「健康のために運動しなきゃ」と思いつつ、仕事や家事に追われてまとまった時間が取れない、という人は多いのではないでしょうか。しかし、いきなりランニングや筋トレなどのハードな運動を始める必要はありません。1日の歩数が7000〜8000歩前後に達すると、死亡リスクが大幅に下がることが分かってきました。必要なのは、日常の動きを少しだけ増やすこと。本記事では、整形外科医として診療に携わりつつ、医学論文に基づいた情報発信を積極的に行っている歌島大輔氏が、歩数と長寿の関係をデータをもとに解説。時間がなくても無理なく歩数を伸ばすステップを提案します。
※本稿は、歌島大輔著『科学的に証明された 突然死を招く習慣・長生きする習慣』(高橋書店)より一部抜粋・編集したものです。
まずは歩数を数えること
「運動しなきゃと思っているけど、なかなか続かないんです」――こうした声を、私は何度も聞いてきました。
そこで私が提案するのが、まずは歩数を数えること。そして、ランニングや筋トレを始めるより前に、歩くこと。これがもっとも再現性の高い長寿戦略です。
近年は、スマートフォンや加速度計で、歩数を客観的に追えるようになりました。アメリカで行われた加速度計による追跡調査では、1日の歩数が多い人ほど死亡率が低いことがわかっています。とくに、8000歩に達すると、死亡リスクが大きく下がっています。[1]
また、別の研究では7000歩前後を境に死亡リスクが大きく下がると報告されています。[2]
これは、いわば「健康の分岐点」です。
特別な才能も道具もいりません。必要なのは、日常の動きを少しだけ増やすという発想です。
歩くことは、心臓や血管、さらには脳の働きにも効果的です。歩いてふくらはぎが動けば、足の静脈の血液を心臓へ押し戻す「筋ポンプ」が働き、血流のよどみが減ります。
座りっぱなしが長い現代人にとって、歩行は血流をリセットするもっとも手軽な方法です。
最初は「プラス1000歩」を目標に
スマートフォンのヘルスケア機能や歩数計アプリで、直近1週間の平均歩数を見てください。それがもし4000歩なら、いきなり7000歩をめざすより、まずは5000歩を目標にする――こうした「現実的なステップ」を踏むことが、続けられる人に共通する特徴です。
私の外来ではよく、「まずは今の平均プラス1000歩」を合言葉にしています。
1000歩は、だいたい10分前後歩くことに相当します。これなら仕事の合間やちょっとした移動でできますし、体への負担も小さくすみます。
これを2週間〜1か月続けたら、さらに500〜1000歩プラスします。こうして段階的に7000歩に近づいていくのが安全で確実です。
次に、私がよくおすすめするのは、食後に歩くこと。
朝・昼・晩の1回で良いので、食べたあとに近所を一周する――これだけで血流が上がり、1日の歩数も安定して増えます。平日が難しければ、週末に少し長めの散歩を取り入れることで、週全体の歩数が底上げされます。
また、歩数は、運動の時間をわざわざ確保するよりも、移動そのものを運動として取り入れたほうが増えやすいというのもあります。
たとえば、最寄り駅の一つ手前で降りてみる、エスカレーターではなく階段を使う、通常より5分ほど遠回りして帰る――こうしたちょっとの工夫です。さらに、音楽やラジオを聴きながら行うと、習慣になりやすくなります。
実際に、通勤や移動を、歩いたり自転車に乗ったりといったものに変えると、車や電車、バスだけよりも、将来的に心臓や血管の病気になるリスクや死亡のリスクが低くなることがわかっています。[3]
どうしても時間が取れない人は、「歩きに強弱をつける」という方法もあります。
たとえば、横断歩道を渡るときだけ少し早歩きする、散歩や帰宅の際に最後の坂道だけペースを落とさずに進む――そんなちょっとしたスピードアップです。
こうした工夫で心肺への刺激が増え、短時間でも達成感を得られます。
無理せず「ゼロを一歩に変える工夫」を
ひざや腰が痛い、持病があって歩行が不安、という方もいるでしょう。その場合は歩数にこだわらず、主治医やリハビリの専門家と相談しながら、負担の少ない運動に置き換えてください。
たとえば、エアロバイクや水中歩行は、関節への衝撃を減らしつつ心肺を動かせます。また、靴を見直してみたり、痛みがある日は歩く距離を減らしたりなど、体の声も大切にしてください。
「今日は歩けなかった」と落ち込む必要もありません。7000歩は毎日のノルマではなく、長く生きるための目安です。雨の日は室内で足踏みを3分×数回行う、買い物ついでに店内を一周多く回ってみるなど、まずは「ゼロを一歩に変える工夫」から始めましょう。
なお、歩行中に胸の痛み、強い息切れ、めまい、冷や汗などが出る場合は、無理をせず中止し、医療機関に相談してください。安全に続けることが、結局はいちばんの近道です。
[1] Saint-Maurice PF, et al. JAMA. 2020;323:1151-1160.
[2] Paluch AE, et al. JAMA Netw Open. 2021;4:e2124516.
[3] Celis-Morales CA, et al. BMJ. 2017;357:j1456.







