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身体圏研究とは何か? 立命館大学が目指す「次世代研究大学」への道

西山昭彦(立命館大学客員教授)

2026年09月02日 公開

身体圏研究とは何か? 立命館大学が目指す「次世代研究大学」への道

2026年、財務省が公表した「私立大学250〜400校程度削減資料」。ただでさえ私立大学の半分弱が定員割れの現状にあって、大学はどうすれば生存できるのか。立命館大学が活路を切り開いた「次世代研究大学」のコンセプトと実践を例に、解決策を考える。

※本稿は、西山昭彦著『立命館の快進撃』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

 

採択率18.7%の文科省事業

文部科学省の「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業」(J-PEAKS)の応募数は、令和5年度が69大学、6年度が65大学で、そのうち計25大学が採択され、採択率は18.7%という狭き門であった。

採択25大学のうち、多くは国公立大学で、私立大学は4校にすぎない。しかも、うち2校は医学部を有し、1校は公設民営で、立命館大学は、医学部なしの私立大学である。研究の中身は、大学の強みであるスポーツ健康科学を核とする「身体圏」という新学術領域の創生に挑戦するものだ。

滋賀県の立命館大学びわこ・くさつキャンパスにおいて、新施設「立命館先端クロスバースイノベーションコモンズ」(通称:CVIC=シービック)に、多重環境を生み出す設備群と、多重環境介入による生体・心理への影響を測定する計測装置群をそろえて身体圏研究を推進することで、誰もがありたい自己を実現でき、ウェルビーイングを追求できる公平な社会の実現を目指している。

2026年5月15日、このCVICのオープニングセレモニーが小林茂樹文部科学副大臣、浮島智子衆議院議員、三日月大造滋賀県知事、文部科学省局長ら多くの来賓を迎えて開催された。立命館大学はこのJ-PEAKS、CVICで具体的に何を目指しているのか。オープニングセレモニーで基調講演を行った本事業の責任者である伊坂忠夫副学長(兼立命館中学校・高等学校校長)の話を紹介する。

 

300名を超える博士を出したい

伊坂忠夫・立命館大学副学長伊坂忠夫・立命館大学副学長

【伊坂】われわれはJ-PEAKSに申請をしたときに、大学として研究力改革、博士力改革、社会実装力改革、財政力改革、この4つを好循環させるモデルをつくり、他の大学にもこれを使っていただくことを考えました。

研究力改革とは、身体圏研究はもちろん、大学全体の研究を紡ぎ上げながら、それぞれの分野で研究成果を高め、加えて総合知を高める研究にもつなげ、次世代研究モデルを発信できるようにするものです。その中で重要になるのは、博士力です。本学の年間の博士号授与は今150名弱ですが、10年後には300名を超える博士を出したい。

その際、学際性、社会実装力、アントレプレナーシップを持った博士として送り出すことが大切です。博士が社会共生価値を生み出しながら、スタートアップや企業の中でいろんな取り組みを行い、大学も支援する。投資ファンドを一定程度入れ、規模が大きくなっていけば、財政力の強化にもつながります。

この好循環を目指した象徴的な試みの1つとして、身体圏研究を大学改革の柱にしました。

 

多重環境化社会がやってきた

【伊坂】約20年前の狩猟・採集の時代から、1万年前の農耕時代、そして250年前の工業化。ここまでの地球にはリアルな世界しかありませんでした。ところが、情報化社会が到来してインターネットが盛んになり、仮想空間が使えるようになりました。

多重環境と呼ばれるSociety 5.0の時代には、リアルとサイバーが相互に融合して様々なことが可能になります。マイノリティの方や障害のある方も制約なく社会とつながりができ、新しいサービスが提供できるでしょう。

人類史的に非常に大きな転換点が急速に迫っており、同時に生まれる課題を解決すべき使命を持っている。その中で、われわれは人のあるべき姿として、ウェルビーイングに注目した身体圏研究を進めてきました。

身体圏研究というのは、人の身体と心がリアルやサイバー、人間関係も含めた外部環境においてどのような影響を受けるのか。どんな刺激を与えれば、人間は自分を高められるのか。真ん中にリアルな身体を置きながら、外部環境への介入やオペレーション(操作)の可能性を探ることで、人間の内部についての探究も可能になります。それらを精細に調べるため、このCVICという施設にはMRI(核磁気共鳴画像法)装置や睡眠の状態を調べる計測装置などが備わっています。

つまり、身体を中心に据えて外部環境から内部環境までを一体的に捉えるという意味で、身体圏というネーミングにしたわけです。当然、一大学のみではできませんので、連携・参画機関やその他多くの組織、人々とともに研究を進めたいと考えています。

 

認知症の予防・改善、防災にも

基調講演のあと、さらに詳しく聞くため伊坂副学長にいくつか質問してみた。

【西山】J-PEAKSの採択で私立は4大学だけと少なかったわけですが。

【伊坂】理由としては、ほかにも科研費やそれ以外の大型プロジェクトがいくつか採択されており、国に立命館の実績をきちんと見ていただいた、ということがあります。代表的な事例では、センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム採択(10年後を見通した革新的な研究開発課題を特定し、革新的なイノベーションを産学連携で実現するため、基礎研究段階から実用化を目指した産学連携による研究開発を集中的に支援するプログラム)が挙げられます。

立命館大学が真面目に30年、蓄積してきた研究成果を表現でき、単に研究力を高めるだけではなく、社会実装につなげて価値を生み出し、世の中に貢献するという点を目指しました。加えて大学の研究群といいましょうか、J-PEAKSにSがついているのがポイントで、われわれ単独ではなく峰々を形成するため、他大学を巻き込み、その力を日本の研究力を高める起爆剤にしたいという思いがありました。

【西山】5年後の将来イメージで、こんなこともできそうだというものはありますか。

【伊坂】1つは、認知症の予防・改善に向けた取り組みです。シニアの方が、没入体験などの多重環境に置かれた際、普段は得られない刺激が与えられることで、脳の神経活動がより活発になって認知症を遅らせたり、予防・改善につなげたりできれば、これほどいいことはありません。

もう1つは、防災です。バーチャル空間では突如、道に穴ぼこがあくような映像や、非常時の刺激も体験できます。1人ではなく集団で体験できるので、安全な防災訓練も実施可能です。しかも繰り返し同じ状況を再現することができます。

ほかにも子供の発育や発達支援、サイバーを利用した遠距離でのつながりの創成など、いずれも分断や格差でなく、共生や平和に向かう世界の醸成という方向性に持っていきたいと思っています。

プロフィール

西山昭彦(にしやま・あきひこ)

立命館大学客員教授

立命館大学客員教授

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