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鍵山秀三郎の「ビジネス幸福論」/日本伝統の価値観を大事にしよう



2013年07月11日 公開

鍵山秀三郎 (「日本を美しくする会」相談役)

《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2013年7・8月号 Vol.12より》

 

対策の前に土台の精神を

 新しい政権の経済政策がよろしく、早くも一種の楽観論が巷にはあふれていますが、私はつくづく日本はおめでたい国だと思えてなりません。かつて日本は、バブル崩壊で致命的な打撃を受けました。しかし、その反省を忘れるのもあまりに早く、薄ら寒い感じすらします。もしかしたらこの政策で、ミニバブル、あるいは最後のバブルと言われるものが起きるかもしれないという雰囲気がありますけれども、たとえ一時的には起きたとしても、それは真の力ではないのです。ほんとうの力を蓄えるにはやっぱり時間がかかるということを忘れてはいけません。

 まずそれには、明治維新のときのように、日本人としての精神の土台がきちっとしなければならないと思うのです。土台をおろそかにしたまま、いくら策を講じても、はかないものです。

 私のところには金融機関の方が来られますが、なかには、日本が非常に危険な道を走っているという認識をされている方もある。そうなってほしくないけれども、一歩間違うと、ほんとうに前のバブルの崩壊どころではなく、国の破綻の恐れすら出てきています。国内の金融機関の国債保有高は500兆円を超えています。もし金利が上がればその価値が下がり、膨大な損失を計上しなくてはいけなくなる。そうするとどうなるか。銀行の自己資本比率が下がってしまうので、それを引き上げるために多くの企業に貸しているお金をいっせいに回収しようという動きが始まることになってしまいます。

 そんな悪いシナリオに事が運ぶと、本来生き延びていく可能性があった企業がバタバタ倒産することもありえるのです。場合によっては予期せぬ企業まで倒産していくかもしれない。これまでは日本銀行がお金を出すことによって支えられる程度で済んだからよかったけれども、もっと桁の大きいことが起きてしまえばどうなるのか。私はいたずらに憂えているのではなく、憂うべきを憂えているのです。
  

政府や官僚が避けていること

 健全な政治がなされているならば、ほんとうはどんな政策が国民に対して提示されているでしょう。私は国会が本物の政治家たちの集まりであれば、きっとこんなことを国民に語りかけていたのではないかと思うのです。

 「国民の皆さん、日本の国のためにここで3年、辛抱してください。そしてみんなでこの国を守りましょう。そのかわり、国会議員を半分にします。政党助成金も返上します。国会職員ももっと減らして、参議院もなくして、市町村の議員も半分にしてしまいます。まず政治家である自分たちの職域から実行していきます。だから皆さん、私たちと同じように身を切る努力をよろしくお願いします」

 このような要望をきちんと声をそろえて言えば、日本人はやりますよ。国会議員を減らすことについて国民はだれも反対する人はいない。参議院をなくすと言ったって、反対しないでしょう。

 日本企業はこのような本質的な改革を実行してきています。ところが政府や官僚たちがやっていない。
  

ヒュースケンの言葉

 現在の日本はさまざまな危機に瀕しています。そのなかで日本人が考えないといけないことがあります。まず、日本人は、日本人として日本に住んでいることがどれだけ幸せなことであるかということを知らなければいけない。私はそう思います。

 何かと自国に文句を言う人も多いですが、本気で海外移住を考えている人はほとんどいません。やっぱり日本が一番です。だとしたら、この住みやすい幸せな国を、自分たち国民が自分で守ろうという意識にならないといけない。いくらアメリカが自由な国だと言っても、アメリカ人にはなれないし、憧れてはいてもやはり日本人が知る日本のよさを超えるものではないでしょう。 

 昔と比べると、日本は住みにくい国になりました。それは自分さえよければいいという欧米の風潮が入ってきたからかもしれません。それでも、まだ、秩序が保たれて、礼儀正しく、他者への配慮がよその国より桁違いに行き届いています。

 グローバルという言葉が盛んに叫ばれている。その影響でつい日本もアメリカと同じ基準で物事を考えるべきだとかやらなければいけないという発想になるわけです。しかし、同じ基準など適用できるはずがないのです。何しろ向こうは日本の25倍も国土があって、人口は2.4倍しかいない。ということは、1人当たりの土地の面積は約10倍もあるわけです。しかも資源はある。そういう国と日本が同じ基準でいいわけがありません。特に日本は国土が狭いだけでなく、ほとんどが山で人間が使える土地というのは少ないわけです。

 だからこそこの貴重な土地を日本人は財産として扱い、土地に独自の愛着やよりどころを見出していたのです。現在は、この土地はいくら利益を生むかといった生産性によってのみ価値があると考えられていますが、ほんとうは違った価値観だったのです。

 土地だけではありません。会社というものに対しても、アメリカ人と日本人では価値観が違います。アメリカ人などは会社とは自分の道具だという感覚を持っています。日本人でもそうした感覚を持っている人が増えたとはいえ、われわれ日本人はやはり、会社は道具であるという考え方をしていない人が多数派だと思うのです。どちらかといえば会社はまさに愛着のある土地、もしくは田んぼみたいな存在でしょうか。

 昨今はアメリカ人のプラグマティズムがもっともらしく吹き込まれたために、日本人の精神が弱体化されたり、変えられてしまったのではないかという気もします。

 幕末、日本に来た初代総領事ハリスの通訳ヒュースケンが書き残した文章に、「日本のこのすばらしい文化がやがて西欧化されることによって失われることが非常に残念だ」という趣旨の表現があったといいます。
  

歴史を知り、恥を知る

 物の見方も変わりました。成果主義という言葉がありますが、今の日本は結果を重視するようになりました。別の言い方をすれば、プロセスを無視、もしくは軽視するようになりました。

 たとえば、昔の日本は、自分の代でできなければ子どもの代で、子どもの代でできなければ孫の代でといった長期的ビジョンがありました。ところが、今は何が何でも結果を自分が見て、自分が手にしなければ、成功したとは言わなくなりました。こうした風潮は、行動を短絡的なものにして、何のためかという原点を忘れさせているように思います。

 だからこそ、私はたびたび申し上げてきましたが、歴史の大切さを説くのです。歩んできた道があって、自分がここにいるということを知る。歴史を知ることはつまり物事の根っこを知っているということ。これは大事なことです。

 そのことと、昔から言われているように日本人ならば、人が知っていようがいまいが、自分の良心に恥じない行いに徹することが大切です。孟子の言葉で言うと、「俯仰天地に愧じず」です。昔の武士の価値観では、恥をかくことは命を失う以上に恐れるべきことでした。自分が恥をかかされているのに、羞恥心がない人物は人に非ずというぐらいの気持ちです。

 ところが政治家の保身は今に始まったことではないですし、最近は教師や警察官などの聖職とされる仕事でも不祥事や不行状なふるまいが聞かれるようになってしまいました。

 社会全体が日本伝統のよい価値観に貫かれていたら、みっともない行動をする人は減るのです。私は根源的に社会を変えたい。だから最前線でそういう活動をしています。

 しかし、残念ながら、文部科学省も学者も理屈をこねるだけで、私の地道なやり方に対して何の理解も見識も示さないままなのです。

 

鍵山秀三郎

(かぎやま・ひでさぶろう)

NPO法人「日本を美しくする会」相談役

1933年東京生まれ。1952年疎開先の岐阜県立東濃高等学校卒業。1953年デトロイト商会入社。1961年ローヤルを創業し社長に就任。1997年社名をイエローハットに変更。相談役を経て、現在はNPO法人「日本を美しくする会」相談役。著書に『掃除道』『鍵山秀三郎「一日一話」』(ともにPHP研究所)など多数がある。


<掲載誌紹介>

『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2013年7・8月号 Vol.12

<読みどころ>
 7・8月号の特集は「哲学ある人づくり」。

「企業は人なり」というとおり、企業が発展するも衰退するも人材次第、ということに疑問をはさむ余地はない。とはいえ、その人材とはどんな人材のことをいうのだろうか。単にビジネススキルの優秀さのみを指すわけではなかろう。
 本特集では、長年人づくりに情熱を傾け、独自の人材育成哲学を持つ注目のリーダーの取り組みと、こだわりの教育システムを確立している企業の事例を取り上げた。

 そのほか、松下幸之助のそばに28年間仕え薫陶を受けた、PHP研究所客員の岩井虔による講演録や、「代々初代」の心持ちで経営をする兵庫県・新宮運送の理念継承の事例も、読みどころ。
 また、朝倉千恵子氏による人気連載・最終回も、ぜひお読みいただきたい。

☆おしらせ☆ 当サイトの『PHPビジネスレビュー』紹介ページで、最新号の特集に掲載された全ての記事の冒頭部分をお読みいただけます。ぜひご覧ください。

 

 

BN



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