(写真提供:立命館大学)
少子化で大学経営は困難な局面を迎えている。私立大学のうち、定員割れの大学は59.2%(2024年度入学者)と半分を超えた。大学の経営を支える「愛校心」をめぐり、立命館大学客員教授の西山昭彦氏が近著『立命館がすごい』より解説する。
※本稿は、西山昭彦著『立命館がすごい』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。
伸びる要因は外部との交流
元大学幹部の方が、「立命館大学が伸びる要因は他とつながり、連携して新たなものを生み出すところ」と言う。
「産学官連携、国際交流、父母・校友とのつながり、さらには大学と事業会社との連携など、大学の自前主義的なところを超えて、外の力をうまく巻き込んできた。そこに職員が果たした役割が大きい。その意味でも多くの職員が外に出て、いろいろな空気を吸って、学内に持ち込んでくれることを強く願います」。
組織とは人が作ったもので、人工的なものだ。常に市場とは差が生まれる。だから、組織が市場ニーズに合うように人工的なものと市場とのギャップを埋める努力が常に必要である。それには元幹部の方の指摘のとおり、組織外との接触を増やして市場の息吹を内部に還流するのが有効だ。
母校への寄付と死亡時の遺贈
大学生活は4年間でも、その後の人生は何十年もある。一般に、自分を育ててくれた母校への愛は年齢とともに高まる。おそらく、大勢の年配のOB・OGが『母校に何か貢献したい』と思っているはずだ。この思いを大学が引き出す仕組みが必要だ。立命館の先輩が学生のキャリアサポートをするCA(キャリア・アドバイザー)制度もその1つだが、学生の志望企業の就職相談に乗れる人は、一部に限られる。
そこで思いを持つ誰もが参加できるのが、母校への寄付である。
人生が充実していたと感じる人は、これまで過去に関わった人や組織への感謝の気持ちを持つ。そのなかで、誰もが参加できるのが寄付である。立命館も常に寄付を呼びかけており、多くの厚意をいただいている。さらに寄付を増やすために2つ、方法がある。
1つは、確定申告のサポートである。大学への寄付金の税額控除制度を利用するには確定申告が必要だが、毎年申告していない人にとっては手続きがネックになる。この作業を支援する仕組みの提供だ。
もう1つは、死亡時の遺贈である。生きている間は高額の寄付はしなくとも、高齢になり、たとえば「自分が亡くなったら、母校に100万円くらいは寄付したい」と思う人は相当数いるだろう。
しかし、同じく手続きがネックになる。事前に書類を作るところから執行まで、ワンストップでできるサービスが必要だ。民間で手続きを代行しているところもある。大学でサービスを提供し、卒業生に事前に手続きをしてもらえれば、毎年の総額は大きなものになる。
大学に高額寄付をしてくれた方の銘板を作ることも大事だ。遺贈は何か貢献したい、残したいという気持ちがベースにあるので、名前を残すことはそれにダイレクトに応えることになる。一橋大学本館の入り口や同窓会の掲示板には、だいぶ前から寄付した人の銘板が設けられている。
同窓会のホームぺージに「仕事110番」の設置を
学生、若年社員は中高時代に個別指導塾で指導を受け、また大学でもキャリアカウンセラーとの個別面談で助けてもらっていた人が大勢いる(立命館では年間2万回を超す)。
しかし、会社のなかでは相談しにくい場合が多い。まず相手が忙しいのもあるし、上司は人事考課者であるので弱みを見せたくない。転職相談なら、社内では無理だ。社外の信頼できる人に相談できればと思っている。他方、長年企業、官庁等で働き、60歳、65歳で定年になった方で、まだまだ社会に貢献したいと思っている方は多い。同窓会が相談員を募集したら、多岐にわたる経歴の方々が志願してくれるだろう。それをつなぐのが「仕事110番」だ。
同窓会ホームページの1ページ目にバナーを作る。そこをクリックすると、志願した方の経歴や得意の相談項目などが一覧になっている。自分の業界や悩みに合いそうな人にアプローチする。安い時給でいいし、半額を同窓会が補助してもいい。相性がよければ、継続的なメンターになる。ホームページが両者仲介のプラットフォームになる。同窓会への帰属意識も高まる。
なお、これを一同窓会のみならず、もっと大規模に企業の連合体や経済団体で行えば、日本の人材育成の大きなフレームになるのではないか。