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鍵山秀三郎の「ビジネス幸福論」/日本伝統の価値観を大事にしよう

鍵山秀三郎(NPO法人「日本を美しくする会」相談役)

2013年07月11日 公開 2022年12月01日 更新

ヒュースケンの言葉

現在の日本はさまざまな危機に瀕しています。そのなかで日本人が考えないといけないことがあります。まず、日本人は、日本人として日本に住んでいることがどれだけ幸せなことであるかということを知らなければいけない。私はそう思います。

何かと自国に文句を言う人も多いですが、本気で海外移住を考えている人はほとんどいません。やっぱり日本が一番です。だとしたら、この住みやすい幸せな国を、自分たち国民が自分で守ろうという意識にならないといけない。

いくらアメリカが自由な国だと言っても、アメリカ人にはなれないし、憧れてはいてもやはり日本人が知る日本のよさを超えるものではないでしょう。 

昔と比べると、日本は住みにくい国になりました。それは自分さえよければいいという欧米の風潮が入ってきたからかもしれません。それでも、まだ、秩序が保たれて、礼儀正しく、他者への配慮がよその国より桁違いに行き届いています。

グローバルという言葉が盛んに叫ばれている。その影響でつい日本もアメリカと同じ基準で物事を考えるべきだとかやらなければいけないという発想になるわけです。しかし、同じ基準など適用できるはずがないのです。

何しろ向こうは日本の25倍も国土があって、人口は2.4倍しかいない。ということは、1人当たりの土地の面積は約10倍もあるわけです。しかも資源はある。

そういう国と日本が同じ基準でいいわけがありません。特に日本は国土が狭いだけでなく、ほとんどが山で人間が使える土地というのは少ないわけです。

だからこそこの貴重な土地を日本人は財産として扱い、土地に独自の愛着やよりどころを見出していたのです。現在は、この土地はいくら利益を生むかといった生産性によってのみ価値があると考えられていますが、ほんとうは違った価値観だったのです。

土地だけではありません。会社というものに対しても、アメリカ人と日本人では価値観が違います。アメリカ人などは会社とは自分の道具だという感覚を持っています。

日本人でもそうした感覚を持っている人が増えたとはいえ、われわれ日本人はやはり、会社は道具であるという考え方をしていない人が多数派だと思うのです。どちらかといえば会社はまさに愛着のある土地、もしくは田んぼみたいな存在でしょうか。

昨今はアメリカ人のプラグマティズムがもっともらしく吹き込まれたために、日本人の精神が弱体化されたり、変えられてしまったのではないかという気もします。

幕末、日本に来た初代総領事ハリスの通訳ヒュースケンが書き残した文章に、「日本のこのすばらしい文化がやがて西欧化されることによって失われることが非常に残念だ」という趣旨の表現があったといいます。

  

歴史を知り、恥を知る

物の見方も変わりました。成果主義という言葉がありますが、今の日本は結果を重視するようになりました。別の言い方をすれば、プロセスを無視、もしくは軽視するようになりました。

たとえば、昔の日本は、自分の代でできなければ子どもの代で、子どもの代でできなければ孫の代でといった長期的ビジョンがありました。

ところが、今は何が何でも結果を自分が見て、自分が手にしなければ、成功したとは言わなくなりました。こうした風潮は、行動を短絡的なものにして、何のためかという原点を忘れさせているように思います。

だからこそ、私はたびたび申し上げてきましたが、歴史の大切さを説くのです。歩んできた道があって、自分がここにいるということを知る。歴史を知ることはつまり物事の根っこを知っているということ。これは大事なことです。

そのことと、昔から言われているように日本人ならば、人が知っていようがいまいが、自分の良心に恥じない行いに徹することが大切です。孟子の言葉で言うと、「俯仰天地に愧じず」です。

昔の武士の価値観では、恥をかくことは命を失う以上に恐れるべきことでした。自分が恥をかかされているのに、羞恥心がない人物は人に非ずというぐらいの気持ちです。

ところが政治家の保身は今に始まったことではないですし、最近は教師や警察官などの聖職とされる仕事でも不祥事や不行状なふるまいが聞かれるようになってしまいました。

社会全体が日本伝統のよい価値観に貫かれていたら、みっともない行動をする人は減るのです。私は根源的に社会を変えたい。だから最前線でそういう活動をしています。

しかし、残念ながら、文部科学省も学者も理屈をこねるだけで、私の地道なやり方に対して何の理解も見識も示さないままなのです。

 

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