「限界を感じても我慢」が4人に1人 真面目な人ほど手遅れになる“心のSOS”
2026年08月10日 公開
「最近、なんとなく朝起きるのがつらい」
「会社に行こうとするとお腹が痛くなる」
「以前に比べて、仕事のミスが増えた気がするけれど、みんなも忙しいし、これくらいで弱音を吐いてはいけない…」
日々の激しい業務のプレッシャーや複雑な職場の人間関係の中で、自分の心や体に少しずつ異変を感じていても、このように自分を奮い立たせて無理を重ねてしまうビジネスパーソンは少なくありません。
しかし、その「我慢」は本当に正しい選択なのでしょうか。
株式会社Smart相談室が実施した「メンタル不調による休職・退職者調査」からは、真面目で頑張り屋な人ほど陥りがちな「隠れメンタル不調」の実態と、深刻な事態に陥るまでの「タイムラグ」の危険性が浮かび上がってきました。今回は、Smart相談室カウンセラーの大塚利江さんが、私たちがなぜそこまで我慢してしまうのか、その心理を紐解きながら、心が折れる前に自分自身を守るための方法を解説していきます。
「我慢」を選んでしまう私たち

私たちは、心や体に「いつもと違う」というサインを感じたとき、一体どのような行動をとるのでしょうか。同調査によると、異変を感じた初期段階でとった行動として、最も多かったのが「特に何もせず、我慢して働き続けた(34.8%)」でした。
「たまたま疲れが溜まっているだけ」「今週を乗り切れば少しは楽になるはず」と、目の前の業務を優先し、自分のケアを後回しにしてしまう。これは多くの働く人にとって、身に覚えのある光景ではないでしょうか。
しかし、本当に恐ろしいのはその先です。状況が好転せず、「このままではもう限界だ」と感じる深刻な段階を迎えても、なお4人に1人(24.7%)が「それでも何もせず、我慢して働き続けた」と回答しているのです。

このように、初期段階から限界に至るまで我慢を重ねてしまった結果、心身の異変を感じてから実際に休職や退職に至るまでの期間は、「3か月以上」が半数以上を占めるという実態が明らかになりました。なかには「1年以上」も耐え続けていたという人も14.5%にのぼります。

「まだ大丈夫、まだ頑張れる」という責任感や真面目さが、結果として自分自身を長い期間にわたって追い詰め、メンタル不調を深刻化させる要因になってしまっているのです。
職場にSOSを出せない2つの本音

では、なぜ私たちはこれほど長い期間、苦しい状況に置かれながらも、周囲に「助けて」の一言が言えないのでしょうか。同調査では、当時を振り返って職場に不調を相談・報告することに「抵抗感があった」と答えた人が65.8%と、6割を大きく超えています。
その背景には、働く私たちが抱える「2つの切実な本音」があります。

本音①:「相談しても状況が変わらない」という諦め
相談をためらう理由のトップに挙がったのは、「相談しても状況が変わらないと思ったから(49.6%)」というものでした。「人員不足だから仕事を減らしてもらえるわけがない」「上司に言っても『みんな大変なんだから』と一蹴されるだけだろう」という、職場や組織に対する諦めが、自らSOSの口を閉ざしてしまう最大の原因になっています。
本音②:「評価やキャリアへの悪影響」という恐怖
次いで多かった理由が、「評価やキャリアに悪影響が出ると思ったから(39.3%)」、そして「弱みを見せたくなかったから(34.9%)」という心理です。不調を伝えることで「自己管理ができない人間だと思われないか」「出世コースから外されるのではないか」「今のプロジェクトから外されてしまうのではないか」という不安。
あるいは、周囲に迷惑をかけたくない、自分の能力不足だと認めたくないという思いが、高い壁となって立ちはだかります。「やる気がない」と思われたくないからこそ、私たちは平気な顔をして出社し、ギリギリまで不調を隠し通そうとしてしまうのです。
放置された不調がもたらす組織の損失

周囲に気付かれないよう、不調を隠して働き続けることは、私たちの日常業務にどのような影響を及ぼすのでしょうか。調査によると、実に8割以上(84.2%)の人が、休職・退職に至る前に「仕事のパフォーマンスに影響があった」と回答しています。
具体的な影響として挙げられたのが、以下の2つです。
集中力が低下し、業務に時間がかかる(48.1%)
ミスや確認漏れが増えた(44.5%)
「周囲に迷惑をかけたくない」「評価を落としたくない」という思いからSOSを出さずにいる行為が、結果としてさらなる業務上のリスクを生み出してしまう。このデータが示しているのは、業務の遅れやミスの増加は決して個人の能力不足や怠けではなく、限界の一歩手前にいることを知らせる客観的なサインでもあるということです。
さらに、このように不調を抱えたまま働く状態は「プレゼンティーズム」と呼ばれ、近年、組織にとって甚大な経済的損失をもたらす要因として問題視されています。そのうえ、限界を迎えた社員が最終的に休職や退職に追い込まれれば、貴重な人材やノウハウの流出だけでなく、代替要員の採用・育成コストといったさらなる痛手を伴います。従業員が不調を隠して働いている状態は、知らぬ間に企業の生産性を低下させ、組織に深刻なダメージを与える大きな損失と言えます。
心が折れる前に、自分を守るための3つの処方箋
調査結果が示すように、真面目な人ほど「まだ大丈夫」と限界を先送りし、状況を悪化させてしまいがちです。特に近年は、職場での孤立感や、業務の高度化・タイムパフォーマンスの要求による「見えないプレッシャー」が静かに蓄積する傾向にあります。そのため、周囲も異変に気づけず、突然の休職や深刻な不調へ至ってしまうのです。
一度心が折れると、元の状態に戻るには予想以上の時間とエネルギーを要します。
これからも続く、あなたの大切な人生です。心が悲鳴を上げる前に、今すぐできる「3つの処方箋」を意識してみませんか。
①「感情=自分」ではないと捉える
辛さや焦りに支配されそうなときは、「この感情は自分の一部にすぎない」と一歩引いてみてください。感情は自分の一部と捉えることで、心が過度に揺さぶられるのを防ぎます。
②心に「カーテン」を引く
職場の問題や他人の機嫌をすべて背負い込む必要はありません。理不尽な言葉やプレッシャーを感じたら、心の中でそっとカーテンを引き、自分を守ることを最優先してください。
③辛い時は一旦止まり歩みを緩め、「話す(放す)」
心が弱っているときに一人で客観的に判断するのは難しいものです。だからこそ、利害関係のない第三者にお話しください。専門家に事実や感情を打ち明けて「話す(放す)」ことで、複雑に絡み合った糸がほどけ、次の一歩が見えてきます。
今の積み重ねが、未来の人生を作っていきます。一人で走り続けるだけでなく、時には自分を守るカーテンを引いて一息つくこと、限界を迎える前に誰かに話すという選択は、決して弱さではありません。自分自身と、あなたの大切な人生を守るための、とても賢明で前向きな一歩です。
あなたが健やかで、自然な笑顔でいられることこそが、結果として組織や周囲の大切な人を守る一番の基盤になっていきます。
他の誰でもないあなた自身の人生を大切に捉え、今、少しだけ立ち止まってご自身の心に温かい目を向けることが、未来の健やかな日々へと繋がっていくのではないでしょうか。









