診察室で医師が患者さんによく語っている「それ、やめといた方がいいですよ」。老年期を視野に入れた年代の人が「やらないほうがいいこと」は一体なんでしょうか?健康や美容のためによかれと思ってやっていることが、実は将来に重大なリスクを招いてしまう場合も...。老年科の医師である林良典先生が、日々の臨床経験の中で実感している「3大やめとけ」と「3大やっとけ」を解説します。
※本稿は、栗原大智総監修『#3大やめとけ』(高橋書店)より一部抜粋・編集したものです。
極端なダイエットは“やめとけ”→筋肉量と骨量が減り、将来の体力や回復力を奪う
やせすぎを目指す極端なダイエットは、「きれいになりたい」「理想の体型に近づきたい」という気持ちで始める方もいますが、体調を崩すきっかけになることがあります。体重を減らす必要がないのに食事量を減らし続けると、低栄養の状態になったり、筋肉量や骨量の低下、ホルモンバランスの乱れにつながったりします。
やせすぎで起こりやすいのは、疲れやすさ、立ちくらみ、冷え、集中力の低下、気分の落ち込み、睡眠の質の低下、月経の乱れなどです。体重が減っているとき、元気が出ない・回復が遅い・月経が乱れるといった変化が出たら要注意です。
栄養不足が続くと骨量や筋肉が落ちやすく、体力低下や姿勢の崩れにつながります。この状態が続くと、将来のフレイル(虚弱)や転倒、骨粗鬆症、骨折のリスクが高まる可能性があります。
フレイルとは、筋肉や体力が落ちて疲れやすくなり、日常生活の動きが小さくなる状態です。体重だけを目標にすると、将来の体力や回復力を削ってしまうことがあります。
体型を整える場合は「筋肉と骨を減らさないこと」を意識します。食事の量を削りすぎずたんぱく質を確保し、糖質を極端にゼロに近づける食事は避けましょう。運動は歩くだけでなく下半身の筋トレなどを短時間でも加えると、筋力や体力を維持しやすくなります。
極端な紫外線対策は“やめとけ”→骨密度低下、骨粗鬆症につながる
紫外線対策は、日焼けやしみを防ぐだけでなく、皮膚がんや紫外線による肌の老化(光老化)を防ぐためにも大切です。しかし、日焼け止めに加えて日傘・帽子・長袖・手袋などで肌の露出をほとんどなくし、季節を問わず日光を避ける生活を続けると、ビタミンDが不足しやすくなります。
ビタミンDは食事だけでは十分に確保しにくく、日光が肌に当たることで体の中でも作られます。ビタミンD不足が続くと、骨の代謝が乱れて骨密度が下がりやすくなり、長い目では骨粗鬆症につながる可能性があります。筋力低下やふらつきとも関連し、年齢を重ねたときに転倒が増え、骨折につながりやすくなります。
では、ビタミンDのために日焼け止めをやめるべきかというと、そういうわけではありません。実生活での日焼け止め使用だけで血中ビタミンDが大きく下がりすぎることは少ないとされています。問題は屋外に出ない・露出が極端に少ない生活が続くことです。そこで、肌を守りながらビタミンDを不足させない工夫として、日焼けしない範囲で短時間でも屋外に出る習慣を確保しましょう。
目安として午前10時〜午後4時の間に、顔・腕・手・脚などへ5〜30分程度、週2回以上の日光に当たることが挙げられています(※季節や露出面積で必要な時間は変わります)。
睡眠不足・睡眠過多は“やめとけ”→短すぎても、長すぎても、認知機能低下のリスク
睡眠は疲れを取るだけではなく、脳と体を整えるメンテナンスのための時間でもあります。寝ている間に記憶の整理や情報処理が進み、自律神経やホルモンのバランスも整いやすくなるため、睡眠が乱れると日中の集中力・気分・判断力に影響が出やすくなります。
注意したいのは、睡眠が短すぎても長すぎても、将来の健康リスクと関連が示されている点です。睡眠が短い状態(例:6時間未満)が続く方では、認知機能低下や認知症リスクと関連する報告があります。
一方で、長時間睡眠(例:9時間以上)でも同様にリスクと関連する報告があり、長く寝れば安心とは言い切れません。睡眠時間が極端になることは、認知症だけでなく、糖尿病・心血管疾患・脳卒中・死亡リスクなどとも関連が示されることがあります。
対策としては、まず普段の睡眠を7〜8時間に近づけましょう。昼寝は20〜30分までにして遅い時間は避け、布団に入って15〜20分経っても眠れなければいったん寝床を出て静かに過ごし、眠気が出てから再び寝床に入りましょう。起床時間はできるだけ毎日そろえると良いです。
平日の睡眠が短い人は、週末の+1〜1.5時間程度の寝だめも対策の一つです。睡眠が短い方では、適度な寝だめは、高血圧・糖尿病などの併存や認知症リスクを減少させる可能性があります。一方で、長時間睡眠が続く場合は、睡眠の質の低下や気分の不調など背景の問題が隠れていないか(睡眠時無呼吸、うつなど)注意が必要なため、医療機関で相談しましょう。
老年科の医師が教える“3大やっとけ”
■口腔ケア
口の中の細菌や炎症が増える歯周病は、誤嚥性肺炎やフレイル、認知症、糖尿病、心疾患、脳血管疾患などのリスクとの関連も報告されています。毎日のケアは、1日3回を目安に、歯ブラシ+歯間ブラシ(またはフロス)で汚れを落とし、乾燥がある方は保湿や洗口液も取り入れると良いでしょう。
■目と耳のチェック
見えにくさや聞こえにくさは、フレイルや認知機能の低下とも関連が指摘されています。見えにくさがあるとつまずきやすくなるだけでなく、外出が減って体力が落ちやすくなります。眼鏡の度数を合わせ直し、白内障など治療できる原因がないかも確認しましょう。聞こえにくさも会話が減り、人と会うのがおっくうになりがちです。耳垢の除去に加えて、補聴器は聞こえ方に合わせて調整しながら使いましょう。
■帯状疱疹ワクチン
帯状疱疹は、発疹が治った後も痛みが長引く帯状疱疹後神経痛(PHN)が問題になりやすいです。帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹とPHNの予防を目的に接種を検討したいものですが、ワクチン接種と認知症や心筋梗塞、脳卒中のリスク低下との関連を示唆する報告もあり、プラスの効果が期待できるかもしれません。
【答えてくれた先生】
林良典
総合診療特任指導医/総合内科専門医/老年科専門医/認知症専門医・指導医/在宅医療連合学会専門医・指導医/日本緩和医療認定登録医
荏原ホームケアクリニック
※所属は2026年4月現在








