「強い人にしがみつく道もある」真空ジェシカ・ガクさんの“弱さ”を受容する生き方
苦手なことには向き合うべきか、避けてもいいのか。M-1グランプリで5年連続決勝に進出した真空ジェシカのガクさんは、「強い人を見つけ、その人にしがみつき、生きていくという道もあるんじゃないか」と話します。初エッセイ集『饅頭以外ぜんぶこわい』(新潮社、10月28日発売)で日常のあらゆる怖さをつづったガクさんに、逃げることを繰り返してきた半生と、「相手ベース」だというコミュニケーションについて聞きました。
※全3回の1回目です
軸を持たずに、そのときの温かみを求めて
――初のエッセイは怖いものがテーマで、引越しが苦手だったり、運動神経が悪かったりということを包み隠さず書かれていました。一方で、読み進めると、運動部でいじめに遭うこともなく、人間関係の面では良好に人生を歩まれてきたのではないかなと感じさせられます。実は世の中をすり抜ける力や、生き延びる術がある印象を受けたのですが、ご実感はありますか?
【ガク】どうなんだろうなぁ。すり抜けてはいないですけど、中学時代に友達がいなくて、みたいな話も書いていて。多分、中学時代がめっちゃ嫌だったから、高校でそうならないようにしたのは、それにあたるかもしれませんね。
――鮮やかな高校デビューでしたよね。
【ガク】でも、ちゃんと一回壁には当たってる気がしますね。
――壁にぶち当たって…。
【ガク】逃げて。を繰り返してるかもしれないです。痛くない、いい気持ちになれる道を探しているかもしれないです。
――なるべく痛くない方に。
【ガク】そうですね。それをどうやっているのかはわからないです。毎回その都度考えています。こうしたらいいみたいなのはないです。今壁にぶち当たっている人に、こうすればいいみたいなのは…。
――アドバイスは、ない。
【ガク】はい。そのときに考えないといけません。
――ガクさんはご自身がどういう人間かを理解されているような印象も受けました。何か軸や大切にしていることはありますか?
【ガク】軸を持たない、というか。その場の温かみを求めて。
――温かみ。
【ガク】そのときの適温に体を向けていくというか。今凍える思いをしてまで、その先にある温かさ、天国を探しに行かない。自分の軸を成り立たせるためにつらい思いをすることはしないです。
まあ、多分、最終的なことを考えると、軸はあった方が絶対にいいんですけど。一旦僕は一番ぬるいところに行こうとしているかもしれません。
――そうなんですね。ガクさんの中で、一番壁を乗り越えたなという時期はありますか?
【ガク】壁を乗り越えた出来事は、学生時代ですかね。今の方がぬるいかもしれません、生き方として。昔の方が、くぐり抜け方も分かっていないんで。中学から高校に行くときとか、高校の部活とかもかなりしんどかったです。運動ができないのにやらなきゃいけないっていう。
――ゴルフ部とハンドボール部ですよね。
【ガク】ゴルフ部は全然辛くなかったです。かなり楽しかったです。
ハンドボール部の方は、ちゃんと運動部だったんで大変でした。その3年間があったから、運動に諦めがつくとか、そういうので徐々に苦労しなくなっていってるかもしれないですね。自分にできないことをわかって選べるようになるまでが辛かった。
強い人を見つけ、その人にしがみついて生きていってもいい

――先ほど、「壁にぶつかっている人にアドバイスを求められても…」とおっしゃっていましたが、今苦しい状態にいるような人へ向けて強いて言えることは…?
【ガク】何だろうなぁ。無責任に「逃げた方がいいよ」とも言えないですよね。だから僕が言えることとしては、全部やってくれる人を見つけて、その人についていくのが一番楽だよ、っていう(笑)。
――周りに頼む。
【ガク】そうです。強い人を見つけ、その人にしがみつき、生きていくという道もあるんじゃないか。
――ガクさんご自身も、割と強い人にくっついてきましたか?
【ガク】そうですね。お笑いのことに関しては、川北に全部やっていただいて。みんなもそういう人を見つけよう。
――ご自身が逃げて後悔したことや、弱さを見せすぎて失敗したなというご経験はありますか?
【ガク】逃げて後悔……。そんなのはいっぱいあるかもしれないですね。
本当は吹奏楽部とかに入ってみたかった、とか。やってみたかったなということは、いっぱいあるかもしれないです。でも、弱さを見せて後悔、みたいなのはあんまないですね。あんまり見せてないかも。むしろ、もっと見せたいかも。
――もっと見せたいかも、というのは。
【ガク】"センス"みたいな顔を求められるときもあれば、"雑魚"を求められるときもあるんで。僕は自然体にしていたら多分雑魚なのに、「センスがありますよね、その顔を見せてください」という仕事もあったりする。そういうときに、もっとセンスを見せなければよかったと思うときもあります。センスを求められるとセンスみたいな顔をしてしまう、大喜利が強いみたいな顔をしてしまうときがあるので、それはミスったと思います(笑)。
――センスを見せてしまったという実感はあるんですね。
【ガク】あります。今でもそういう顔をしてしまうときがあります。
――求められると、応えようとしてしまうということですか。
【ガク】そうですね。これが求められてるんじゃないかと、過剰に思っちゃうことはあるかもしれないです。
人とのコミュニケーションは相手の出方を見ながら
――エッセイに収録された「インターネットが怖い」の一節は、学生時代にインターネットで知り合った女の子とのお話が書かれていました。甘酸っぱくて素敵なお話でした。初対面の人と話すのが苦手とのことですが、人間関係を築くこと自体はお上手なのかなという印象がありました。いかがでしょうか。
【ガク】いえ、お上手ではないですよ。
この間、この本の話で吉住と対談する機会があって。対談が終わった後に、担当の方が吉住に「こんな楽しそうなガクさんは初めてだ」みたいなことを言っていたらしくて。それを後から吉住から聞いたんですけど、僕としては新潮社の皆さんとかなり打ち解けていると思ってたんです。だから、僕がいけていると思っていても、いけていないこともあるし。
――伝わっていなかった…。
【ガク】はい。やっぱりいまだに、多分そういうのは上手にはできていないんだなと思います。
――そうなんですね。編集担当の竹花さん、今のお話を受けていかがですか。
【竹花】吉住さんとすごく仲がいいんだなっていうことと、多分、周りの方のお気持ちとかをいろいろ考えてくださる方なんだろうなと思っていました。あんまりガツガツいきすぎるのも良くない、みたいな配慮をしてくださってるんだろうなと。
【ガク】ありがとうございます。(小さく会釈)
――人との距離を保っているということですか?相手の出方を窺うというか。
【ガク】そうですね。基本、コミュニケーションは相手ベースかもしれないですね。
――では、相手がグイッと来れば、ガクさんもグイグイいかれるのですか?
【ガク】でもそれも、相手がグイッと行きたい人なのか、こっちのグイを求めて相手がグイッと来ているのか、もあるじゃないですか。「俺がグイッと行きたいだけなんだ」という人もいるんで。合気道じゃないけれど、そういうことはしてしまうかもしれない。どんな人にでも「俺は俺の正拳突きを見せるぜ」とはできないですね。距離を保ちつつ、相手が攻めてこなかったら、僕も出方を伺いながらその場にとどまっている、みたいなコミュニケーションの仕方をしているかもしれないです。
――さらにその裏にあるものを見てしまう、という。
【ガク】そうですね。こっちから攻め込むことが苦手なんで、相手依存にはなってしまいますね。だから、うまくいかないコミュニケーションはうまくいかない。誰とでもうまくいく人とのコミュニケーションしか、うまくできないです、僕。
――誰とでもうまくいくタイプの人に来てもらう。
【ガク】コミュニケーションが上手な人には、僕はコミュニケーションが上手と思われてるかもしれないです。人見知りの人には人見知りだと思われます。
――鏡のようですね。それで言うと、相方の川北さんはグイッと来てくれるんですか?
【ガク】どうなんだろう。まあでも、コミュニケーションは上手い方だと思います。
でも、お互い争いたくないというのがあるんで、いいか悪いかわかんないですけど、摩擦を生まずぬるぬるやってるかもしれないですね。
――ぬるぬると。摩擦が起きそうになったら、うまくかわす。
【ガク】お互いその前で止まります。
――大人な対応ですね。
【ガク】それゆえネタ合わせの回数とかが減っていったりするんで、ミスることもたくさんあります。ネタ合わせって結構ケンカになるんで。
(取材・執筆・撮影:PHPオンライン編集部 片平奈々子)









