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道を踏み外す「社会保障改革」

2011年03月07日 公開

飯田泰之(駒澤大学准教授)

"数少ない「意味ある政策」が……

 あまりの印象の薄さに本誌発売時点では、すでにその事実さえ忘れてしまっていそうだが、1月14日に菅第二次改造内閣が発足した。しかし、死に体といってよいこの内閣において、民主党の経済政策の大きな転換が行なわれようとしている点を見逃してはならない。一昨年の衆院選挙マニフェストで謳った「消費税を財源とする『最低保障年金』を創設し、全ての人が7万円以上の年金を受け取れるようにする」という方針の放擲がそれだ。

 これは、今次の組閣人事の珍事である与謝野馨・経済財政担当大臣の社会保障に関する基本姿勢の丸呑みに近い。民主党の経済政策には問題が多いが、そのなかでこの「税方式最低保障年金」は数少ない意味のある政策であっただけに、残念でならない。

 税方式最低保障年金への批判としてもっとも典型的なものが2010年参院選における、たちあがれ日本のマニフェストであろう。保険料納付なしに年金が支給される税方式について同党のマニフェストは「ただ乗り助長型福祉」と言及している。

 しかし、これはまったくの誤りである。

 日本の年金は基本的に老齢基礎年金・厚生年金・企業年金の三階建てで構成されている。満額で月66,000円の基礎年金は無条件に、そのため必然的に税方式によって、支給されるべきである。

 第一に、基礎年金は高齢者が最低限の生活を営むためにある。したがって、保険料納付が困難であった低所得者にこそ優先的に給付すべきであって、決してその逆ではない。保険料納付期間によって受給資格が制限される制度はその趣旨にそぐわない。

 第二に、現在の基礎年金においても、基礎年金に10兆円の税が投入されている。25年以上保険料を納付した(できた)高齢者に限定して10兆円の税金を分配する根拠はない。

 また、現在の日本の公的年金は、現役世代が支払った保険料を高齢者に移転する賦課方式であることを忘れてはならない。さらに財源の半分は前述のとおり税を財源にしているため、現時点の税構造では現役世代の負担分が大きい。年金制度が現役世代の負担によって成り立っているということは、現行の日本の社会保障は現役世代から保険料を困窮者以外の高齢者に分配しているということになる。

 税方式の困難としては、財源の不足が挙げられることも多い。税方式の最低保障年金には約21兆円の財源が要される。したがって、現行方式からの移行には11兆円の追加財源が要されることになる。これは消費税約6%分に相当する。

あまりに逆進的な制度設計

 たしかに消費税には逆進性がある。低所得者ほど所得のうち消費に回す比率が高いため、実質的な税率が高くなるのである。これは大きな問題であり、今後、日本の税構造に占める消費税を上昇させるならば低所得者への配慮が欠かせない。

 しかしながら、現行の社会保険料方式は消費税どころではない強力な逆進性がある。2010年度の国民年金保険料は月額15,100円である。収入とは無関係の一定額であるから、これは高所得者ほど低負担率になるということにほかならない。これを経済学では一括固定税方式と呼ぶ。一括固定税はもっとも逆進性の高い税方式である。最低限の生活を保障する基礎年金の維持に、もっとも逆進的な税方式を使うことは、じつに矛盾した制度であるといわざるをえない。

 超逆進的な保険料方式からやや逆進的な消費税への移行は、不十分ながら意味のある制度転換といえるのではないだろうか。さらに、裕福な高齢者にも負担を求められるという点で、消費税は社会保障財源として望ましい性質をもっている。

 もっとも、現在の景況で消費税の即時増税をすることには大きな危険性が伴う。その意味で、財源不安論も理解できなくはない。しかし、増税できるのは消費税だけではないはずだ。景況にプラスの影響を与える増税があることを忘れてはならない。

 それが相続税である。相続増税は現時点での消費を促進する。現在、年間80兆円の相続財産が生じるが、対しての相続税収は1兆円にすぎない。配偶者以外への控除枠を廃し、一律で20%の相続税を賦課するならば10兆円近い税収が期待できる。相続増税では不足する分を消費税で補いつつ、それを社会保障財源としていくならば現在もなお、税方式最低保障年金は十分に設計可能なのだ。

 発足以来矛盾の多い経済政策が目立つ民主党政権だが、唯一及第点を得られたかもしれない社会保障についても道筋を踏み外しつつある。超逆進的な社会保険料方式に加え、逆進的な消費税を課す……これでは社会保障制度とは呼べないのではないか?

 民主党要人が一日も早くこの矛盾に気づくことを願ってやまない。

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