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社会

コンクリート崩壊―事故はまた起こるか?

溝渕利明(法政大学教授)

2013年07月30日 公開 2021年02月03日 更新

コンクリート崩壊―事故はまた起こるか?

高度成長期に大量に造られたコンクリート構造物は、建造後40年以上経とうとしているが、本当に安全なのだろうか。

アメリカでは1930年代に数多く造られたインフラが30~40年後に次々と崩壊し「荒廃するアメリカ」と呼ばれた。

日本でも点検を怠ればその轍(てつ)を踏む恐れがあるが、なんと法律では点検は義務化されていない。

コンクリート工学の専門家で、法政大学教授でもある溝渕利明氏はコンクリートが我々の生活の中に深く入り込んでいる状況で、昨日何も起こらなかったから、今日も起こらないとはいえないと警鐘を鳴らす。

※本稿は、『コンクリート崩壊』(PHP新書)の内容を、一部抜粋・編集したものです。

 

昨日起こらなかったことは、今日も起こらないのか

いつものように朝6時に目覚ましが鳴り、起床して布団をたたみ、雨戸を開け、新聞を取ってきて、犬の世話をしながら新聞を読み、朝食ができるのを待つ。食事を済ませて歯を磨き、服を着替えて、7時過ぎに家を出る。

駅まで15分ほど歩き、電車に乗って大学の最寄り駅の1つ手前で降りて、20分ほどかけて大学まで歩いていく。8時30分過ぎには大学に到着し、メールのチェックや講義の準備を始める。

講義や研究などの仕事をこなし、20時前には大学を出て、21時過ぎに家に戻り、風呂に入り、食事をして、少し仕事をするかテレビを観て、0時前には就寝する。

ほぼ毎日この生活パターンを続けている。もちろん、たまに気の置けない仲間や学生たちと酒を飲みに行くこともあるし、学会出張などもあるが、それ以外は大学に移ってから十数年間ほぼ前述した生活パターンを続けている。

行き帰りの電車の中では、いつも同じ車輌、同じ場所に立って本を読んでいる。電車が突然脱線するとか、高架橋が突然崩壊するとか、周囲の建物が突然崩れ落ちるなどと思うことなく、本を読んでいる。

疲れているのだろうか、行き帰りの電車で目の前に座っている人は大抵寝ている。最寄りの駅まで歩いていく間も、突然道路が陥没するなどとは思わず、今日何をしなければならないか、あるいは講義の内容を考えながら歩いている。

電柱が倒れてくることも橋が突然落ちることも考えないで歩いている。電車を降りて、大学まで歩いている間も、突然頭上からガラスが降ってくると思うことなく歩いている。

前述したことは起こりえないとほとんどの人が思って日々の生活を営んでいる。しかし、2012年12月2日、中央自動車道笹子トンネルで突然天井版が落下し、9名の方が亡くなられている。

この事故は、トンネルの付帯設備である天井板を吊り下げていたボルト[コンクリートに穴を空けて接着剤で固定]が多数抜け落ちたのが主な原因であり、トンネル本体のコンクリート自体が崩壊したわけではない。

誰でも何か起こると思って、道を歩くわけでもなく、脱線すると思って電車に乗っているわけではない。それでもJR西日本の福知山線で2005年4月25日に電車が脱線し、107名の方たちが亡くなられている。

私たちは、なぜこのようなことが起こらないと思っているのだろうか。極端なことをいえば、なぜ鉄筋コンクリートでできたビルの床は抜け落ちないのだろうか。いままで床の上に立って抜け落ちたと聞いたことがないから大丈夫だと思っているのだろうか。

昨日起こらなかったから、今日も起こらないとほとんどの人が思っているのは、どんな根拠があってのことだろうか。

パソコンを使っていて、突然動かなくなってしまうことを経験された人は多いと思う。ついさっきまでちゃんと作動していたのにとつい不満を漏らすことは、私も何度かあった。予兆があればなんとか対処できたのにと後から思うことが多い。

でも、いつもと同じパターンで生活しているとそんな予兆の類の些細なことに気が付かず、停止して初めて、そういえば2~3日前から変な音がしていたなとパソコンの異変に気付く。

最初に書いたように、私も含め多くの人たちは、毎日よく似た生活パターンを繰り返していると思う。そして、周囲の異変やちょっとした違いに気付かずに、無視してしまっているのではないだろうか。

朝起きて、家を出た瞬間から目の前にはコンクリートでできたものが溢れている。電柱、道路の側溝、橋、ビル、自分の視野にコンクリートを入れないようにすることはまずできないと思う。

それほどコンクリートは我々の生活の中に深く入り込んでいる。もし、このコンクリートが突然崩壊すれば、文明社会といわれる国々のほとんどが崩壊の危機に曝される、否、崩壊してしまうことになるのである。

こんなことをいうとほとんどの方が何をバカなことをいっているのだと思われるのではないだろうか。確かに極端ないい方かもしれないが、あながちウソというわけでもない。

 

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