、私たちの脳波はアルファ波になりやすい。

集中するには、まず脳をリラックスさせる必要がある。

せっかく一生懸命勉強したのに試験で緊張して、答えが出てこなかった。それなのに、試験を終えてほっとリラックスした瞬間に、答えを思い出した、という経験はないだろうか。これは、緊張感から解放され、アルファ脳波に切り替わったのが原因だ。

アスリートも極限状態でハイパフォーマンスを発揮するために、脳波を自在にコントロールする訓練を課している。

効率よく仕事を進めたり、プレッシャーの中で能力を発揮したりするうえでも、脳波のコントロールをマスターする習慣が求められるだろう。緊張感を持ちながら集中力も維持させることがハイパフォーマンスの秘訣、とされていたのはひと昔前の考え方なのだ。

あえてリラックスして休むことで、「アハ・モーメント(ひらめきの瞬間)」を誘発するメリットもある。

アハ・モーメントは、ベンチャー界隈では、ユーザーがコンテンツの価値に最初に気づく瞬間としてこの言葉が使われており、馴染みがあるビジネスパーソンもいるだろう。

「視覚の化学的生理学的基礎過程に関する発見」でノーベル生理学・医学賞を受賞したラグナー・グラニト博士は「無意識が働いているあいだは、とにかくリラックスをして休み、その過程を意識で邪魔しないことが大切である」と述べる。

リラックス状態でこそ、無意識が活発に動き「アハ= ひらめき」が生まれるのだ。

「どんな分野でも世界レベルに達するには、1万時間の練習が必要だ」という話は聞いたことがあると思う。ベストセラー『天才! 成功する人々の法則』(原題Outliers、マルコム・グラッドウェル著、勝間和代訳、講談社)で詳しく知られるようになった。

しかし、そこには言及されていない「視点」がある。

「1万時間の練習」からバーンアウト(燃え尽き)せずに、ハイパフォーマンスを続けた人たちの共通点として、約1万2500時間の意識した休憩、そして、約3万時間の睡眠があったという、フロリダ州立大学心理学部のアンダース・エリクソン教授のスタディ「10,000時間ルール」を、アレックス・スジョン=キム・パンは『シリコンバレー式 よい休息』のなかで指摘している。

自然の中で読書することで、アルファ波が学習能力を高めてくれる。そして、あえてぼんやりとする時間を持つことで、アハ・モーメントが訪れ、行き詰まっていた問題が解決したり、思いがけないアイデアがいきなり浮かんだりするといった効果も期待できそうだ。

アルキメデスはお風呂の中で、ニュートンはリンゴの木の下で、アハ・モーメントが訪れたのも、考え抜いた挙句、あえてリラックスして休む時間の効用のようだ。日本の天才数学者・岡潔もこう語っている。

「発見は、常に問題を考えたあとの、自然の中で自然に起こるのだ」

 

休憩時間になったら、あえて「ぼんやり」過ごす

オフィスでPCや会議の資料に一点集中させて、仕事をしていた。しかし、ある時点から、机周りを整頓しなくては、とか、仕事の後、あの雑誌で見たお店に行ってみよう、とか、たわいないことに気がとられ出す経験は、誰でもあるのではないだろうか。

集中していなくてはいけない、と思っているのに、ついスマホを手にして、SNSをチェックしてしまっている。ハッと気づいて、自己嫌悪に陥ってしまう。しかし、それは仕方がないことらしい。

じつは、ひとつのことに集中した状態は、90分が限界で、それ以上続けても集中力は減ってくる。このことは、ミシガン大学の環境心理学者レイチェル&スティーブン・カプラン夫妻によって提唱された注意回復理論(ART)で証明されている。

同理論では、減ってしまった「方向性注意」(集中力)を回復させるには、自然の中で過ごすことを推奨する。

自然の中では五感すべてを使用し、注意が分散された状態になる。矛盾するようだが、そんなぼんやりとした状態での注意(「選択性注意」と呼ぶ)が、集中力を取り戻すのに効果的なのだ。自然の風景を眺めていると、日常の煩わしさから解放される。

また、自然の中を歩くとき、自然とマインドフルネスにもなりやすい。

頬に当たる風を意識して感じ、樹木の間に差し込む日光のキラキラとした輝きを見つめ、呼吸をしながら身体の感覚に意識を向けるとき、日常の煩わしいことへの思いや、否定的な自分との会話から解放される。

こうした開放感は、脳が「デフォルトモード・ネットワーク」に切り替わった証拠だ。デフォルトモード・ネットワークは、ワシントン大学の神経学者マーカス・レイクルの論文で知られるようになった。安静時にもかかわらず活動を示す脳領域の存在が複数証明されたのだ。

ぼんやりとした状態でも、仕事や勉強をしているときより、脳は15倍ものエネルギーを使うという説もある。そして、このぼんやりした状態が、仕事や勉強での注意力の減少を回復してくれる。

だからスマホを見て息抜きをしてしまっては、逆に刺激を受けるばかりで脳の疲労は回復しない。休憩時間はあえて、ぼんやりしよう。

その際注意が必要なのは、ぼんやりすると、自己批判やネガティブな考えが次々に浮かんでしまうことだ。

そういうクセを自覚する人は、自然の中でマインドフルネスを実践することで、その傾向を避けることができる。「いま、ここ」に意識を向けて、緑の多い公園の中を10〜15分歩くだけでも、副交感神経が整い集中力を回復できる。机の周りに植物を置くと、注意力は回復する。

外の自然に触れる時間がなければ、せめてオフィスや部屋にいくつかの植物を置いてみよう。ケアレスミスがなくなるかもしれない。会議が始まる5分前に、資料の準備をしているようではダメだ。あえて植物の前でぼんやりと過ごすだけで、その会議は生産性の高いものになるはずだ。

 

プロフィール

河原千賀(かわはら・ちか)

ジャーナリスト

大阪府生まれ。1988年よりアメリカ在住。大谷大学短期大学部幼児教育学科、カリフォルニア州立大学心理学部卒業、同大学院教育心理学部修士課程修了。2018年より、ロス・パドレス国立森林公園内のプライペートコミュニティに在住。星空の美しい自然の中で、人間力を回復するための数々の活動を行なっている。河原氏の初の著作『グーグル社員はなぜ日曜日に山で過ごすのか』(PHPビジネス新書)が絶賛発売中!

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